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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第23話 2つの異界の魔物

 ――声が聴こえた方へと顔を向けると、そこには無傷の銀の王(しろがねのおう)の姿があった。


 なにやら腕の部分が光っており、魔煌波生成回路のようなものが浮かび上がっている。

 ……いや、あれに比べて曲線が多い。どちらかというと、ルクストリアでシャルロッテの絶霊紋(ぜつれいもん)の副作用――のようなものを知った夜に、チラリと見えたシャルロッテの紋章に似ている。

 つまり……あれは紋章、か?


 そんな事を思っていると、銀の王の姿を見た朔耶とクーが、驚きと困惑の入り混じった声を上げた。

「うええっ!? ど、どういう事!?」

「わ、わけがわからないのです!」


「――転移した? いや、それにしては傷一つないというのがわからんな……」

 俺もまた困惑しつつそう呟く。

 どういうカラクリなのか考えを巡らせたい所だが、残念ながらそんな余地はない。セルマをどうにかしないとまずい。……まあもっとも、取れる手段は1つしかないのだが。


 と、その直後、銀の王の腕の光が消え、それと同時にヴォル=レスク2体が出現。

 更に翼のついたティラノサウルスの骨格標本みたいな奴が出現する。

 あのティラノサウルスもどきは良く分からないが、冥界の悪霊を召喚してきたか。


 召喚された冥界の悪霊を見たリンが、銀の王を見据えて問う。

「なんで銀の王が冥界の悪霊を召喚出来んだ!? 銀の王が召喚出来るのは、混沌界(こんとんかい)邪獣(じゃじゅう)だけじゃないのかよ!?」


 どうやら銀の王は『混沌界の邪獣』なるものを召喚出来るらしい。

 まあ、普通に考えれば異界が冥界しかないのなら、わざわざ『冥界』とはつけないだろうから、他にも異界の類があるだろうとは思っていたが……『混沌界』か。

 こっちもまた、なかなかに物騒な感じの名前だな。


 あまり効果はないとわかっているが、それでも少しは効くなら……と、セルマに対して回復薬を使いながらそんな事を考えていると、銀の王はリンの方へと顔を向け、

「さっき言っただろぉ? 目的を達成するための時間稼ぎだってよぉ」

 なんて事を言ってきた。

 ……って、口調がさっきまでとは完全に別物なんだが……。声はまったく一緒なのに、どうなってんだ?

 

 口調の豹変に関してはよくわからんが、銀の王の目的は冥界の悪霊を召喚出来るようにする事だったようだ。

 ……まあもっとも、この塔の設備を考えると、それだけじゃないんだろうが。

 

「お望みどおり、獣たちを喚んでやるぜぇ。――召喚!」

 そんな事を言い放ち、銀の王が再び召喚を実行する。

 

 サソリのような尻尾とマグマのように赤々と輝く2本の角を持つ巨大なトカゲ、氷のような寒々しい色をした馬の胴体に、紫に近い鳶色(とびいろ)の象の胴体を持つ一ツ目の化け物、ライオンを三ツ首にし、白い翼と黒い翼を片翼ずつ持ち、尻尾がバチバチと放電している獣……と、見た事もない魔物が立て続けに姿を現す。


 こいつらが、混沌界の邪獣とかいう存在なのだろうか? 

 色々な生物が混ざりあって混沌としているというか、生命として邪というか……まさに名前の通りって感じだ。

 

「ちょっ!? これはさすがにまずいよっ!?」

 朔耶が慌てた様子で叫ぶ。

 セルマの事もあるし、たしかにこの状況はまずい。

 

 俺は即座に幽星(ゆうせい)鏑矢(かぶらや)を次元鞄から取り出し、上に向かって放り投げる。

 と、鏑矢は数メートルもせずに消滅した。


 ……特に何も起きないな。と、そう思っていると、

「あん? アストラル通信反応? 救援信号のようなもんか? だが、今の1発だけじゃこの場所を特定するのは厳しい気がするがなぁ?」

 そんな事を言ってくる銀の王。

 ……どうやら、あれだけでは難しそうだ。俺はリンに対して視線を送る。


「おう! なら、こいつも使うぜ!」

 リンが俺の視線の意味に気づき、俺と同じくディアーナから手渡されていた幽星の鏑矢を放り投げる。

 

「ちっ! クロスポイント式での座標送信かよ。用意周到だなぁ、おい。けどよぉ、援軍の到着まで持つかぁ?」

 銀の王が両手を左右に開き、首を左右に振る。

 クロスポイント式? 座標送信? よくわからんが、銀の王のお陰で上手くいったであろう事は理解出来た。

 

「混沌界の邪獣……か。戦場以来だな。戦闘自体はどうにかなるだろうが……」

 と、リンが呟くように言う。

 

 戦場……おそらく、銀の王の軍勢との戦の時の事を言っているのだろう。

 ふむ……戦闘経験があるリンがそういうのなら、戦闘自体は問題ないな。

 あとはセルマか……。果たしてもつのか……

 

「こいつらはどんな奴なんだ?」

 俺がリンにそう問いかけると、そちらからではなく、銀の王の方から反応が返ってきた。

「あ? 知りてぇなら教えてやるよ。そいつがオルドラーサ、んでそっちがクロンガッシャ、最後の奴がカーヴェロスだ。火、氷、雷の邪獣。混沌界の主要属性持ちの三重奏ってな。クハハハハッ! っと、骨の竜はラゾス=ディラードで、戦車がヴォル=レスクな。ま、そっちは知ってんだろーけどよ」


 それぞれを右手で示しつつ笑う銀の王。

 俺は奴の右手が指し示した順に視線を巡らせる。

 

 なるほど、どうやらオルドラ―サがトカゲ、クロンガッシャが一ツ目、カーヴェロスが三ツ首らしい。それと、ティラノサウルスもどきはラゾス=ディラードか。

 しかし、わざわざ律儀に名前を教えてくれるとは思わんかったぞ。

 もっとも……名前がわかった所で、どうにかなるものでもないのだが、まあ覚えておくとしよう。

 冥界の悪霊と同じで、名前が意味不明――つまり、混沌界独自の言語である可能性もあるからな。……まあ、意味のない名前である可能性もなくはないんだが。


 っていうか、名前以外にも気になる点があったな。『混沌界の主要属性』って奴だ。こっちも覚えておこう。


 ――そんな事を考えていると、リンが倒れたままのセルマに対して一瞬視線を向けた後、

「ま、何にせよやるしかねぇな」

 と、そう言い放って即座に盾を構えた。

 俺たちもリンに続く形で、それぞれの得物を構える。

 

 それを待っていたかの如きタイミングで、銀の王が号令を発する。

「もう話は終わりかぁ? そんじゃ……ま、狩りを開始するぜぇ!」

 ……いや、本当に待っていやがったな、こいつ。

 口調だけじゃなくて性格も変わりすぎじゃないか……? 本当にどうなってんだ?


 心の中でやれやれと思った直後、召喚された魔物たちが咆哮を上げ、一斉に動き出す。

 俺たちのいる広間は、朔耶が『とてつもなく広い』と口にした通り、かなりの広さがあるので、この数の魔物がいてもなお自在に動き回る事が可能なのだが、それは逆を言えばあちらも同じであるという事だ。同士討ちは期待しない方がいいだろう。

 まあ、うまくやれば敵の攻撃を別の敵に当てる事は出来るかもしれないが……それを意図的に狙うのは難しい気がするな。

 さて、とりあえず未知の奴らは後回しだ。先に見知ったヴォル=レスクを潰そう。


 そう考え、俺はスフィアをヴォル=レスクへと向ける。

 と、その直後、 

「グルアアアァァァッ!」

 という咆哮が響き、三ツ首ライオン頭の魔物――カーヴェロスが尻尾を持ち上げる。

 そして同時に、尻尾の先端にバチバチとスパークする雷撃球が生み出され、そこから帯状の湾曲する青い雷撃がこちらに向かって放たれた。

 

「甘いっ!」

 リンが俺と雷撃の間に割って入り、盾を構える。


 雷撃が盾に接触する寸前で、盾の表面に光る膜が出現。

 その膜に雷撃が接触した瞬間、耳をつんざくような炸裂音と共に雷撃が消し飛ぶ。

 それどころか、今度は光る膜がバチバチとスパークしていた。

 ……まさか、雷撃を吸収したのか?

 

「んで、こいつをくれてやるぜ!」

 盾を別方向から迫ってきていた一ツ目の魔物――クロンガッシャに向けるリン。

 刹那、盾から青い帯状の雷撃が放たれ、クロンガッシャへと襲いかかる。

 

「ギャギィィィィィィッ!」

 予想外の攻撃だったのか、クロンガッシャは真正面からその攻撃を食らい、大きく仰け反る。

 

「なんだかよくわからんが、すげぇな……今の」

 俺はそんな事を呟きながらも、スフィアの魔法攻撃でヴォル=レスクを1体撃破する。

 

「魔法が使えるなら、属性の明確な攻撃には、こういう事も出来るのさ」 

 俺の呟きが聴こえていたのか、俺に対してそう言ってくるリン。

 

 よくわからんが、反射魔法の類だろうか?

 まあ、反射というよりは、一度吸収した攻撃を任意の方向に打ち返す感じだが。

 

 なんて事を思っていると、攻撃を食らって仰け反ったクロンガッシャに対し、アルが炎のブレスで攻撃を仕掛けるのが見えた。

 ……ん? アルはいるけど、朔耶の姿がないな。

 

 そう思って視線を素早く動かすと、犬狼形態のクーに続く形で走っている朔耶の姿を捉えた。

 

「叩き潰すのです!」

 そんな声と共に、犬狼形態でラゾス=ディラードとかいう骨の恐竜もどきに一気に接近したクーが、人間形態に戻ってハンマーを振るう。

 なるほど、たしかにあいつにはハンマーによる打撃の方が効きそうだな。

 

「オオオオオオッ!」

 ハンマーの直撃を受け、骨の一部が砕けたラゾス=ディラードが、声と言い難い……風の音のような叫びを上げる。

 

「チャーンス!」

 クーに続くようにしてラゾス=ディラードに接近した朔耶が、そんな声を発しながらソーサリーグレネードを発射。

 

 そして、ゼロ距離とまではいかないまでも、かなりの至近距離での発射であったため、即座に着弾。

 ラゾス=ディラードがソーサリーグレネードによって生み出された青い魔法に飲み込まれ、あっさりと砕け散った。……って、弱いな。

 

 と、そう思ったのも束の間、砕け散ったはずのラゾス=ディラードがまるで動画の逆再生の如き動きを見せる。 

「え……!?」

「再生!?」

 驚きのあまり、呆然とそれを眺める朔耶とクー。

 そして、遂に全ての骨が繋がり、何事もなかったかのような状態へと巻き戻った。

 

 おいおい……。完全再生する魔物とか、厄介すぎるなんてもんじゃないぞ……

ここでようやく2番目の『異界』と、そこに生息する魔物の登場となりました。

異界の魔物なので、こちらも冥界の悪霊と同様、名前は良くわからない文字列です。

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