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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第19話 冥界を突き進む者たち

 通路が大きくカーブしている事もあり、まだ敵の位置は見えないが、足音からするとそう遠くはなさそうだ。

 そう思っていると、クーが犬狼へと変化し、セルマもまた魔法を撃つ準備に入る。


「私もアルに任せるだけじゃなくて、こっちからも攻撃するよっ!」

 朔耶がそう宣言しつつ、次元鞄から何か――おそらく武器だろう――を引っ張り出す。

 

 ……って、待てよ? 朔耶の武器ってなんだ?

 今まで使ってる所を見た事がなかったな、そう言えば。

 

 というわけで朔耶の方をチラッと見てみると、腕にガントレットを装着していた。

 ……いや、違うな。よく見ると朔耶は掌の部分にグリップみたいなのが付いており、それを握っていた。

 っていうか、手の甲の部分には魔煌波生成回路が組み込まれていて、更にそこを起点に弓の弦のようなものが取り付けられているな……。なんだこれ?

 

 気になったが、既に敵はクレアボヤンスで捉えられる位置まで来ていた。

 って、こいつらは……

 

「冥界の悪霊だけじゃなくて、キメラもいるのです!」

 犬狼形態のクーがそんな事を言った。


 え? あそこまで視えるのか……? もしかして、この犬狼形態だと視力も強化されるんだろうか……?

 よくわからんが、まあそれに関してはどうでもいいな。

 それよりもクーが言った通り、こちらに迫っていたのは冥界の悪霊だけではなく、キメラも混ざっている事が問題だ。あれはおそらく……

 

「なんでキメラがこんな所に? ……って、まさか!?」

「ああ、宮殿内に人の姿は一切なかった。つまり、お前の思っている通り――」

「キメラ化されたって事だね……」

 朔耶が自ら疑問に気づき、苦虫を噛み潰したような顔で俺の言おうとした事を言う。

 

「キメラ?」

「……簡単に言うと、魔物化させられた人間や動物だ」

 リンの疑問にそう言って返す俺。

 それだけでリンは理解したようで、忌々しさと悲しさの入り混じった顔を見せる。

 

「……つまり、あれはウチの……」

「ああ……そういう事だ。ちなみに、元に戻す手段は……ない」


 元に戻す手段に関しては、皆無というわけではないのだが――実際、エステルは元に戻っているが、あれはアーリマンシステムだかなんだかっていう例外と、室長の特殊な針穴に糸を通すかの如き手段が組み合わさった結果だし――あそこまでキメラファクターに乗っ取られてしまっている状態では、さすがに不可能だ。


「………………わかったぜ。それなら、きっちり解放してやらないとな。キメラという名の牢獄から……な!」

 リンはそんなセリフを吐くと同時に、魔煌波生成回路を起動。

 しばしの間の後、発動準備が完了し、言い放つ。

「――《朱炎の螺旋獄槍》っ!」

 

 その言葉と共に、リンの持つ盾から赤々と燃える螺旋状の炎が噴き出し、一直線に魔物とキメラの群れへと襲いかかる。

 そして、炎の螺旋は魔物とキメラを焼き尽くし――否、灰すら残さず、蒸発させながらひたすら直進し、群れを突き抜けた辺りで掻き消えた。

 

「うわぁ……凄い威力……」

 朔耶が唖然としながらそう呟くように言う。

 たしかにとんでもない威力だな。

 

「……魔力の大半を使う必殺魔法だったんだがな、さすがに一撃じゃ無理だったか」

 と、リン。必殺技ならぬ必殺魔法ときたか。

 もっとも、あんなものが直撃したら即死――蒸発確定なので、必殺で間違いはないのだが。

 

「残りをガンガン潰していくよ!」

 そう言って朔耶がグリップを強く握る。

 と、その瞬間、手の甲部分にある魔煌波生成回路の真上に青い球体が出現。

 バチバチと音を立てながらそれが大きくなっていき、サッカーボール大にまでなった所で、

「シュートッ!」

 と、叫ぶ朔耶。

 

 直後、球体が魔物とキメラの群れに目掛けて放たれ、そして着弾、爆発。

 青白い爆発に飲み込まれた魔物とキメラがまとめて消し飛んだ。

 

 なんだか良く分からんが、これまた強力だな……

 なんて事を思いつつ、俺もまたスフィアを起動し、魔法を放つ。

 

 さらにそこへセルマの魔法とリンの魔法、そして朔耶の2発目も放たれ、魔物とキメラの群れは、あっという間に消え失せた。

 

「……私だけ何もしていないのです。犬狼にならずに魔法か符術で攻撃すればよかったのです……」

 凄い無念そうな顔でそんな事を一人呟くクー。

 

 ……あー、なんというか……すまん。

 こっちの魔法攻撃が強すぎたせいもあるけど、まさかこんな簡単に片付くとは思わなかったな。結局、一匹もこっちに近づく事は出来なかったし。

 

 ――朔耶と一緒にクーを軽くなだめた所で、俺は朔耶の方を見て問いかける。

「ところで……なんなんだ? その武器」


「これ? これは博士が作ったソーサリーグレネード・スリングガントレット・プロトタイプ――略して爆弾投げ!」

 なにやらドヤって感じの表情で胸を張る朔耶。

 俺はその突っ込みどころ満載なセリフに対し、とりあえず突っ込む。

「略になってないぞ、それ。完全に略された言葉が別物じゃねぇか……。っていうか、ソーサリーグレネードってなんだよ」


「博士が作った――正確には室長からヒントを得て作ったらしい――ソーサリークロスボウに続く新しい武器だね。私がグレネードの話をしたら、なんか思いついたんだって」

 と、そう言ってくる朔耶。

 ふむ……。あの人、普通の魔煌具だけじゃなくて、武器タイプの魔煌具も作っているのか。


 ま、それは良いとして……

「なんでグレネードの話になったのか良く分からんが、とりあえず新しい武器だっていうのは理解した。実際、見た事ないし」

「まだ試作段階だからね。っていうのも、射程が短い上に着弾地点が結構ブレるんだよねぇ……これ。だから、魔煌弓やソーサリークロスボウのように長距離からピンポイントで狙い撃つ! みたいな使い方は出来ないんだ」

 朔耶はそう言って両手を広げて首を左右に振る。


「へぇ、なるほどな。昨日の空中戦で使わなかったのはそれが理由か」

「うん、そういう事。ソー兄の魔法みたいにあんな遠くまで届かないからね」

 ふむ……長距離での撃ち合いには向かないが、こういうあまり広くない場所なら逆にまとめて吹き飛ばせるから便利だな。

 

「とりあえず、増援が来るような感じはしないぜ」

 クレアウィスパーで音を探っていたらしいリンがそう言ってくる。

 

「だったら、今のうちに駆け抜けてしまおう。ここまで来たら、行けるところまで行くしかないだろうからな」

「ああ。そうだな。行くとしようぜ」

 リンが俺の言葉に頷き、パシッと左の手のひらに右拳を打ち付ける。


「……っと、そうだ。柱の像に注意しておいてくれ。どうも動いて襲って来そうな気がしてならないからな、あれ」

 そう俺が忠告すると、朔耶が像を見て、

「あー、うん、たしかに……。あれは絶対動くね。むぅ、めんどくさいなぁ……」

 と、ため息混じりに言って首を左右に振った。


                   ◆

 

 ――通路を進んでいくと、お約束のように柱に取り付けられた像が動き出して襲ってきたが、大した強さでもないのと全部が全部動くというわけではなかった為、思ったよりも問題にはならなかった。スフィアの魔力を地味に消費させられた程度だ。


 そうしてしばらく動き出す像を倒しながら走っていくと、唐突に通路が終わり、外――空中へ向かって続く階段へと辿り着いた。

 

「うわぁ……そこはかとなく漂うラスダン感」

 朔耶の奴が、ついにラスダンと言った。

 ……まあ、わからんでもないが。

 

「階段の先の踊り場、空中に浮いてるです」

「この階段を囲っている骨のようなものは一体……」

 クーとセルマがそんな事を口にする。

 

 ふたりの言う通り、階段を囲うようにして、骨のような材質のリングが連なって配置されており、その階段の先の踊り場は支えがなく、完全に空中に浮いていた。

 そんな階段と踊り場が幾つも連結されており、ここからかなり上まで登っていくようだ。

 無論、そこから先の階段も踊り場もどちらも宙に浮いている。……どういう仕組みなんだ? あれ。

 

「大型の魔物――冥界の悪霊どもが踊り場に1体ずつ配置されてんな。もしかして、防衛のつもりか?」

 リンが踊り場を見上げながら言う。

 実際には大型の魔物だけではなく、大型のキメラもいるが、まあそこは言わなくてもいいだろう。

 

「だとしたら、雑な防衛だな。あんなもので足止めが出来ると思っているのだから」

 俺がそう告げると、リンがニヤッと笑って右拳を左の掌に打ち付ける。

「だなぁ。私たちならあんなもん瞬殺だしな。……って事で、行くぜ!」


 リンが口にした通り、大型の魔物やキメラとはいえ1体ずつでは雑魚でしかない。

 まあ、2体いたら狭すぎて身動きが取れなくなりかねないからかもしれないが、なんにせよさしたる脅威でもないのはたしかだ。

 

 そんなわけで、倒しながら階段をひたすら登っていく俺たち。

 ふと、途中の踊り場から先程までいた通路を見ると、それは外観が城のようになっており、中央に高い塔があるというそんな巨大な建物だった。

 それら全ての外壁が黒く、その所々に赤黒い溶岩のようなものが付着し、地面へと向かって垂れ流れている。

 

「うっわぁ……。なんだか、とてもとても魔王城って感じがするよ」

 と、朔耶。まあたしかにそんな感じではあるな。

 

 そして、塔の更に上を見て気づく。

「……空が白い? いや、あれは……幻燈壁か!」


「え? あ、ホントだ! なんであんな所に?」

「ですです。どうして幻燈壁が上空にだけあるです?」

 朔耶とクーが上を見ながら言う。

 

「それはわからん。……が、ここで魔法が使えるのはアレがあるからだな」

「ガルドゥークの異界録には幻燈壁の存在は記されておりませんでした。気づかなかったのでしょうか?」

「普通に考えれば、そうだと思うけど……」

 問いかけてきたセルマにそう返しつつ、思う。

 もし、意図的に記されていなかったのだとしたら、聖騎士ガルドゥークはどうして幻燈壁の存在を隠す必要があったのだろうか、と。


 それについて考えていると、

「あ、扉が見えてきたです!」

 クーが走りながらそう言ってきた。


 クーの視線の先に同じく視線を向けると、たしかに2つ先の階段を登った所は踊り場ではなく、塔の外壁に造られた扉になっていた。

 ふぅ、やれやれ……。この文字通り宙に浮いている空中階段も、もう少しで終わるな。

ようやく登場の朔耶の武器です。

そして、ラスダン名物(?)の空中に浮かぶ通路と階段の登場です!


なお、本日の午前3時に、こっそり(?)第2章の登場人物紹介を、

間章(第2章と第3章の間)に投稿しました……

興味がありましたら、こちらもご覧ください。

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