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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第17話 静寂の大公宮

新年1回目です! いつもより少し長いです。

 公都ルナルガントを南北に分断する川、ガルナバード。

 その川の中洲に大公宮はあり、公都の南区と北区、それぞれの区から橋で繋がっている。

 

 という事らしいので、北区側の大公宮へと続く橋にやってきたのだが……


「うおっ! なんだこりゃ!」

 リンが驚きの声を上げた。

 

 それもそのはずで、大公宮の存在する中洲を囲むようにして、川の上に赤く光る格子が存在したからだ。

 それは、空高くまで続いており、アルを使って飛び越えるのも無理だった。

 無論、川底まで続いている事はクレアボヤンスで確認済みだ。

 

「結界……いや、障壁……か?」

 俺はそれを見回しながら、呟くように言う。

 

「……こんな大きな物、普通に考えたら遠くからでも気づくはずじゃない? でも、私たちは全く気づかなかったよね、この橋にやって来るまで」

「そうだな。おそらく、なんらかの力で隠蔽されているんだろう」

 朔耶の言葉に頷き、推測を述べる俺。まあ、推測と言える程のものでもないが。


「魔法は使えないはずですが……」

 と言いつつ、セルマが魔煌具を使おうとするが、不発に終わる。

 

「ああ。だから魔法ではない力、もしくは魔煌に頼らない魔法、って所だろうな」

「つまり、霊的な力……ですか?」

 俺の言葉にセルマがそう返してくる。


 さすがはシスターというべきか、その辺の知識は普通にあるようだ。

 まあ、身近に異能者がいるってのもあるのかもしれないけど。


「そういう事だな。フェルトール大陸には魔女技巧(ウィッチクラフト)っていう代物が存在するし、それと同等の物によって生成されている可能性は十分にある」

「なるほど……たしかにそうですね」

 セルマが納得したその横で、クーが何やら呟いている。

魔女技巧(ウィッチクラフト)……霊的な力……」


「クー、どうかしたのか?」

「あ、はいです。もしかしてなのですが、このエンピリアルグラフ――護符が使えるかもしれないのです」

 俺の問いかけに対してクーはそう答えると、例の星天の海蝕洞で使った護符を取り出した。


「結界をすり抜ける奴か。たしか星霊術の一種だったな」

 と、クーに言う俺。……ただ、ディアーナが使うものと同じ星霊術にしては、『魔王』っていう不穏な呪文が使われているのが、少し気になってはいたりするんだが……まあ、その事は今は置いておこう。

 

「ふーむ。そんなに都合良くいくとは思えねぇけど……まあ、試してみるか。どれどれっと」

 リンがそう言いながら、護符を取り出すと、自らが真っ先に足を踏み出す。

 そして、リンが赤く光る格子に触れた瞬間、その部分だけポッカリと穴が空き、中に入れるようになった。……また随分とあっさりだな。

 

「は!? マジかよ!?」

 と、驚き後ずさるリン。踏み出した本人が一番驚くってのはどうなのか。しかし――

 

「魔王の前に壁は無く、絶対なる竜の道を征かん……か。なるほど、たしかにその通りの効果だな」

 俺は護符に描かれていた文字――呪文を口にし、ひとり納得する。


「うん? なんだそりゃ」

「護符のその紋様のようなもの、実は文字なのです」

 リンの疑問に俺に変わってそう答えるクー。

 

「……あ、本当だ! ソー兄が言った通りの事が書いてある!」

 俺と同じく全ての言語を刷り込まれている朔耶が、護符を見てそんな風に言う。

 

「しかし、魔王とはまた物騒な言葉――呪文ですね」

「ああ、それは俺も思った。とはいえ、この手の術式は古の魔王とやらに生み出されたと言われているらしいからな。もっとも、その古の魔王とやらが何者なのかは知らないけどな」

 セルマに対してそう俺が答えると、セルマは考える仕草を見せた後、

「なるほど……。その手の術式が得意となると……その古の魔王というのは、おそらく時間と空間の支配者ベル・ベラードですね。ガルドゥークの異界録にそのように記されていましたし」

 なんて事を言ってきた。随分と詳しいな。

 

 それにしても、ベル・べラードっていう名前だったのか。時間と空間の支配者っていう、なんともな二つ名が凄い気になるが……まあ、こっちもさっきと一緒で、今は置いておこう。

 

「昔の魔王の事は今はいいだろ。それより、この護符の力で障壁を突破出来る事が分かったんだし、先を急ごうぜ」

 リンは俺たちの方を見てそう言った後、大公宮の方を睨み、

「もっとも……この様子じゃ、中はかなりヤバそうだけどよ」

 と、言葉を続ける。……そうだな、俺もそう思うぞ。

 

 そんなわけでリンの言葉に頷き、俺たちは障壁を越えて大公宮へと続く橋を渡り切る。

 木々が多く、いまいち大公宮がどういう構造なのか良く分からないが、中洲にあって繋がっている橋が2つしかない時点で防衛力は高そうだ。

 中世時代の物らしいし、おそらく敵に攻め込まれても籠城出来るような造りになっているのだろう。あと、周囲が川だから、上手く船を使えれば脱出とか夜襲とかもしやすそうだな。

 ……まあ、今回の異変には無意味だったようだが。

 

 なんて事を考えていると、大公宮の庭へと出た。……が、人の気配はない。

 そして、その静寂に包まれた庭の奥に、左右に広がった巨大な建物があった。

 

 クレアボヤンスで奥に建つ建物の方を視ながら、言う。

「あの建物の外はこれといって何もなさそうだな。……不気味なくらい静まり返っている以外は」


「――私の耳にも何も聴こえないぜ」

 クレアウィスパーで音を探ったであろうリンがそう告げてくる。

 そして、奥の建物を指さし、

「ちなみにあそこは来客用の部屋や宴を催すための広間なんかがあるんだが、政庁としても使われているんだぜ」

 そう説明してきた。

 

「宿と役所を兼ねている感じです?」

「まあそうだな。大雑把に言えばそういう事だ」

 クーの疑問に対し、リンがそう言葉を返す。


「私が先刻目指していた守備隊の詰め所も、あそこにあるんですよ」

 セルマが補足するようにそう言う。


 ふむ……言われてみると、たしかにセルマがヴァン=ドゥラルに襲われていた場所は、職人街の外れ――ここと修道院のちょうど中間辺りだな。

 

「なるほどねぇ。うーん、あそこまでアルと私で偵察してこようか?」

「キュピピ?」

 朔耶とアルが提案してくるが、 

「いや、罠の類があると危険だから、止めておこう」

 俺はそう返してそのまま進む事にする。

 

 ……この静かさは何かあると思った方がいい。

 障壁を突破したというのに、何かが襲ってくるとかそういう事が一切ないというのは、明らかにおかしいからな。

 

 ――そう考えて慎重に進んで行くも、守備隊の詰め所まで何事もなく辿り着いた。

 なんだか肩透かしを食らったような感じになったが……これは一体どういう事だ?

 

「うーむ、本当に人っ子一人いないな……完全な無人だ。大公……というか、リンの家族も消えているのか?」

 そう俺が言うと、リンは沈痛な面持ち――当人はそれ隠そうとしているが、その隠そうとしている事すら分かるそんな表情で、

「……ああ、そういやまだ言っていなかったっけな。うちの家族――母は私が小さい頃に病で亡くなっていて、父である大公も、銀の王(しろがねのおう)の軍勢との最初の戦で戦死しちまったよ。奴ら、異常なまでに父とその血族……要するに大公家の血を持つ者を集中的に狙ってきやがったてな。それを防ぎきれず、救援に来た伯父と一緒に、な」

 と、説明してきた。

 

「……そうだったのか。知らないとはいえ、すまん」

 それ以上の言葉が見つからず、俺はそれだけ言うと、リンは気にするなと言って返してきた。


 まさか戦死しているとはな……。しかし、集中的に狙ってきたって所が気になるな。

 っていうか、さっきから気になる事が多すぎるぞ。落ち着いたら纏めないと……

 

「大公様が戦死……? ですが、その様な情報は……」

 困惑しながらそう口にするセルマ。

 

「ああ、さすがに銀の王(しろがねのおう)との戦争中に大公が死んだという情報が広まったら士気がガタ落ちだからな。それを避けるため、戦争が終わるまで秘匿しておく事にしたんだ」

 リンが腕を組みながら説明する。ふむ……たしかにそうだな。

 

「なるほど、そういう事でしたか……。銀の王(しろがねのおう)の軍勢によって占拠された街に住む大公家の血族の方々が行方不明になっているのは、知っていましたが……」

「おそらく捕らえられたか暗殺されたんだろうな。奴ら、どうも大公家の血を根絶やしにしたいようだからな。私とエルウィンも大公直属の本隊とは違う戦場――奴らの砦の1つにいたんだが、本隊と同様に集中的に狙われたからな。まあ、運良く飛行艇を奪って離脱出来たんだけどよ」

 リンはセルマに対しそう言うと、両手を広げて首を左右に振った。

 

 さっきも気になったが、銀の王(しろがねのおう)は何故そこまで固執するんだ? 特殊な血なのか?

 その疑問をリンに尋ねてみようとした所で、クーが先に口を開いた。 

「どうして大公家の血を? なにか特殊な血なのです?」


「それに関しては私も知らない。あえて言うなら、初代様が聖騎士ガルドゥークと共に、さっき話に出て来たベル・ベラートの討伐に赴いた賢者で、テリル・ナギだったって事くらいだな。特殊といえるような所は」

 こめかみに人さし指を当てて言うリン。

 

 テリル・ナギっていうと、エルウィンのような尻尾が複数あるテリル族だよな。

 なんだかレアな存在らしいけど、別に大公家の者にしかいないってわけじゃないっぽいしなぁ、あのディアーナの本からすると。

 

 そんな事を考えている間に、リンが説明を続ける。

「ま、そんな初代様と聖騎士ガルドゥークとの関係性もあって、この国とアレストーラ教国とは、それなりに繋がりが深いんだよ、昔から」

「へぇ……そうなのか」

 まあ、聖堂だけじゃなくて修道院まであったしな、この公都。

 そう考えつつ説明に頷きながら、俺は今しがた疑問に思った事を続けて口にする。

「そういや、ガルドゥークって異界録を書いた人の名前だよな。その聖騎士ガルドゥークとは同一人物なのか?」


「はい。聖騎士の座を早々に辞してしまわれたので、その事を知っている者は、聖職者以外ではそんなに多くはなかったりしますが……」

 俺の問いかけ対し、リンの代わりにセルマがそう説明してくる。

 

「なるほど、同一人物だと知っている人は少ないのか……」

 ふむ、そうすると異界録を読んだらしいアリーセは知らない感じか?

 

 ……そう言えば、どうしてアリーセは異界録を読んでいるんだろう?

 ロゼから聞いた話だと、アリーセは物語と薬学の本以外、ほとんど読まないみたいなんだけどなぁ。

 

 と、ふとそんな事を思っていると、リンが、

「ちなみにだが、異界へ行くってんで辞めたって話らしいぜ。だから、異界録は単なる冒険者が偶然迷い込んだ冥界で、見知った事を書いた日記……冒険記っていう体で記されているしな」

 なんていう補足をしてきた。……ああ、冒険記なのか。

 なるほど、アリーセが読みそうな本だ。

 

「ふむふむ。なんだかどっかの良く遭難する冒険家の日記みたいで面白そうだね。私もそのうち読んでみようかな」

 朔耶がそんな事を言った。

「良く遭難する冒険家って……あれか? 赤い髪の――」

 

 ――そんな会話をしながら、詰め所のある建物を探索するが、誰もいなかった。

 大公やリンたちが暮らすための場所――奥殿というらしい――までは通路で繋がっているらしいので、そのまま奥へと進んでいく俺たち。

 

「ん? また障壁か?」

 リンがそう口にした通り、奥殿へと続く通路に差し掛かった所で、大公宮のある中洲を囲むように存在した障壁と同じ物が視界に入る。

 

「まあ、突破するのは容易だけどな」

「そうだな。んじゃ、早速」

 俺の言葉に頷き、リンが護符を手に持って障壁へと近づく。

 と、先程と同じように、あっさりと障壁に穴が開いた。

 

「よし、余裕だな」

 リンはそう言いながら、障壁の向こう側に出た所で、

「うおっ! なんだこりゃ!」

 と、大公宮の障壁を最初に見た時とまったく同じ驚きの声を発した。

 

 まあ、そういう反応をしてしまうのも分からなくはない。

 なにしろ障壁を越えた先は、夕日のような仄暗(ほのぐら)(あか)の光が差し込む魔宮……そんな風に感じる、わけのわからないだったのだから――

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


というわけで新年1回目でしたが、大公宮へ侵入したにも関わらず戦闘1つないという、色んな意味で静かな話となりました。

もう少し進展させたかったのですが、思いの外文字数が増えてしまったので、一旦ここで区切りました……


なお、次回の更新は先日記載した通り、1/5を予定しております。

余裕があれば、その前に第2章の登場人物紹介を入れたい所ですが……

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