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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第16話 掃討戦と大公宮

「救援? どういう事だそりゃ?」

 縋り付くかのような様子のセルマを、落ち着かせつつ問うリンスレット。

 

「魔獣――いえ、魔物が……修道院に魔物の群れがっ!」

 

 そのセルマの言葉で、ここにいる者は全て理解した。

 俺はセルマをサイコキネシスを使いながら持ち上げ、リンの方を見る。

 

「セルマさんは俺が運ぶ。修道院へ急ぐぞ!」

「おう! 着いてきてくれ!」

 俺の呼びかけに頷き、走り出すリン。

 俺たちもまたそれに続く。

 

 走りながらセルマから聞いた所によると、さっきの化け物は、血影(けつえい)冥将(めいしょう)ヴァン=ドゥラルという名前らしい。

 ふむ……『将』か。たしかにあいつは、ヴォル=レスクやデム=ウォードと比べると一線を画す強さで、その名称には納得だ。


 そして、奴を含めた冥界の悪霊どもは、突然修道院の近くに大挙して現れ、修道院を襲ったのだという。

 なんとか守りを固めたものの、そのままでは時間の問題だという事で、セルマが魔物の隙を突いて脱出し、大公宮の兵士に助けを求めて走ったそうだ。

 まあ、大公宮へ向かう途中で奴――ヴァン=ドゥラルに気付かれてしまったようだが。

 

 ふーむ、街中……しかも人が多く集まっている場所に近くに、まとめて冥界の悪霊――異界の魔物が顕現したって事だよなぁ。偶然というにはあまりにも不自然な気がするが……

 

「見えてきたぜ! ……って、マジかよ……」

 リンがそう言って足を止めた。

 その視線の先を追うと、見た事のない魔物がひしめいているのが視界に入る。

 

「聖堂っぽい所の扉を壊そうとしているみたいだよ!」

 頭上からアルに乗った朔耶の声が降ってくる。

 

 クレアボヤンスを使って確かめてみると、たしかに扉を破壊しようとしているようだった。

 幸い頑丈な扉らしく、まだなんとか壊されずにすんでいるようだが、そう長くは持ちそうにない。

 そして、壊されて中に突入されたら一巻の終わりだ。

 

「朔耶、火以外のブレスで先制攻撃してやれ!」

「オッケー!」

 俺の指示に、朔耶がアルを駆って先行する。

 

「リン! セルマさんの事を任せる!」

 俺はセルマさんを下ろすと、そう言ってクーと共に駆ける。

 

「カッチカチになってるです!」

 アルのブレスによって氷漬けになった魔物の群れを見てそんな事を言うクー。

 

「だが、まだかなり残っているな。手前から片付けていく!」

「了解なのです!」

 

 宙に浮かべた大量の呪紋鋼のナイフで、アルが撃ち漏らした魔物たちを突き刺し、切り裂き、片っ端から屠っていく。

 クーもまた、犬狼形態と人間形態を切り替えながら、小型の魔物を撃退していく。

 

 と、屋根の上にいたボロボロのローブに8本の腕が生えたような魔物が、クー目掛けて頭上から強襲。

 俺がアポートでクーを引っ張ったその直後、地面に8つの武器が突き刺さった。


「あ、危なかったのです……。ありがとうございますです」

「気にするな。……だけど、上にも注意しておかないと、俺みたいに死にかけるぞ」

 冗談まじりに――と言っても、死にかけたのは事実だが――そんな忠告を口にしつつ、クーを強襲した魔物に霊幻鋼の剣を飛ば……そうとした瞬間、鎖のついた盾が飛来。

 盾はその手に持つ武器を数本砕きながら、魔物を吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。


 そして、そこへ更に連続して盾の殴打を受けた魔物は、地面へ倒れ込んだ後、ボロボロのローブと腕が白い砂と化し、武器がその場に転がった。

 って、あのボロボロのローブも本体だったのかよ。わけのわからん魔物だな。

 ……っと、それはともかくこの攻撃は――

 

「見てるだけってのは性に合わないからな」

 そう言ってリンがセルマと共に駆け寄ってくる。

 やっぱりか。セルマを戦闘に巻き込まないようにして欲しいんだけどな……と思っていると、

「私を守る事よりも聖堂にいる皆さんを守る事の方が重要だと、そうリンスレット様にお伝えしたのです。魔法が使えないとはいえ、冥将級の魔物でなければ、自分の身は自分で守れます」

 セルマがそんな事を言ってきた。ふむ、本人がそう言うのならまあ……良しとするか。


「ってなわけで、ソウヤたち程強くはねぇけど、私も戦わせてもらうぜ!」

 そう言いながら、手近な魔物を叩き潰すリンスレット。

 

 魔法が使えない状況下で、それだけ出来れば十分な気もするけどな、俺は。

 っと、それはさておき、さっさと蹴散らさないと。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「どうにか片付いたね」

 朔耶がアルを送還しつつ、言ってくる。

 

「数は多かったけど、ヴァン=ドゥラルが召喚してきた奴くらいの強さの奴ばっかりだったからな。デム=ウォードが1体いたけど、あいつ1体くらいじゃ大した問題でもないし」

 朔耶にそう言葉を返し、念の為に周囲をクレアボヤンスで探るが、冥界の悪霊どもの姿はなかった。ふむ……とりあえずは安心、といった所か。


「――オルテンシア様、セルマです。魔物は全て排除されました」

 セルマが閉ざされた聖堂の扉に向かって呼びかける。

 すると、しばしの沈黙の後、扉がゆっくりと開かれた。

 

「シスター・セルマ、無事だったのですね。後ろにおられるのは……リンスレット公女殿下?」

 初老の女性が姿を見せ、そう口にする。

 

「はい。冥将ヴァン=ドゥラルに襲われましたが、リンスレット様と、そのご友人の皆様に助けていただきました。周囲の魔物を排除したのもその皆様たちです」

 そう言って俺たちを紹介するセルマ。

 

「あれだけの魔物を一掃するとは、とても優れた力をお持ちのようですね。とりあえず中へ。外は寒いでしょうから」

 と言うオルテンシアに促される形で、俺達は聖堂内へと入る。

 

 ――聖堂内には南地区の聖堂同様、多くの人がいた。

 南地区の聖堂と比べて2/3程度の広さしかないため、集っている人の数自体はさほど変わらないようなのだが、こっちの方が人が多くいるように感じるな。

 あと、皆の顔が不安そうだ。……まあ、無理もないが。

 

「皆様、外の魔物はリンスレット公女殿下とそのご友人たちの手で排除されました。ご安心ください」

 オルテンシアが聖堂内の人々に向かってそう説明すると、集っている人々が安堵の表情を見せた。

 

「冥界の悪霊どもは光を苦手とします。ランプやカンテラなど、魔煌具以外の照明器具を集める事で、接近をある程度防ぐ事が出来るでしょう。皆さん、そういった物をお持ちでしたら、こちらまでお持ちください」

 上品な声と優雅な仕草で語るリン。ふむ……民衆の前ではこっちなのか。

 

 ――ともあれ、そんなわけで俺たちが護衛しつつ、家々を回ってランプやカンテラを集める事になった。

 南区の聖堂の方がどうなっているか、俺たちの中で一番機動力に優れた朔耶――というか、アルと朔耶のコンビに確認して貰ったが、あちらはまだ冥界の悪霊の姿は見えないようだ。

 

                    ◆


「ふぅ、こんなところか。――これはまた、なかなかの光景だな」

 集めたランプやカンテラなどの照明器具を、聖堂の内外に全て設置し終え、それを見渡し、息を呑む。

 様々な器具から放たれる光が、まるでイルミネーションのように聖堂全体を彩っていた。

 

「とてもとても輝いているです!」

「うんうん! まるでイルミネーションみたい!」

 それを見渡しながら、ふたりがそんな事を言う。

 ……というか、朔耶の感想は俺と同じかよ。


「ああ、実に絢爛(けんらん)だぜ。……それにしても、この状況で大公宮に詰めている守備隊の連中は何してやがんだ?」

 聖堂の光景を眺めながらそんな疑問を口にするリン。

 

「……たしかに気になりますね」

「はい。先の魔物の襲撃、普通であれば兵隊の皆さんが気づいて真っ先にやって来ても良いはずなのですが、その気配は一向になかったので、私が向かう事にしましたし……」

 オルテンシアとセルマがそんな風に言う。


「ねぇ、こういう時って大体――」

 朔耶が小声で話しかけてくる。

 

「……ああ、『そうなっている』可能性はありえるな」

 俺もまた小声で返す。

 そうなっているというのは、いわゆる連絡の取れない城や町に行ってみたら、滅ぼされていたという良くあるパターンの事だ。

 

「大公宮へ行ってみるか」

「それなら私も行くぜ。あんまりあそこに居る事はないけどよ、それでもあそこは自分の家だしな!」

 俺の言葉に、もっともな言葉を返してくるリン。

 

「でしたら、魔物の襲撃について詳しく話をしたいので、私も行きます」

 と、セルマ。

 

 ……話を出来る人間がいればだが、と思ったがそこはあえて口にはしなかった。

 単に雪のせいで気づいていないだけの可能性もあるからな。

 

 ま、その辺は行ってみれば分かる事だな。さて、どうやっているのやら……

1/1は多分更新しますが、1/3は更新出来ません。

というわけで、次は年明けの更新です。皆様、良いお年を!

そして、来年もよろしくお願いいたします。

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