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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第14話 聖堂にて

「見つけられて良かったのです」

 クーがリンに向かってそう言ったところで、

「おや、公女殿下、お知り合いですか?」

 という声が聞こえてくる。

 

 声のした方を見ると、そこには牧師のような格好をした初老の男性が立っていた。

 種族は……ドラグ族……か? 

 いや、それにしては、竜のようなしっぽを持っているが、翼がないな。

 しかも、顎の部分から首にかけて鱗のようなものが見えるし……


「ああ、教区長。この3人がさっき話したソウヤにサクヤ、そしてクーレンティルナだ」

 リンは初老の男性――教区長にそう説明すると、俺たちの方を見て、今度は教区長の説明をする。

「この人は、ルートヴィッヒ教区長って言ってな、私の……まあ、恩師みたいなもんだな。ちなみに種族は、弟と同じくらい珍しいドラグ・ケイン族だぜ。割と存在を知らない人いるんだよな、この種族」


 ……そう言われて思い出す。

 そんな特殊な種族がいるとか例の『この世界について色々書かれている本』には書いてあった事を。

 たしか、翼がない代わりに火を吐く事が出来て、アカツキ皇国だと『龍人』だなんて呼ばれているとかなんとか。

 

「まあ、我らドラグ・ケインは、自らの生まれた里から外に出る者は少ないですからね……」

 ルートヴィッヒはそう口にした後、少し間を置いてから、

「とりあえず、ここで立ち話というのもなんですし、奥の部屋へどうぞ」

 そう言って俺たちを奥の部屋へと案内する。

 

                    ◆


 部屋の中に入ると、奥の壁に暖炉があり、薪が赤々と燃えているのが見えた。

 さすがに防寒具のローブはいらなさそうなので、脱いで次元鞄に放り込む。

 

「暖房の魔煌具が使えないってんで、久しく使われていなかった暖炉を掃除したり、倉庫にしまい込んであった薪ストーブなんかを引っ張り出してきて整備したりして、使えるようにしたそうなんだが、まあ……なんだ? こういうのも悪くないよな」

 暖炉を見ながらリンがそう言ってくる。

 

「……とはいえ、薪のストックはそこまで多くないので、どうにかしないといけませんが……。さすがに切ったばかりの木は使えませんし」

「たしかに、薪はしっかり乾かさないと燃えにくいどころか、危険なのです」

 ルートヴィッヒの言葉に、クーが頷く。

 

「ふむ、薪ってのはそういう物なのか」

「薪とか、キャンプくらいでしか使った事がないしねぇ」

 日本生まれの日本育ちな俺と朔耶は、日常的に薪を使ったりしないからな。

 キャンプ用のあれは、店で売られていたものだし。

 

「ま、実のところ、私も生まれてこの方、一度も使った事ないんだけどな」

 と、そう言って笑うリン。

 暖房の魔煌具が普通に存在するなら、まあそうだろうなぁ。

 

「そう言えば、皆さんはテレポータルを利用してこの大陸へ来られたとの話でしたが、それを使って都の者たちを他の大陸へ渡らせる事は出来るのでしょうか?」

 席に座った所で、ルートヴィッヒがそんな風に俺たちに尋ねてくる。

 

 リンの方を見ると、

「フェルトール大陸の『遺跡』にあったテレポータルじゃ無理だと思うんだが……どうだ?」

 なんて事を俺に向かって言ってくる。


 なるほど……『そういう事』にしたのか。

 まあ、テレポータル自体はディアーナの物とは違うが、存在しているしな。

 

「……そうだな、あそこにあったテレポータルに多くの人間を移動させられる程の力は、もうない。というよりも、だ。実際には異能で無理矢理動かしただけだから、俺とその他数人程度が限界だろう」

 顎に手を当てて少し考えるふりをした後、そう告げる俺。

 公都の人々には申し訳ないが、さすがにそんなに多くの者とディアーナとを接触させるわけにはいかないからな。

 

「そもそも、あの地下の通路を抜けなければ外へ出られない時点で厳しいのです」

 クーがそう言うと、それに続くようにして朔耶が、

「そう言えば、あの隠し通路の出口だった墓地には、足跡1つなかったよね?」

 と、リンに問いかける。


「ん? 墓地? どういう事だ?」

 そう言って首を傾げるリン。ふむ……予想通りというべきか、リンは俺たちとは別のルートでここまで来たみたいだな。

 

 地下の通路についてリンに話すと、

「へぇ……なるほどな、そうだったのか。私は階段の途中にある隠し通路を抜けて来たんだが、階段の下から墓地へつながるルートがあったとは知らなかったぜ」

 なんて言ってきた。やっぱり隠し通路があったのか。

 

「それにしても、冥界の悪霊《獄炎戦車ヴォル=レスク》ですか……。よもや、そんな存在が街の地下に現れるとは……」

 リンの横で話を聞いていたルートヴィッヒが、暗い表情でそう言って右手で額を抑えて軽く頭を振った。

 

「ああそうだな。このままだと街中に現れるようになったとしても不思議じゃないぜ。ソウヤたちの話を聞いた感じだと、倒せない相手ではなさそうだが、少々厄介そうだな」

 リンが腕を組み、忌々しげに言葉を発する。

 

「そうですね……戦いに優れた者はそう多くありませんし。となると、対策が必要になるわけですが……もし、『リョウジンの異界録』に記されているとおりであれば、冥界の悪霊は光を嫌うはず。ランタンとカンテラをありったけ用意すれば、どうにかなるかもしれません。幸い、この聖堂に人が集まっていますしね」

 ルートヴィッヒがそう言ってくる。


 ふむ……。異界録っていうと、アルミナの地下神殿遺跡で獄炎戦車と遭遇した時に、アリーセが口走っていた奴だな。

 どうやら『リョウジンの異界録』っていうのが正式名称のようだ。

 ……ん? リョウジンって名前、同じくアリーセが異能者の例としてあげていたな。

 たしか、神算鬼謀の魔軍師とか言われている人物で……《看破の魔眼》とかいうのを持っていたんだったか?


 なんて事を考えていると、

「そう言えば、あの人たちって?」

 と、朔耶が疑問の言葉を口にした。

 そして、それに対して俺とクーが頷き、言う。

「ああ、それは俺も気になっていた」

「同じくです」

 

「魔煌具や魔法が使えなくなった事で、不安に駆られたのでしょう。朝から多くの人が、ここか北区の修道院に集っているようですね。あそこにも小さいですが聖堂がありますので、そこに誘導したとオルテンシア――修道院長から聞いています」

 俺たちの言葉に対してそう答えるルートヴィッヒ。……まあ、もっともな話だな。

 

「なるほど、そうだったんだ」

 そう言って納得した朔耶に続く形で、クーが言葉を紡ぐ。

「今まで使えていた物が突然使えなくなったのです。誰でも不安に思うです」


「……冥界の悪霊の話をしたら、更に不安になるだろうな……」

 腕を組みながら、俺はそう呟くように言う。

 

「――ですが、しないわけにもいきません。なに、明るくすれば大丈夫であると伝えれば、少しは不安な気持ちも和らぐでしょう」

 ルートヴィッヒが、顔に微笑を浮かべながらそう返してくる。

 

「そうだな。この聖堂に集めて全部灯せば、さすがに大丈夫だろう」

 ……異界録の記述が間違っていなければ、という前提条件があるのだが、まあ……それを書いたリョウジンという人間は、看破の魔眼なる物を持っていたようだし、正しい情報であると俺は考えている。

 

「とりあえず……だ。冥界の悪霊が地下に現れた事は、北区の聖堂にも伝える必要があるって事だな。なら、私がひとっ走り行ってくるぜ。オルテンシアとも顔なじみだし、私が伝えれば信じてくれんだろ」

 そんな事を口にして立ち上がるリン。


「待った。俺たちも行こう」

 俺はそう告げながら次元鞄からローブを取り出すと、それをリンに渡す。

 

「これは……ソウヤたちが着ていたのと同じ?」

「ああ。魔法とは異なる防寒の術式が付与されているローブだ。あの人からリンの分も預かっていたんだ」

 リンの問いかけに、『あの人』の部分を強調して言葉を返すと、俺も自分のローブを次元鞄から取り出し、身に纏う。

 

「な、なるほどな……。そいつは実にありがたいぜ」

 リンは今まで着ていたローブを脱ぎ捨てると、渡したローブを纏う。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくる。教区長、説明を任せちまって悪いが、頼んだぜ」

「ええ、なんとかしておきましょう。公女殿下とソウヤさんたちもお気をつけください」

 

                    ◆


「おおっ! このローブすげぇな。全然寒くないぜ!」

 外に出た所でそんな感想を口にするリン。

 

「ま、さすがはディアーナ様製ってところだな。それで、北区にはどうやって行けばいいんだ?」

 その俺の言葉に対し、リンはしばし思案を巡らせた後、

「ここからだと職人街を抜けていくのが一番早そうだな。――こっちだ、ついてきてくれ」

 と、そう俺達に告げて歩き始める。

 

 そして、そのままリンについてしばらく歩いていくと、静まり返った工房が並ぶ地区へと辿り着いた。

 

「普通なら物を造る色んな音が響いているんだがな……」

 少し寂しそうな声で言うリン。

 

 そんなリンに対して何か言おうと口を開いたところで、「ァ……ァ……ァ……ッ」と、かすかにそんな声が聴こえてきた。……悲鳴のような感じだったが……ただの風の音か?

 

「悲鳴!?」

 リンが弾かれたように素早く顔を左へと向けた。

 どうやら、リンは俺よりも正確に今のを聞き取ったようだ。おそらくクレアウィスパーの力だろう。という事は――

 

「たしかに、何か悲鳴のようなものが聞こえたです!」

「今の、やっぱり気のせいじゃなかったんだ!」

 クーと朔耶もそんな風に言ってくる。

 ――間違いないな。

 

「リン! 悲鳴が聞こえてきたのはこっちで間違いないな!?」

 リンが顔を向けた方を指さし、声を大にして尋ねる。

 

「ああ!」

 その返事を聞くなり、俺はクーと朔耶に先行するように告げる。すると、

「おっけー!」

「任せるです!」

 という了承の言葉とともに、朔耶がアルを召喚し、クーが犬狼に変化して、あっという間に家々の屋根を飛び越えていった。

 クーの方は、屋根の上までアスポートで飛ばそうと思っていたのだが、その必要はなかったようだ。なにしろ残像が見えるほど、もの凄い速さで家の壁を駆け上がっていったからな……


 ……さて、着いたら終わっていたなんて事にならないよう、急ぐとするか。

 俺はリンに向かって「俺たちも行くぞ!」と、そう言いながら走り出した――

種族説明の所に記載だけされていた、ドラグ・ケイン族がようやく登場しました。

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