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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第13話 獄炎戦車とキメラファクターと……

「随分と広い部屋なのです」

 クーの言うとおり、途中で何度か上り階段になっていた通路を抜けた先は、広い八角形の部屋になっていた。


「こんだけ広いと、ボスとかが出てきそうだよね」

 などと口にする朔耶。

 

「……そういう事を言うと――」

「「ルオォオォォォォォーン」」

 本当にボスが出現するぞ、と言う前に昏い咆哮が響いてくる。しかもふたつだ。

 たしかこの咆哮は……

 

「……出て来たのです」

 クーが呆れた表情で朔耶の方を見てため息まじりに言う。

 俺もまた朔耶の方に視線を向ける。

 

「う、うわぁ……まさか本当に出て来るなんて思わなかったよっ! っていうか、何あれ……アンデッド?」

 朔耶が2体のボスを交互に見ながら言う。

 

「あれは《獄炎戦車ヴォル=レスク》だな。冥界の悪霊とかいうカテゴリに属する異界の魔物だ。まあ、巨大な火球をぶっ放してくる以外は大した事ないし、撃たれる前にとっとと倒してしまうぞ。――右の奴は任せておけ、左の奴はふたりに任せる」

 俺はそう言うと、次元鞄から久しぶりに剣――霊幻鋼の剣を取り出す。

 

「りょ、了解なのです!」

「わ、わかったよ!」

 クーが犬狼に変化し、朔耶がアルを召喚するのを、それぞれ横目に見ながら、アスポートとサイコキネシスを連続で使い、剣を飛ばす俺。

 

「ルアアアアアッ!」

 剣の接近に気づき、咆哮する獄炎戦車。

 火球を撃つ構えを取るが、そんなもん撃たせてやるわけがない。

 

 アルミナの時と同じ要領で剣を舞わせて斬り刻む。斬り刻む。斬り刻む!

 

「ギギアァアァアァアァアァアァアァァァッ!」


 例によって怨嗟に満ち満ちた咆哮を上げたかと思うと、砕け散って白い砂へと変わった。

 一度倒した相手だし、楽勝だな。

 

 そう思って朔耶たちの方を見ると、獄炎戦車が火球を放つ瞬間だった。

 以前と同じ要領で火球を止めようとそちらに意識を向けた直後、強烈な冷気が火球へと襲いかかった。

 

 目を凝らすと、冷気のブレスを吐き出すアルの姿が見えた。

 火球はあっという間にカチカチに凍りつくと、地面へと落下。黒煙とともに霧散した。

 しかし、凍らされたら霧散するとか相変わらず普通じゃないな。

 

 そう思いながら視線を獄炎戦車の方に向けると、犬狼状態のクーが壁を蹴り、縦回転しながら獄炎戦車の真上から飛び掛かっていくのが見えた。

 なんというか、まるで大車輪だな。あんな感じの攻撃方法、昔なにかで見た気がするぞ……

 

 ――まあなんにせよ、あっちもあっちで楽勝そうだな。

 

 と、そんな感想を抱いたとおり、それから1分もしない内に獄炎戦車は砕け散り、白い砂を床に撒き散らした。

 

「あれが異界の魔物……。私、始めて戦ったです」

「うん、私も。ソー兄の言ったとおり、大して強くはなかったけど……血の変わりに真紅色の結晶片を撒き散らしたり、倒すと白い砂になったりと、なんとなく不気味な感じだね」

 クーの言葉に頷き、そんな風に言いながら白い砂を眺める朔耶。

 

「しっかし、アルミナの地下神殿遺跡と同じ状態になっているとはいえ、さも当然であるかのように冥界の悪霊が姿を現すとはな……」

「街中で遭遇しなかっただけ、マシ……と言えなくもないのです」

 俺の言葉に、クーがそう言って返してくる。


「ま、たしかにな。……とはいえ、この大陸の状況を考えると、街中でも遭遇する可能性は十分にありえるんだよなぁ」

「うえぇ……。街中でのエンカウントはノーサンキューだよ……」

 心底嫌そうな表情で深くため息をつく朔耶。

 俺はそんな朔耶に、肩をすくめて、

「ディアーナ様ならエンカウント率を0に出来るんだけど、残念ながら今の俺たちにはその手段は使えない。気をつけて進むしかないな」

 そう告げながら部屋の奥にあった階段へと向かう。


「そうだよねぇ…………って! 女神様はエンカウント率0に出来るんだ!?」

「次元干渉阻害結界とかいう星霊術で、出来るっぽいな。アルミナで使っていたぞ」

「へぇ……それは是非欲しいところだね」

「ああそうだな。……もっとも、ディアーナ様の術を普通に使えるようにするのは、さすがに難しい気がするがな」

「あー、うん。たしかにそうかも……。なにしろ神様の術だし」

 という会話を階段を登りながら朔耶としていると、

「結界の類なら、もしかしたら符でも出来るかもしれないのです。なぜなら、星天の海蝕洞の結界も干渉阻害という点では同じなのです」

 なんて事を言ってくるクー。

 

「もし、それが実際に可能なら、この大陸内での安全性が一気に上がるな……。あとでディアーナ様に相談してみよう」

「だね。――ところで、話は変わるけど、クーの攻撃メチャクチャ強いんだけど……何あれ」

 朔耶がそう言ってクーの方を見る。


「地球で見た本を参考にしたです。なんか、回転とか螺旋とかを攻撃に取り入れると強いとか書いてあったです」

「ああ、なるほど……」

 武術関連の本とか、そういう系のマンガやラノベも結構置いてあったな、あそこの休憩室に。

 ……半分以上が蓮司と珠鈴が、どこからともなく手に入れてきた奴だけど。


「でも、なんで変化能力なんて習得したんだろう?」

 こめかみに人さし指で軽く揉みながら、疑問を口にする朔耶。


「うーん、私も良くわからないのです。ただ、こっちに来た瞬間、身体を奥底から燃やされているのではないかと思うほどの熱さを感じたです」

 と、そう言ったクーの言葉に、俺はふと思い当たる。

「……もしかして、サイキックが変化したようにキメラファクターが変化した……のか?」


「え? キメラファクターが?」

 朔耶が俺とクーを交互に見ながら問いかけてくる。


「ああ。身体の奥底――キメラファクターが、魔煌波かなにかの影響を受けてその性質を変化させたんじゃないか? アリーセから先日遭遇した『キメラ』の話を聞いたんだが、その話によると、地球では見かける事のなかった大型のキメラが存在しているらしい。何故地球に大型のキメラがいなかったのか、だが――」

「……魔煌波が地球にはないから、です? 術式が不完全だった、です?」

 クーが俺の言おうとしていた事を先に口にする。


「そう。この世界と地球との大きな違いは、魔煌波だ。そして、魔煌波は魔法というこれまた地球には存在しない力を生み出す。もし、キメラファクターが魔煌波生成回路と魔法術式の役割を同時に果たすような代物だとしたら、魔煌波に満ちたこの世界に来た瞬間、魔煌波の調律が行われてもおかしくはない」

「な、なるほど……。その過程で術式が完全な物へと変化した可能性があるわけだね」

「まあ、あくまでも俺の仮説であって、実際には違うという事も十分ありえるがな」

 俺は、朔耶に対しそう言って肩をすくめてみせる。


 ただ……そうは言いつつも、現状からすると蓋然性(がいぜんせい)があると俺は思っている。

 あとでディアーナに話して意見を聞きたい所だが、果たしてディアーナはキメラファクターを知っているのだろうか……? 

 もしかしたら、室長の方がこの辺に関しては詳しいかもしれないな。


 なんて話をしているうちに、階段の先に鉄の扉が見えてきた。

「あ、出口があるよ。鍵がかかってないといいけど」

 と、朔耶が出口を観察するように首を動かす。


 クレアボヤンスで確認すると、扉にはうっすらと紋様のようなものが見えた。

 この扉にも元々は施錠魔法が付与されていたのだろう。


「施錠魔法が機能していないから大丈夫じゃないか? 施錠魔法が使われている時点で、物理的な鍵はかかっていなさそうだしな。物理と魔法、2つの施錠で封鎖する程の場所ではないだろうし、もしそうする程の場所であるのなら、入ってきた所もそうなっているだろうしな」

「なるほど……たしかにそうだね」

 俺の説明を聞き、朔耶が頷いてそんな事を言う。

 もっとも、開かなかったらその時は壊せばいいだけではあるのだが。


「どこへ出るですかね?」

「わからないけど、城壁の外に出ない事を願うよ」

 クーの疑問の言葉にそう返す朔耶。

 まあたしかに、これで城壁の外に出たりしたら笑えないからなぁ……

 

                    ◆

 

 ――幸いというべきか、城壁の外に出る事はなく、きっちり街の中へと出た。

 

「……けど、ここはどこだ? 屋内なのはわかるが……」

 周囲を見回しながら呟くように言う。

 

 レンガ造りの中世風な壁に囲まれた大量の木箱が積まれた小さな部屋。

 それが今、俺たちのいる場所だった。

 

「なんかやたらと木箱があるし、どこかの家の地下室かなにかじゃないかな?」

「私もそんな気がするです」

 ふたりがそんな風に言ってくる。

 

「……そう考えるのが妥当か。家主が留守だと面倒がなくていいんだけど……」

 そう言葉を返しながら部屋から出ると、そこは水場のある東屋……といった感じの場所だった。

 俺は誰かの家の中ではなかった事に、ちょっとだけホッとする。

 

「外は墓地なのですっ」

 クーが東屋の外からそう告げてくる。

 外へ出てみると、たしかに墓地だった。

 

 ……って、足跡がないな。やはり、リンはこっちに来ていないのか?

 そう思いながら辺りを見回すと、なにやら教会のような建物がある事に気づく。


「あそこに教会っぽい建物があるな」

 墓地の外れの木々に囲まれた場所にあるその建物を指さす俺。

 

「あ、ホントだ。この墓地の管理とかをしてたりするのかな?」

「行ってみるです?」

 朔耶とクーが建物の方を見ながら言う。

 

 クレアボヤンスを使って建物の方に視界を近づけてみると、建物に向かって伸びる足跡が見えてきた。

 ……っていうか、あそこに近づくほど、足跡の数が増えているな……

 

「クレアボヤンスで見てみたら、複数……いや、多数の足跡があの建物に向かって伸びていた」

 俺はクレアボヤンスを解除しつつ、朔耶とクーに向かってそう告げる。

 

「って事は、街の人があそこにいるって事だね」

「ですです。話を聞いてみたいので、行ってみるです」

 というふたりに引っ張られる形で、俺――俺たちはその教会っぽい建物へと移動する。


 そして、入口の前まで来た所でクーが、

「なにやら、多くの気配がするですね」

 と、そう言ってきた。ふーむ……たしかに人が多数いそうな雰囲気ではあるな。

 

「あ、こっちの石碑っぽいのに何か書いてある。えーっと……『ルナルガント南地区聖堂』だって」

 朔耶が雪を払いながら、書かれていた文字を読み上げる。……って、やっぱりここは聖堂だったのか。

 

「よし、それじゃあ入ってみるとするか」

 ふたりに対してそう言いながら、俺は入口の扉を開ける。

 と、聖堂の中には多くの人が集まっていた。

 

 うーむ、思ったよりも人が多いな……。一体、何が目的でこんなに人が集まっているんだ?


 人々の姿を眺めながら考えていると、

「ん? ソウヤたちじゃねぇか。もしかして、私を追ってきたんか?」

 そんな声が耳に届く。この声は……!


 声のした方へ顔を向けると、探し求めていた人物――リンの姿がそこにはあった。

 

「ここにいたのか」

 俺は安堵の息を吐きながら、そう呟くように言う。


 ふぅ、やれやれ……どうにか合流出来たな……

クリスマスですが、特にクリスマスらしい展開にはなりません(何)

まあ、雪の降りしきる地が舞台だったり、それっぽい場所に行ったりしていますが……偶然です!


獄炎戦車再び! の回です。

まあ、RPGなどでは一度倒したボスというのは、後にただの雑魚として登場するのが常なわけで……この話でもそうなっています(笑)


それはそうと、クーレンティルナが変化能力を得た事への推測(仮説)の話は、前の話でやっておいた方が良かった気がしますね……


追記:話数が抜けていたので記載しました。

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