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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第10話 クレアウィスパーとフォーリア公国

「リンスレット、そんな所に隠れてないで出てきたらどうだー?」

 茂みに隠れているリンスレットに向かってそんな言葉を投げかける。

 

「………………」

「………………」


 互いに沈黙する事しばし……。観念したらしいリンスレットが、フードを脱ぎながら茂みの中から姿を見せる。

「……まさか、この距離で気付かれるとは思わなかったぜ。いや、そっちの飛竜で上空から見られたか?」


「うん、半分正解。残り半分はソー兄の力――多分『クレアボヤンス』かな? だけどね」

「ああ、その通りだ」

 朔耶の言葉に頷いてそう返すと、俺はリンスレットの方に向き直り、説明する。

「ちなみにクレアボヤンスってのは遠くを視たり、壁の向こう側を視たり出来るサイキック――異能の事だ。まあ、壁の向こう側を視る方関しては、かなり壁に接近しないと無理だけどな」

 

「はーん……なるほどな。私の『耳』と同じような物って事か」

 俺の説明を聞き、さらりとそんな風に言ってくるリンスレット。

 同じような感じの異能?

 

「耳? どういう事だ? リンスレットも異能持ちなのか?」

「ああ、その通りだ。っと……その前に、そのリンスレットって呼び方面倒じゃないか? リンでいいぜ」

「わかった。――それで、リン。耳の異能ってのは?」

「私は、離れた所の声や音を、耳に意識を集中する事で拾えるんだよ。――たとえ、間に防音障壁があっても、だ」

「なるほど……。それはなんというか、クレアボヤンスの聴覚版って感じだな」


 クレアオーディエンスに近いけど、あれはもうちょっとこう……霊的な感じの音を捉える能力だしなぁ。

 あえて名前をつけるなら、クレアウィスパー……ってところか?

 

 ――そういや、この世界へやって来た直後に、ディアーナが『地球に転生したためにサイキックを得た』とか『因子が本来とは違う形で作用した』みたいな事を言っていたっけな。

 ふむ……。あれをもとに考えると、俺のサイキックってのは『地球に転生した事で、こちらの世界で得るはずだった異能の因子みたいなのが増幅されて発現した』っていう感じなんじゃなかろうか。

 

 ……っと、いかん。深く考察してしまう所だった。

 

「――で、昨日の夜なんだが、ついアンタらが議長の部屋で話をしているのを聞いちまってな。女神様の名やらローディアスの話やらが出て来たもんだから、気になっちまったんだよ」

「なるほどねぇ。私たちを尾行していたのは、そういう事かぁ」

 リンの話を聞き、ウンウンと首を縦に振って納得を示す朔耶。

 

 その朔耶の隣で、クーが先程から良く分かっていない様子で、若干ポカーンとしている。……まあ詳しく話していないからそうなるよなぁ。

 

 で、逆にリンの方は昨日の話を知っているし、これからディアーナに会おうとしている事も分かっている……と、そんな感じか。

 となると、リンも連れて行くしかなさそうだ。

 まあ……さすがに異能者だというのは想定外だったし、こればかりは仕方がないな……


                    ◆

 

 ――クーとリンに改めて詳しく説明した後、俺たちは星天の海蝕洞の中へと足を踏み入れる。

 

「ホントにこの護符があるだけで結界をすり抜けられるんだねっ! なんだか面白いっ!」

「キュピキュピィ!」

 アルと一緒に結界を出入りしている朔耶。……何を遊んでいるんだか……

 

「はー、なるほどな。こいつが星天という名がついている理由かぁ。納得だぜ」

 そう言いながら頭上を見上げるリン。


 リンの続くようにして頭上を見上げると、海蝕洞の天井には色とりどりの結晶が埋まっており、それが星空のように輝いていた。

 これは凄いな……。たしかに星天という名がついているのも納得出来る。

 

「あれらは全て様々な属性の魔晶なのです。1つ1つは小さいですが、とにかく数が多いのが特徴なのです」

 と、クーが上を見ながら説明してくる。

 

「あれ1つ1つが別の魔晶の輝きだと考えると、たしかにとんでもない数だな」

「うん。どのくらいあるんだろう? 数えてる途中で忘れそう」

 俺の言葉に続くようにして、そんな風に言ってくる朔耶。

 いつの間にか結界を出入りして遊ぶのは止めたらしく、アルの方も既に送還されていた。

 

 とまあ……それはさておき、だ。ここなら間違いなく使えそうだな。

 俺は早速、例のオーブを次元鞄から取り出し、ディアーナに向かって呼びかける。

 

「はいー、ソウヤさんー、どうかしましたかー? ってー、また人が増えてませんかー? まー、とりあえずー、テレポータルを開きますねー」

 そんなディアーナの返答とともにテレポータルが開かれる。

 

「さて、いくぞ」

 俺がそう声をかけると、リンが緊張に震える声で、

「お、おう。なんだか緊張してきたぜ」

 そんな風に言葉を返してくる。

 そして、その横に立つクーもまた緊張した面持ちで、小刻みに首を縦に振り続けていた。

 

「まあ、そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。うんうん」

 朔耶がそう言って俺よりも先にテレポータルに入っていく。

 

「そうですよー。さあさあー、どうぞどうぞー」

 テレポータルの向こうからディアーナがそんな言葉を投げかけてくる。

 

「で、では、おじゃましますです」

「お、おじゃまするぜ――じゃなくて! おじゃまさせていただきます!」

 そんな感じで、クーとリンもテレポータルへと入っていく。

 

 うーむ……リンが始めて敬語を使ったのを聞いた気がするな。

 なんて事を思いつつ、俺もテレポータルへと入っていった――

 

                    ◆

 

「――とまあそういうわけでして、ローディアス大陸のどこか……出来れば、フォーリア公国がいいんですけど、そこへテレポータルを開いて貰えませんか?」

 そんな感じで俺が説明を終えたところで、

「な、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます」

 と、リンがそう言いながら、気品のある動きで頭を深く下げる。

 こういう風な言動も出来るあたりは、大公家の公女らしいな。

 

 ちなみにクーとリンには、アーヴィング一家にしたのと同じ話を既にしてある。

 そのせいか、リンが俺に対して急に敬語を使い始めたのだが……

 まあ、第一印象があれなので、どうにも似合わないというか、落ち着かないというか、ともかくそんな感じだったので、俺に対しては今まで通りにしてくれと言ってあったりする。


「ローディアス大陸はー、ところどころテレポータルをー、開けない場所があるんですよねー。とりあえずー、ちょっと見てみましょうかー」

 ディアーナがそう口にした直後、足元に波紋が広がり始める。

 そして、波紋の広がり収まるとそこには1つの大陸が映し出されていた。

 

「これは……ローディアス大陸……ですね。もうここまで飛んで来たのですか?」

 リンがディアーナの方を見て言う。引き続き敬語だ。

 

「いえー、これはローディアス大陸を投影しているだけですー。えーっと、フォーリア公国はー、ここらへんでしたっけー?」

 そう言いながら、大陸の北西部を拡大していくディアーナ。

 

「はい。その北西部にあるデルムド半島とクインシス平原、それからガナッシャ砂漠の西部が公国領となります。そして首都である公都ルナルガントですが、デルムド半島の中央部にあります」

「ふむふむー」


 リンの説明を聞きながら、ディアーナが北西部をどんどん拡大していく。

 ……と、程なくして雪化粧をした都市が見えてきた。

 どうやらこれが公都ルナルガントらしい。ルクストリアと比べるとコンパクトな感じの都市だが、それでもアルミナの20倍くらいはあるだろう。

 

「うわぁ……なんか凄い中世っぽい雰囲気!」

 朔耶がルナルガントの街並みを眺めながら、そんな感想を口にする。

 

 たしかに朔耶の言う通り、ルナルガントの街並みは石造りを基調とした物で、いかにも中世ヨーロッパといった感じの雰囲気が漂っていた。

 吹雪ってほどじゃないけど、かなり雪が降っているな……。なんだかとても寒そうだ。

 

「公都ルナルガント――っていうか、フォーリア公国の各都市は、中世の時代からずっとその街並みを維持してきているからな。どこもこんな感じだぜ。つっても、全部が全部中世のままじゃ暮らしづらいからな。建物の中はかなり近代化されていたりするんだぜ。外も街灯なんかは、ロウソクの光じゃなくて魔煌具の光だったりするしな」

 朔耶の方を向き、そう説明するリン。


「へぇ、そうなんだ。……でも、だとしたら雪雲のせいで結構暗いのに、明かり1つ灯ってないのは、なんでだろう……」

 リンの説明を聞いた朔耶が、眼下の街並みを眺めつつそんな疑問を口にする。

 

「あ、たしかに不思議なのです。普通このくらい暗かったら、魔煌灯の類であれば自動で点灯するはずなのです」

 クーが朔耶の言葉に対し、相槌を打つ。

 なるほど……言われてみると街全体が暗くて、明かりが灯されているような場所は一箇所も見当たらないな。

 

「うぅーん……。なんだかー、魔力――魔煌波がー、存在していない気がしますねー」

「えっと……すいません、それはどういう事なのでしょう?」

 首を傾げるディアーナに、リンが問いかける。

 

「少し前にー、ソウヤさんとー、アルミナの地下神殿遺跡にー、行ったのですがー、その時と同じようにー、なっている気がー、しますー」

「えーっと……それはつまり、ルナルガントとその周辺では魔法や魔煌具が使えない、って事ですか?」

 ディアーナの言葉に対し、リンに代わって今度は俺が問う。

 

「そういう事ですー。正確に言うとー、大陸全体ですねー。というのもー、大陸全体を覆うー、例の化け物に似た波長を持つー、謎のエネルギーの奔流によってー、魔煌波がー、大陸の外にー、押し出されてしまっているような感じにー、なっているんですよー。そしてー、そんな状況なのでー、多分ですがー、次元境界の歪みもー、発生していると思いますー」

 俺の方を見て、そんなとんでもない事を一気に述べるディアーナ。

 

 うわぁ……マジかぁ。どう考えてもヤバそうな気しかしないぞ……ソレ。

ようやく、アルミナでの『出来事』から繋がる話へとやって来られました……

ちなみに、サマルカンドという街が現実にある為、少々紛らわしいのですが、ルナルカンドではなくルナル『ガント』です!


追記:衍字と脱字を見つけたので修正しました。

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