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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第1話 エステルと秋原と蒼夜

第3章のタイトルは、特定の地名ではなく『南方』編です。

 ディンベル獣王国行きが3日後に決まった翌日――


「というわけでソー兄、みんなと服を買いに行ってくるね」

 と、朔耶が言ってきた。なにが『というわけ』なのかさっぱりだが、まあいい。

 ちなみに『みんな』というのは、アリーセ、ロゼ、シャルロッテの3人の事だ。

 

「ん、ついでに防御魔法も付与してくる。ソウヤ、例の守護印貸して。うん」

 ロゼがそんな風に言いながら、手を伸ばしてくる。


「ああ、あれか。――ほれ」

 俺はディアーナから貰った極端な性能を有する守護印を、次元鞄から取り出してロゼに手渡す。

「うん、ありがと」

 

「ところで、ソウヤはどうするの?」

「ちょっと用意しておく物があるから、ギルドへ行くつもりだ」

 シャルロッテの問いかけにそう返す俺。

 

 シャルロッテがディンベル獣王国へ行くのなら、プリヴィータの花を手に入れたらすぐに絶霊紋を完全版に出来るよう、それ以外の素材を全て集めておこうと思ったのだ。


「さて、それでは行ってきますね」

「ああ、気をつけてな」

 アリーセにそう返しながら、どう考えても気をつける要素なんてないんじゃないか? とも思ったりする。

 もし、アホな奴らに絡まれたとしても、速攻で返り討ちにしそうだしな。

 

 ……っと、そんな事を考えてないで、俺もギルドへ行くとしよ……うとした所で、アーヴィングがやって来た。どうやら例の素材が届いたらしい。

 ふむ、丁度いい所に来たな。ついでにそちらも回収していくとするか。

 

                    ◆


「あ、その件でしたら、私も同行しますよ!」

 カリンカからドリルクラブの素材を受け取るついでに、ディンベル獣王国へ行く事を告げると、そんな風に返された。

 

「え? そうなのか?」 

「はい。――本当は本部長が行く予定だったのですが、例の学院長の件で色々あってルクストリアから離れるわけにはいかなくなってしまったので、代わりに私が行く事になったんですよ」

 俺の問いかけに、そう答えてくるカリンカ。

 

「ああ、なるほどな……」

「そういうわけですので、あちらでもよろしくお願いしますね」

「こちらこそ。……っと、そうだ、他の素材を行くまでに集めておきたいんだが、丁度いい依頼とかってあるか?」

「昨日見せていただいた紙に記されていた素材ですよね? それでしたら、丁度良い依頼がありますよ。全部受けていきますか?」

「頼む」


                    ◆


 ――とまあ、そんな感じでカリンカから依頼をまとめて受けた俺は、早速依頼をこなす……前に、治療院に再び訪れた。

 

「お、ソウヤではないか」

 エステルの病室に入るなり、そんな声が聴こえる。

 声のした方を見ると、元気そうなエステルの姿がそこにはあった。

 手も足も再生済みのようで、なにやらチラシのようなものを手に持っていた。

 

「元気そうだな」

「うむ、特に問題はないな。とはいえ……経過観察やら検査やらで、退院まであと5日かかるそうじゃがの。むぅ、実に暇じゃわい」

 俺の言葉にそう返しつつ、手に持ったチラシのらしきものを備え付けのキャビネットの上に置くエステル。

 なんとなく視線をチラシらしきものに向けると、そこには大きく《第15回レビバイクバトルレース開催!》と書かれていた。……レビバイクバトルレース?

 

「ああ、これは再来週、トゥーランで開催されるレビバイクを使ったレース――要するに、闘技大会の告知じゃよ」

 俺の視線がチラシに行っている事に気づいたエステルが、そんな風に言ってくる。


 ……レースと言っておきながら『闘技』大会ってどういう事だ?

 まあ、バトルっていう怪しい単語が含まれている時点で、普通のレースじゃなさそうなのはわかるけどさ。

 で、それの開催される場所っていうのが――


「トゥーラン?」

 聞いた事のない名前だな。話の流れ的に考えると街の名前っぽいけど……どこだ?

 と、そう思っていると、エステルがトゥーランについての説明をしてきた。

「ディンベル獣王国にある街の名じゃよ。空港のあるメルメディオと、王都ベアステートの丁度中間くらいにあっての、半年に1回レビバイクバトルレースが開催される事で有名な街じゃな。……逆を言うと、それ以外には名物らしい名物のない街でもあるんじゃがの」


「ふむ……なるほど。ディンベル獣王国には3日後に行く予定だな」

「なんじゃと? もしや、おぬしもレビバイクバトルレースに出るつもりだったりするんかの?」

 呟くようにいった俺に、食いつき気味に言葉を返してくるエステル。


「いや、俺は別件で王都へ行く予定だ。っていうか、レビバイクバトルレースなんてものがある事は、今日始めて知ったしな。……しかし、『も』って事は……もしかして?」

「うむ。このレースには妾――正確に言うと、妾と弟弟子のタッグで、毎回出場しておるのじゃよ。無論今回も出場するぞい」

「へぇ、毎回出場しているのか。……って、ああそうか、だからレビバイクを所有しているわけか」

「うむ、そういう事じゃ。ちなみに……じゃが、地下神殿遺跡へ行く際にお主に貸したアレは、以前弟弟子がレースで使っておった物じゃよ」

「なるほど、そうだったのか」


 弟弟子っていうと……室長の事だな。

 まったく……『弟弟子』じゃなくて、名前で呼んでくれればもうちょっと早く気づけたものを。まあ今更だけどさ。

 と、心の中でため息をついていると、後方から聞き覚えのある声が聴こえてきた。

「――本当は、今年は参加せずに安静にしていて欲しいんですけどね」

 

 振り向くと、予想通り室長が病室に入ってくる所だった。

 やはりというべきか、地球で最後に見た時と比べ、相応に歳を取った姿である。

 ……ってか、百貨店のエレベーターから見えた室長に似た人、似た人じゃなくて本人だったようだ。こうやって実際に見ると良く分かるな。

 まあ、あの時は歳を取っているだなんて思っていなかったからなぁ……

 

 と、そんな事を考えていると、 

「やあ、蒼夜君。お久しぶりです」

 なんとも軽い口調でそう言ってくる室長。

 

「なんじゃ? ふたりは知り合いじゃったのか?」

 エステルが、もっともな疑問を口にする。


「ええ。今まで黙っていましたが、同じ里の出身なのですよ」

「なんじゃとっ!?」

 室長の発言に驚きの声を上げるエステル。

 ってか、室長はその設定でいくつもりなのか。

 

「……じゃが、コウの生み出した魔煌具がどれもこれもとんでもない代物ばかりである理由が、彼の里の出身であるからじゃとすれば、得心がいくのもたしかではあるのぅ……」

「ま、そういう事です」

 エステルが呟くように言った事に対し、曖昧に、かつ短く言葉を返す室長。

 

「――それはそうと、本当に出場するのですか?」

「当たり前じゃろう。そもそも、体を動かすのは、もうほとんど問題ないわい」

「それはまあ……そうかもしれませんが……」

「それより、そっちは大丈夫なのかの? あのバカな学院長のしでかした事の後始末をしている最中なのじゃろう?」

「ええ、こちらはまったく問題ありませんよ。1週間もあれば全て一通り区切りをつけられるでしょう。無論、新型のレビバイクの調整もばっちりです」


 なんていう二人の会話を、近くに置かれていた椅子に座って聞いていると、話が一区切りついたらしく、室長がエステルに向かって、

「――さて、そろそろお暇しますね」

 と、そう告げた。


「む。もう帰るのか?」

「まあ……あまり学院の方を空けておくわけにもいきませんので……。また明日来ます」

 室長が残念そうなエステルに対してそう言うと、俺の方に顔を向け、今度は俺に対して言葉を紡いでくる。

「あ、色々と話をしたい事もあるので、ちょっといいですか?」


                    ◆


 室長の言葉に促される形で、治療院の外へと出たところで、室長が口を開く。 

「本当はアーヴィングの家に伺うつもりだったのですが、丁度出会った事ですし、今、この場で話をするとしましょう」


「あ、一応ですけど、室長たちがこっちの世界に来た経緯については、朔耶から聞いています」

「え!? 朔耶君と既に会っていたのですか!?」

 俺の言葉に心底驚いたという表情をする室長。


「偶然というかなんというか……昨日、ディーグラッツに討獣士ギルドの依頼で行った際に、空港で……。なんでもロンダームに居たそうです」

「そうでしたか……。朔耶君だけ情報が得られずにいたのですが、まさかこのイルシュバーン共和国内に居るとは……」

 想定外だと言わんばかりに、室長が額に手を当てて頭を振る。


「あ、朔耶は半年前に来たばかりだと言っていたので、そのせいもあるかと」

「半年ですか? 私や他の面々と比べて、随分と到着が遅いですね……。ほぼ同時に飛び込んだはずなのですが……」

 それでも10年近い差が生じるのか。凄まじく不安定だな。


「そんな風に言うという事は……朔耶以外の他の皆に関して、今どこにいるのかご存知だという事ですか?」

「そうですね。クーレンティルナ君に関しては間違いなく居場所を知っています。この目で確認しましたので。――しかしながら、倉門姉弟に関しては、あくまでも『情報』に過ぎませんね。実際にこの目で確認したわけではありませんので……」

「まあ、それでも情報が皆無よりはいいかと……。とりあえず教えてください」


 俺がそう促すと、室長が3人の事を話始める。

 

 クー……クーレンティルナは8年前にこちらの世界にやって来ており、今はディンベル獣王国のとある伯爵家で暮らしているらしい。

 で、そのとある伯爵家の屋敷というのが、例のレビバイクバトルレースが開催されるというトゥーランにあるらしい。ふむ……寄る事が出来そうであれば、是非寄ってみたいところだな。


 倉門姉弟――蓮司だが、以前はヴァルガスという名の傭兵が率いる傭兵団の一員として活動していたようだが、最近は団を離れて行動しているらしい。

 

 そして、珠鈴の方は『リリア』という偽名を名乗り、ここフェルトール大陸北部やグラズベイル大陸を中心に傭兵として活動しているようだ。

 ただ、特定の傭兵団に所属しているわけではなく、様々な傭兵団に短期間――1つの依頼の間など――だけ同行するというスタンスだという。なんだか、傭兵の傭兵みたいな感じだな。

 ……それと、このルクストリアで暗躍する組織と繋がっているという情報も入ってきているようだが、こちらは不明瞭な点が多く信憑性に欠けるらしい。

 

 だが、アリーセの家に侵入して来たあいつが、もし珠鈴本人であるのなら、そちらの情報の信憑性が少し増すな……

 しかし……だ。もしそうだとしたら、何故そんな連中に協力しているのだろうか?

 アリーセから聞いた話と室長の話を合わせて考えると、『スナイパーライフル』を持ち出してきたのも、キメラの研究や実験を行っていたのも、その辺りの連中である可能性が非常に高い。

 決して善人だとは言い難いそんな奴らに、あの珠鈴が協力するとは思えないんだよなぁ……

 

 俺はとりあえずあの夜の事や、今考えた事を室長に話してみる。

 すると室長は、しばし考えた後、

「――たしかに色々と不可解ですが、珠鈴君が何らかの理由で『エーデルファーネ』や『真王戦線』といった連中に協力している可能性は高そうですね……。護民士の知り合いに頼んで、少し情報の出処について探ってみるとしましょう」

 と、そんな風に言ってきた。

 

「探る……とは、どうやって?」

「実の所、護民士の中にそれらの組織と繋がりのある者――スパイがいたりするんですよね。で、そのスパイを逆に利用させて貰って、サイコメトリーで情報を引き出すんですよ」

 俺の疑問にそう答える室長。ああなるほど……サイコメトリーか。

 相変わらず、こういった情報収集では便利なサイキックだな。

 

 うーん……それにしても護民士の中にスパイ、か。

 シャルロッテが護民士の事を警戒していたけど、たしかに警戒して正解だな。

 

「しかし、そうなるとこの件に関しては追加の情報待ちって感じですね」

「そうなりますね。……ちなみに、他に蒼夜君側が持つ情報はありますか?」 

「あー、そうですね……。あると言えばありますね――」 


 そう言って、俺はとりあえずディアーナの事やアルミナでの事について話す。

 そして、室長はその俺の話を聞き終えると、色々と合点がいったと言いつつも、盛大にため息をつくのだった――

エステルがレビバイクを2台所有していた理由が、今回のコレです。

バトルレースとやらの話題が出てきましたが、はてさて?

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