結 サクヤとディアーナ
今回は若干長めです。
<Side:Souya>
――ギルドでついでにランクを測定したら、161になっていた。
「161って……上がるの早すぎだよ……」
朔耶はそんな風に言ってため息をついた。
「俺自身がトドメを刺したわけじゃない奴も、撃破としてカウントされてるからだと思うが……」
「まあたしかに、ソー兄の周囲って強い人ばっかりっぽいからね……」
俺の言葉に若干呆れ気味にそう言ってくる朔耶。
実際、戦闘能力の高い人間が揃っているのは間違いないな。
「――っと、大聖堂についたぞ」
「……それっぽい建物ないんだけど?」
大聖堂のレビバイク置き場にレビバイクを停めた所で、朔耶が以前の俺と同じような疑問を口にする。
「大聖堂は地下にあるからな」
そう言って、入口へと案内する俺。
「地下にあるって、なんだかちょっと面白い構造だね」
「ああ、俺も最初はそう思った」
と、そんな会話をしながら階段を降りていく。
日没寸前だからか、外へ出ていく人はいるものの、中へ入ろうという人はいなかった。
「人がまったくいないけど、こういうものなの?」
「夜は女神への祈りが通じにくいとかなんとか、そんな理由で訪れる人がいないんだとさ。実際にはそんな事ないんだけどな」
「へぇ、そうなんだ……。だから外へ出ていく人しかいなかったんだね」
「ま、そういう事だな」
なんにせよ、こっちとしては都合が良い話ではある。
昨夜と同様に大聖堂の隅へと移動すると、そこでオーブを次元鞄から取り出す。
そして、オーブに向かって呼びかけると、すぐにディアーナの声が聴こえてきた。
「あれー? 昨日ぶりですねー? 何かあったんですかー?」
「うわ、凄い! っていうか、ファンタジーっぽい!」
「おやー? また誰かいますねー?」
朔耶の驚く声にディアーナが気づき、そう問いかけてくる。
「えーっと……俺の地球での幼馴染です」
「地球ですかー? たしかー、ソウヤさんがー、こっちに来るま……えっ? ええっ!? ど、どうやってこちらへやって来たんですかー!?」
俺の返答に対し、声を大にして驚くディアーナ。まあ……わからなくもない。
「と、ともかく、こちらにどうぞー!」
ディアーナによってテレポータルが開かれる。
「うわぁ……。これもまた凄いなぁ……」
朔耶が感嘆の声を漏らす。たしかによくよく考えると、とんでもないよな、これ。
「ほれ、とりあえず行くぞ」
俺は朔耶にそう促しつつ、再びディアーナの領域へと足を踏み入れるのだった。
◆
<Side:Sakuya>
女神様の空間は、なんとも不思議な場所だった。というか――
「こっちの世界に来る時に通過した異次元空間と何だか似ている気がするなぁ……」
「ここに似た異次元空間……ですかー?」
女神様が間延びした口調でそう問いかけてくる。
うーん、随分とスローテンポだなぁ。この人。――じゃなくて、この女神様。
「はい。正確には通過というか落下……ですかね? ゲートの渦に飛び込んだら、その先は地面がなくて、かなり下に見えた渦に向かってひたすら落下していった感じでしたね。……ただ、落下速度がかなりゆっくりだったので、あんまり落っこちているっていう感じではありませんでしたけど」
そう私が答えると、女神様はウンウンという感じで首を縦に振りながら、
「なるほどなるほどー」
と、言った。
それにしても……あれがもし普通の落下速度だったら、正直な所、怖すぎて気絶してたかもしないなぁ。
なにしろ20階建てのマンションの屋上から下を覗くよりも、下に見えた渦は遠かったし。
なんて事をふと思っていると、
「ううーん、なんとなくですけどー、時空間隙穿孔法っぽいですねー。それー」
そんな事を女神様が言ってきた。
「じくう……かんげき?」
「せんこう……ほう?」
と、蒼夜が首を傾げながら発した疑問の言葉を、私が同じく首を傾げながら引き継ぐ形で言う。
「えーっとですねー。『竜の血盟』によってー、『異世界に行く方法』としてー、考えられていた手段のー、1つですねー。時空の隙間にー、特殊な術式で穴を開けてー、そこに飛び込む事でー、別の時空へとー、移動するという手段ですー。もっともー、飛び込んだら最後でー、戻っては来られない片道のみの手段だったのでー、実験途中でー、破棄されたとー、記録にはありましたねー」
などと女神様が説明してくるものの、いまいち理解出来なかった。
うーん……要するに床に穴を開けて下の階に飛び降りる感じなのかな?
だから、下――他の世界に移動したら、上――元いた世界に戻る事は出来ない、と。
「――地球側で『竜の血盟』と名乗っていた連中は、2億年前のこの世界――グラスティアで、地球へと続く穴を開ける実験をして、そこに飛び込んで地球にたどり着いた後、また地球からグラスティアへと続く穴を開けて、舞い戻ってきたって所か?」
「そうかもしれませんねー。話からするとー、竜の血盟はー、その一方通行のー、異世界への門をー、完成させた可能性が高いですねー」
蒼夜の推測に同意して頷く女神様。
「ふむ……。だとすると凄い時間のズレが生じているな……。あいつらが2億年前の地球にたどり着いて、それからずっと裏で暗躍していた……なんて到底思えないし」
「うん、浦島太郎もびっくりの時間経過だよね」
蒼夜の推測に対し、私は付け加えるかのようにそう言った。
「なんかちょっと違う気もするが……まあいい。しかし……異世界間の移動手段を完成させているとしても、どうも不安定すぎるな手段だな。仮にその技術を手に入れたとしても、地球のあの時間、あの場所へぴったり戻れる気がしない」
「あー、うん、たしかに。それを使って地球に戻ったら、1億年後とかになってそう」
1億年後の地球というのも、それはそれで見てみたい気もしなくはないけどね。
それだけ経過したら宇宙にも進出してそうだし、宇宙人が普通に地球で暮らしていたりするかも。
……って、そうだ。宇宙人で思い出した。
「あの……ディアーナ様? ソー兄って、ディアーナ様によって、『全ての言語が刷り込まれて』いるんですよね? それって、私にも出来たりしませんか?」
出来ないと言われるかもしれないと思いつつ尋ねてみると、
「あー、あれですかー? 構いませんよー。今やりますかー?」
と、予想外な事に女神様はあっさりと承諾してくれた。
「あ、はい。お願いします!」
「ちょーっとばかしー、激痛が走りますけどー、我慢してくださいねー」
え? え? 激痛? ちょっとばかしなのに、激痛? ど、どういう事?
「え、あ、ちょ、ちょっとま――ひぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁあああ!?!?!?」
あ、頭が、痛いっ! アツいっ! 焼けるっ! 焼けるっ! 焼けるぅぅぅぅぅっ!
◆
<Side:Souya>
ディアーナとの話を一通り終えた俺と朔耶は、ディアーナの領域を後にした。
竜の血盟が完成させたと思しき異世界間の移動手段は、技術自体は興味があるが、一旦そっちは置いておくことにした。
最初は地球へ戻る手段となる技術を確立させるために、異世界に魂が流れてしまうという謎の現象を調査しようと思っていたのだが……朔耶たちがこちらの世界に来ているのであれば、急いで地球へ戻る必要は特にないしな。
そもそも、その現象も他の様々な要因と絡み合っていて、一筋縄にいきそうにないどころか、他の要因もそれはそれでかなり問題だ。
……しかし、改めて考えると、すでに単独での調査は限界を超えているな。
協力者を増やす方針にしたのは、正解だったかもしれない。
「うぅ……。ものすごく痛かった……。『全ての言語が刷り込む』のが、あんなにアツくて痛いものだなんて思わなかったよ……」
そんな事を力なく朔耶が言ってきたので、俺は思考を中断し、
「と言われても、俺の時は半分死んでたせいか、痛みとかは特に感じなかったからなぁ」
と、答えた。まあもっとも……絶叫しながら転げまわる朔耶のあの様子からして、凄まじい痛さなのであろう事は十分に理解出来たが。
「むぅ、なんかズルい」
「いや、ズルいって……」
と、そんな事を朔耶と話しながらアリーセの家へと戻ってくると、既にシャルロッテは戻ってきており、アリーセとロゼ、それにアーヴィングもいた。
「あ、おかえりなさい。――えっと、そちらの方がソウヤさんの幼馴染だという……?」
アリーセが俺に向かってそんな質問を投げかけてきた。
「ああ。っていうか、シャルロッテから聞いたのか?」
「ん、そういう事」
アリーセの代わりにロゼが俺の問いかけに答える。
「なるほどな。まあ、一応改めて紹介するか。――俺の幼馴染の朔耶……サクヤ・カミツギだ」
◆
「まさか、召喚士をこの目で見るとは思わなかったよ。さすがはソウヤ君の幼馴染といった所だろうか」
朔耶の自己紹介を聞き終えたアーヴィングがそんな風に言ってきた。
「ん、ソウヤも大概規格外だけど、サクヤも十分規格外。うん」
そう言って腕を組みながら、ウンウンと首を縦に振るロゼ。
「ええそうね。私も最初見た時は驚いたわ」
「でも、なんだか可愛いですね」
シャルロッテとアリーセが朔耶の呼び出したアルを見ながら言う。
「キュピィ~」
可愛いと言われたアルがアリーセの周りを回る。
「む、なんかアルがデレデレしてる」
不満げな表情をする朔耶。
……あれはそういう事なのか? よくわからんな。
「――ところで……話は変わるのだが、3日後にベアステートへ訪問する事になってね。同行するという形でソウヤ君も行くかね?」
アルを眺めていると、アーヴィングがそんな事を尋ねてきた。
ベアステート……ディンベル獣王国の王都だな。となれば当然――
「ええ、是非お願いします」
アーヴィングの方を向いてそう答える。
それに対してアリーセが、
「あ、でしたら私もいきます」
そうアーヴィングに対して言い、ロゼもまたそれに続く形で告げる。
「ん、アリーセが行くなら同じく私も行く」
「ああ、それは構わないが……」
アーヴィングは頷いてそう言った後、一呼吸置いてからシャルロッテと朔耶を交互に見て、問う。
「ふむ……シャルロッテさんとサクヤ君も一緒に行くかね?」
「行った事ないので、行けるなら是非っ!」
朔耶は即答だ。そしてシャルロッテもまた、
「ベアステートに行く用事があったので、助かります」
と、そう言った。ふむ……シャルロッテの方は、何か用事があるようだな。
「では、全員分手配しておくとしよう。ちょっと連絡してくるよ」
アーヴィングは俺たちにそう告げると、部屋から出ていく。
「うん? そう言えば、シャルロッテは何をしに?」
ロゼが首を傾げながら問いかける。
「実はロンダームでワイバーンに似た謎の魔物と戦ったんだけど、その戦いで刀が少し刃こぼれしてしまったのよ。それでそれを修復するための素材がベアステート近くに巣食う害獣からしか取れなくてね。取りに行く必要があったのよ」
「あ、そう言えば博士とそんな話してたね。……あの魔物なんだったんだろう? 銀色の爆発と共に何も残さずに消えるなんて聞いた事がないよ」
シャルロッテの説明に対し、朔耶がそんな風に言う。
「それって――」
「ええ、例のアルミナで私たちが遭遇したのと同じですね」
俺が言い終えるよりも先に、アリーセがそう言ってきた。やっぱりそうだよなぁ……
「ん、ギルドでも話を聞いた」
ああ、そう言えばそんな話を昨日していたっけな。
しかし、あいつはなんなのだろうか? 普通に存在しているような生物ではない事は間違いないが……
「あの時は幻獣の類ではないかと推測したんだったよな、あいつの事を」
アリーセの方を見てそう口にする俺。
「はい。そして、そう考えれば色々と辻褄が合う……と、そんな風にエステルさんが仰っていましたね」
「幻獣……。なるほどね、たしかに納得だわ。幻獣であると考えるなら、いろいろと辻褄が合うもの」
アリーセの話を聞いたシャルロッテが、顎に手を当てながらそう述べて、エステルの言に同意する。
「それにしても、俺たちの時は物理的な攻撃を仕掛けてないから気づかなかったが、あいつ、その刀が刃こぼれするほど硬かったんだな」
「魔煌波――魔法には弱い反面、物理には強い……と言った所でしょうか?」
俺とアリーセがそんな風に話していると、
「んー、硬いってのとは少し違うわね。――魔煌波と一体化して攻撃を防ぐなんていう地味に面倒な事して来たから、霊力を乗せて強引に斬り裂いてやったのよ。そしたら、刃こぼれしたわ。……多分だけど、膨大な霊力と魔煌波同士が衝突したせいで、削れてしまったんじゃないかしら」
などと言ってくるシャルロッテ。
あー、そう言えばそんな防御手段を持っていたっけな、あいつ。
っていうか、それを強引に斬り裂くとか……とんでもない事してんな、まったく。
と、そんな事を考えていると、アーヴィングが腕を組みながら呟くように言葉を紡ぐ。
「謎の魔物――幻獣と思しき存在が、アルミナに続いてロンダームにも姿を見せるとはな……。一体どんな理由があって現れたのか、それが気になるな」
奴が出現する理由……か。アーヴィングの言うように、たしかに気になる。
……気になるが、現時点ではお手上げだな。
なにか、きっかけでもあればいいんだが……
といった所で間章は終わりです。次回からは3章に入ります。
……が、今回はいきなりディンベル獣王国から開始するわけではなく、ディンベル獣王国へ向かう少し前からになる予定です。




