転 ゲートと竜の血盟
<Side:Coolentilna>
……私は、硬直したままの朔耶さんに何と声をかければいいのかわからないです。
だから、そんな朔耶さんに代わって、私はこう室長さんに問いかける事にしたです。……というより、それしか私には言葉に出来る物がないのです。
「で、でも、だとしたら何故、蒼夜さんが見当たらないのです?」
「斬られた直後に、光の粒子に包まれて消えてしまいました。……おそらく何者かによって、どこかへ転移させられたのではないかと」
室長さんが立ち上がりながらそう告げてきたです。
「え? それって……もしかしたら、ソー兄はまだ死んでいないかもしれないっていう事……ですか?」
朔耶さんが、藁にもすがる思いといった様子で問いかけたです。
「ええ、可能性は十分にありますね。そのためには、他のふたりが消えた場所も調べてみなくてはなりませんが」
という室長さんの言葉に対し、私と朔耶さんは顔を見合わせ、
「なら、急いで行くのですっ!」
「すぐに行って調べましょう!」
勢い良くそう返したのです。
◆
<Side:Sakuya>
「――でまあ、その後色々調べた結果、3人とも『こっちの世界』へ来ている可能性が高いって事になってね。その『ゲート』を使ってこっちへ来たってわけ。……まあ、ゲートは片道だった上、通過するタイミングで時間が大幅にズレるっぽくて、こっちに着いた時には、室長さんもクーちゃんもいなかったんだけど……」
私はそう言いながら、こっちに来た当初の事を思い出す。
言葉も通じないし、モンスター……っていうか害獣や魔獣はいるしで、大変だったんだよねぇ……ホント。
まあでも、大変ではあったけど、『遺失技法学士』とかいう変わった肩書を持つ博士から、魔煌具の改良の仕方とかを教えて貰えたり、霊獣と意思疎通を交わして契約したりも出来たし、何より……ソー兄と再会出来たし。
だから……私は、こっちの世界に来て本当に良かったって、心の底からそう思えるんだよね。
顔を水平線の彼方に向けながら――といっても、実際には魔煌波によるなんとかっていう現象のせいで水平線は見えないから、気分的かつ心の中でのイメージなだけだけど――感慨深げにしていると、
「なるほど、あそこにそんな物があったとはな。……だとしたら2億年前に……」
とかなんとかブツブツとソー兄が呟き始める。2億年前?
「ん? ソー兄、2億年前がどうかしたの?」
「ん? ああ、実はディアーナから聞いた話なんだが――」
そう言ってソー兄は、この世界の2億年前に『竜の血盟』という研究機関があり、異世界へと繋がる門を生み出す研究をしていた事を説明してきた。
「えええっ!? そ、それって、2億年前にこの世界から地球へやってきて、更にそこからこっちの世界へ舞い戻ったって事!?」
私は驚きのあまり、声を荒げてそう言う。
っていうか、2億年って……。
博士が太古の錬金術がどうとかこうとか言ってたけど、つくづくとんでもない世界だなぁ、この世界。
「ま、そういう事だな。――俺たちが本拠地に突入した時点で『竜の血盟』の幹部連中は、ほとんど姿が見えなかった。だから、蓮司や珠鈴に前後する形で、こちらに来ているのだろう」
と、頷いて言うソー兄。あー、そう言えばそうだったね。
「そうだね。ただ、あの時の調査で、『ゲート』はスズ姉とレンレンが消える直前に開いた事が分かってるから、ふたりより前ってのはないかな。多分、幹部がゲートを使ったのは、私たちがあそこへ行く前、もしくは私たちがこっちへ来た後だと思う」
「ふむ、そうなのか。なるほどな……」
「でも、さっき言ったようにゲートを通過するタイミングで時間が大幅にズレるから、まだ到着していない幹部もいるかもしれないね」
「ああ、それはたしかにありえるな。――そして、逆に10年前とかに既に到着している奴がいる可能性も、な」
「あー、たしかに」
私たちよりも遥かに前に到着して、既に動いているのだとしたら厄介だなぁ……
でも……例えそれでも、どうしてだかわからないけど、『竜の血盟』がどう動こうとも大丈夫、私たちなら問題ない、って思えるんだよね。
これって、ソー兄と再会出来たから……なのかな?
◆
<Side:Souya>
「多すぎですっ!」
ギルドでカリンカに、カニ退治の報告と解体の話をしたらそんな風に言われた。
「ほら、やっぱり超展開メーカー」
朔耶がジトッとした目でこちらを見ながらそう言ってくる。
……むぅ、否定のしようがない。
「ソウヤさんがとんでもないという話は聞いていましたけど、実際に目の当たりにすると何と言っていいのか分からなくなりますね。……とりあえずドリルクラブに関しては、ギルドの倉庫に放出していただけますでしょうか? そこで解体しますので」
そう言われて案内された倉庫にカニを全て出し終えた所で、
「また随分と狩ったものですわねぇ……」
という言葉と共に、サギリナ本部長が姿を見せた。
「――ところで、そちらの方は? うちのギルドで登録した討獣士ではありませんわよね? 髪の色からすると、アカツキから来たとかですの?」
サギリナ本部長が朔耶の方に視線を向けながら、もっともな疑問を口にする。
「そう言えば、たしかにルクストリアのギルドではお見かけした事のない方ですね。即席のパーティメンバーだと思って、特に気にしていませんでしたが……」
カリンカもまた、そう言って朔耶の方へと視線を向けた。
ああ、カリンカの口調が職員モードのままなのは、即席のパーティメンバーだと思っていたからか。
ってか、ギルドにパーティっていう仕組みがあったのを、今更ながらに思い出したぞ。
「えーっと……上津木朔耶――サクヤ・カミツギって言います。ソー兄と同じ里の出身で……要するに幼馴染ですね。討獣士登録は別の場所でしました。得意な戦い方は召喚です!」
朔耶が『隠れ里』の出身であるとふたりに自己紹介をする。
これは、ここに来る道中、誰かに出身や俺との関係について問われた時は、とりあえずそう自己紹介するようにと言っておいたからなのだが……。得意な戦い方を話せ、とまでは言っていないぞ。
「なるほど、そういう事でしたの。つまり召喚士ってわけですのね」
と、そんな風に言うサギリナ本部長。……召喚士って存在するのか。
「私、召喚士って始めてみたよ。たしか、精霊と契約を結ぶ事で、その精霊を呼んで使役する事が出来るようになった人の事だよね?」
カリンカがサギリナ本部長にそう問いかける。
口調が素のものになっているのは、朔耶が俺の幼馴染であるため問題ないと判断したからだろうか。
「ええ、その通りですわ。『古の精霊王ガルトハルク』なんかが有名ですわね」
サギリナ本部長が頷き、そう答える。
古の精霊王ガルトハルク? ああ……そう言えば、アルミナの地下神殿遺跡で、俺がサイキックの説明をアリーセとエステルにした時、アリーセがその名前を口にしていたな。
たしか、《精霊交信》とかいう『異能』を持っていたんだったか?
あの時はサイキックとは別物だと思っていたが、朔耶のテレパシーが変化――まあ、どうやって変化したのかはわからないけど、ともかく変化――して、召喚獣との意思疎通が出来る様になった事を考えると、精霊交信とやらも、実はテレパシーの類なんじゃなかろうか。
「召喚士って、それなりにいるんですか?」
「それなり……という程にはいませんわね。全くいないというわけでもありませんけれど、討獣士の中では多分……サクヤさんの他にはいませんわね。だからこそ、例に挙げたのが古の精霊王ガルトハルクなわけですし」
俺の問いかけに対してそう返してくるサギリナ本部長。
……なるほど。要するに、いるにはいるが結構希少な存在だって事か。
「傭兵の……『銀の王』と呼ばれている人が召喚士だという噂だけど、あの人は噂や謎が多すぎて、その噂も真実かどうかは分からないしね」
と、カリンカが横からそんな風に言ってきた。
よくわからんが、随分とミステリアスな傭兵みたいだな。その銀の王とやらは。
「傭兵ギルドの情報は、こちらに共有されている部分とされていない部分があるせいで、こういった点が厄介事になったりするんですのよねぇ……」
サギリナ本部長が、ため息交じりにそう呟くように言う。
それに対し、カリンカが苦笑して返す。
「まあたしかに。でもそれはこっちも同じだしね……。全部の情報を傭兵ギルドに対して開示しているわけじゃないし」
ふーむ……どうやら、全ての情報が共有されているってわけじゃないみたいだな。
まあ、それぞれのギルドごとに隠しておきたい情報ってのはあるんだろう。
「――ととっ、それはそれとして……このドリルクラブの山だけど、解体に2日はかかると思うんだ。それでも構わないかな?」
カリンカが俺と朔耶を交互に見てそんな風に問いかけてくる。
それに対し朔耶は俺の方を向き、
「私はただの付き添いだから、決めるのはソー兄かな」
と、そう言ってきた。
ふむ……。とりあえず1つあれば十分っぽいんだよなぁ、あの紙にかかれていた素材って。
という事で、俺はカリンカに対して1つだけ先に欲しい旨を告げる。
「あ、了解。それじゃあ、それに関しては明日の朝までに用意しておくね」
「ああわかった。よろしく頼む」
よし、これでとりあえず素材を1つ確保出来たな。
この調子で集めていくとしよう。
アルミナで、アリーセが古の精霊王の他にも異能者の例をあげていましたが、そちらも異能の性能(二つ名の特徴)を考えると……?
それはそれとして、間章は次回で終わりです。




