起 アルティ
間章その1です。
<Side:Souya>
とりあえず……というのも変だが、落ち着いて話をするべく、現在の滞在先であるアリーセの家に戻る事にした俺たちだが、俺はレビバイクで来ていたがシャルロッテは違うので、俺と朔耶がレビバイクで戻り、シャルロッテは鉄道で戻る事になった。
「へぇ、これがレビバイク……。本当に走行中は浮いてるんだね」
そんな感想の声が背中から聴こえる。俺の背中に張り付いている朔耶の声だ。
「ん? 見た事なかったのか?」
「ロンダームは山岳都市と呼ばれている時点でわかるかもしれないけど、山の斜面に作られているような街だからさ……傾斜が急な道が多くて階段ばっかりなんだよ。だから、レビバイクで走ったりなんてしたら、良くて階段からの落下、最悪の場合は崖下に真っ逆さまだよ」
「なんというか、随分とまあ凄い場所にある街だな……。けど、それならレビバイクを見た事がないというのも納得出来る」
悪路ならともかく、そういう場所ではいくら浮いていたとしても、使うのは難しそうだな。
「っていうか、もしかしてこの世界に来てから、ずっとロンダームにいたのか?」
「うんそうだよ。私、半年前にこっちに来たんだけど、その時に出会った人の所で色々と学んでいたんだ」
俺の問いかけにそう返してくる朔耶。
……半年前なのか。
アリーセたちの話によると、室長は10年くらい前にこっちへ来たようだから、大分ズレがあるな。
まあでも、朔耶が10年前に飛んでいなくてよかったと言えなくもない。
10歳も上の人間から『ソー兄』なんて呼ばれても困るし。
「っていうかソー兄、この世界の言葉上手すぎない? さっき、シャルロッテさんとめちゃくちゃ流暢に会話をしてて驚いたよ。一体全体どれだけ昔からいるのさ?」
「ん? まだ半月も経ってないぞ?」
「えええええっ!? なんでそんな短い短期間で、そんな完璧な言葉の言語を完璧にマスターしてんの!?」
驚きの声をあげる朔耶。てか、驚きのあまりなのか言葉が重複しすぎていて理解不能だ。
「まあ、落ち着け。これには色々あってだな――」
朔耶をなだめながら、俺はディアーナの事を話し始める。
……
…………
………………
「――とまあ、そんな感じなわけだ」
「ほわぁ……。なるほどねぇ……そういう事だったんだ。だったらそのディアーナ様っていう人……女神様? には感謝しないとっ、だよっ! ソー兄を助けてくれてありがとうってね!」
俺から話を聞き終えた朔耶が、ハイテンション気味にそんな風に言った。
「ああ、たしかにディアーナには感謝だな」
「うんうん! 会って直接お礼を言いたいな! あ、ついでにその全ての言語をウンヌンカンヌンってのもやって欲しいかも!」
更にハイテンションなままそう言ってくる朔耶。
「あー、そうか。先に行っておくか……。大聖堂はギルドからそう遠くないし」
「あ、そんな簡単に会えるもんなんだ……」
「そうだな……比較的簡単ではあるな」
でも、この時間帯だと大聖堂は人多いか? まあ、行ってみるだけ行ってみよう。
「うーん、なんだかよくわからないけど、とりあえず楽しみだよっ! ギルドの方は何? 討獣士? 傭兵? ってかソー兄、なんか依頼受けてたの?」
「いっぺんに言うな……」
なんだかアリーセに出会った当初の、捲し立てられた時の事をちょっと思い出したぞ。
今考えると、あれは焦っていたのと興奮していたのが原因なんだな。
アリーセは『英雄』――ピンチを救ったり、悪を挫いたりする者――という存在そのものに対し、憧憬の念を抱いている面があるみたいだし。
っと、それは置いておくとして……
「討獣士の方だ。カニ退治の依頼を受けたんだよ。まあ、空港に行く前に片付けてあるから報告するだけどな」
「そうだったんだ。じゃあ、大聖堂へ行く前にギルドに寄って報告するんだね。了解。って、そういえばソー兄ってランクいくつなの? 私は100になったばっかりなんだけど」
納得した朔耶が、そんな風に尋ねてくる。
「138……だけど、そう言えばなんだかんだで更新するのを忘れているな……。多分、そこから更に少し上がっていると思う」
「ちょっ!? ひゃくさんじゅうはち!? 高すぎない!? 何をどうやったら半月もしないでそんなランクになるのさっ!?」
再び驚きの声を上げる朔耶。……そう言われてもなぁ。
っていうか耳元で叫びすぎだ。耳がキンキンする。
まあ……なんだ? とりあえずアルミナでの一件について話すとするか――
◆
<Side:Sakuya>
「ソー兄、なんだか凄くとんでもない事してたんだね……」
私はため息混じりにそう言った。
ソー兄とその周囲の面々の大半――といっても実際にはまだ会った事がないし、あくまでソー兄やシャルから聞いた話で、だけど――が、魔獣を瞬殺出来るような戦闘能力を持っているからなんだかごく当たり前のように倒せる話になっているものの、普通は魔獣ってそんなに簡単に倒せるようなものじゃないんだよねぇ……
「そこまでとんでもない事をしたとは思っていないんだが……。たしかに周りからはそんな目で見られているし、やっぱりとんでもない事をしていたんだろうな、うん。っていうか、その大半は霊幻鋼の剣のせいな気がしないでもないが」
そんな事を言うソー兄。……んん?
「え? 霊幻鋼の剣なんて持ってるの?」
「持ってるぞ。ディアーナから貰ったからな」
ソー兄が私の問いかけに対し、サラッとそう言って返してくる。
……さ、さすが女神様。渡す武器が規格外すぎだよ……
「女神様から聖剣級の剣を渡されるとか、まるで勇者みたいだよ……。っていうか、それだけじゃなくて、ソー兄のサイキックも強化されているんだね」
「いや、勇者って……」
私の言葉に対し、ため息交じりにそう短く返し、首を左右に振るソー兄。
そして、一呼吸置いた後、
「――それはそうと、ソー兄『の』サイキック『も』って言ったよな、今。っていう事は、お前のテレパシーも?」
そんな感じで『の』と『も』の所を強調しながら、私に問いかけてきた。
「うん。まあ、私のは強化というか変化に近いけどね」
「変化に近い?」
ソー兄が私の説明に対し、首をかしげてきた。あー、うん。
私は言葉で説明するより見せた方が早いと考え、テレパシーの要領で遠くにいる『仲間』に意識を繋げる。
そして、こちらへ来るように念じた。
と、その直後、私の頭上に光の球体が出現。
「キュピィ!」
という鳴き声が響くとともに光の球体が消え、球体のあった場所に幼生の飛竜――私の召喚獣であるアルティがその姿を現す。
アルティというのは私が付けた名前で、なんでそう名付けたのかというと、アルティメットなワイバーン……になる予定だから。
って、そう言えば最初はキュピーンドラチャンと名付けようとしたんだっけ。
まあ、そう呼んだら思いっきり拒否されたんで、今のに変えたんだけど……『キュピーン』と『ドラチャン』のどっちがお気に召さなかったんだろう?
などというどうでもいい事を考えていると、ソー兄が問いかけてくる。
「これは……飛竜?」
「うんそう、飛竜の子供だね。私が契約している召喚獣のうちの1体なんだ! といっても、あと1体しかいないけどね。しかも、その1体は色々あって滅多に呼べないんだけど」
「ふーん、そうなのか。召喚獣ねぇ――」
と、そこまで言った所で無言になるソー兄。あれ?
「――またそんな超展開かよ!?」
思いっきりそんな風に叫ばれた! なんで!?
「いやだから、なんで超展開なのさ! ただ山脈の奥に隠れ住んでいる飛竜の霊獣と言葉を交わして契約しただけだよ!」
「全然だけじゃねぇ! さらっと霊獣と言葉を交わしたとか言われても困るわ!」
思いっきり反論された。しかも何気に正論。
……むむぅ、たしかにそこだけ切り出すと超展開かもしれない……
実際には色々と面倒だったんだけど、そこを話すと長くなるんだよねぇ……
っていうか――
「……そうは言うけど、ソー兄も大概に超展開メーカーだと思うよ? 何故かサイキック能力が強化されていたり、魔獣を100体以上薙ぎ倒したり、サージサーペントを瞬殺したり……。それって色々とおかしいからね?」
とりあえず今さっき聞いた話をもとに、そんな風に反論してみる。
だって、実際ちょっとおかしいレベルだし……
「う、うーむ……。サージサーペントは俺ひとりで倒したわけじゃないが……まあ、それでもそう言われると、なんとなくそんな気がしてきたぞ……」
「いやいや、なんとなくじゃなくて、確実にそうだから!」
「キュピピィ」
私の言葉に合わせて、一回転しながら鳴くアルティ。
その鳴き声は『その通り』という言葉に変わって私の脳内に響いてきた。
「ほら、アルティもそう言ってるし!」
「いや、俺は飛竜の言葉までは分からないぞ」
何を言っているんだお前は、みたいな感じの声でそう返される。
「え? 全ての言語が刷り込まれてるんじゃないの?」
さっきそう言っていた気がするんだけど……
「……飛竜の言葉は『言語』じゃないんじゃないか? ディアーナに聞かないと正確なところは良くわからんが」
「あー、そうなのかな……?」
うーん……たしかに言語なのかと言われると違う気がする。
「どうでもいいけど、そろそろ人通りの多い場所に入るから、アルティとやらはしまっておいた方がいいんじゃないか?」
「あ、たしかにそうだね。まあ、しまうわけじゃないけど」
ソー兄の忠告に対してそう言葉を返しながら、アルティに帰還するように心の中で伝える。ここらへんのやり取りはテレパシーと同じなのでやりやすい。
「キュピィッ!」
くるっと一回転してアルティの姿が消失する。
「ところで……どうやって朔耶は――いや、朔耶を含めた皆は、こっちの世界にやってきたんだ?」
ソー兄が周囲を見回し、アルティの姿が消えた事を確認し終えてからそんな風に問いかけてきた。
「ここでそれを聞いてくるんだ」
「そりゃまあ、気になるしな」
私の返しにそう言ってくるソー兄。まあたしかにそうだよねぇ。
「それを話すには、まずソー兄が消えた戦い――『竜の血盟』の日本における本拠地での戦いの所から話さないと駄目だね」
私はそう告げて、あの時の事を話し始めるのだった――
次回は、第1章0話の裏側の話になります。
蒼夜が死にかけていたその頃……という感じですね。
追記:口調がおかしくなっていた部分を修正しました。




