第39話 一家とディアーナ
――振り向くと、そこにはアリーセの姿があった。
その後ろには、ロゼとアーヴィングの姿もある。
……なんでこんな所に?
いや、それを考えても仕方がないな。
それよりもこの状況をどうするべきか……だな。むう……
どうするのが最良なのかと思案していると、ディアーナが発言してきた。
「色々とー、話をする必要がー、ありそうですねー。テレポータルを開くのでー、皆さんこちらに来てくださいー」
直後、テレポータルが開き、その向こう側にディアーナの領域が見える。
「……という事だから、一旦向こうへ行くとしよう」
硬直しているアリーセにそう告げると、少しの間の後、
「え、あ、はい」
そんな風に言って頷いてきた。
その後方では、ロゼとアーヴィンが顔を見合わせて、
「ん、なんだかとんでもない事になった気がする。うん」
「……そうだな」
なんて事を言っている。
……まあ、たしかにとんでもない事になったな。
◆
「……まず、お聞きしたいのですが、貴方はディアーナ様であらせられますか?」
アーヴィングがディアーナと目を合わせるなり、そんな事を言う。
「そうですねー、一応ディアーナですねー。信じるかどうかはお任せしますー」
「やはりそうなのですね……。そして、まさにイメージ通りのお姿……。無論信じますとも。いえ、むしろ信じぬ者などおりましょうか」
アーヴィングはディアーナの言葉にそう返しつつ、跪く。
……そう言えば、アーヴィングにはディアーナって、どんな姿に見えているんだろうか? ちょっと気になるな……
「あー、そうそうー、そんな畏まられても困るのでー、普通に会話してくださいー。お願いしますー。」
「え? いや、しかし……」
ディアーナの言葉に困惑の表情を見せるアーヴィング。
そのまま、しばし考えた後、
「――貴方がそれを望まれるのなら、そうしましょう」
と、立ち上がって告げた。
「うん、まさか女神が本当にいるとは想定外。驚き。うん」
……うんまあ、ロゼは平常運転だな。
そして、そんなロゼを嗜めるアリーセ。
「ちょっとロゼ! なんて言い草ですか!」
「あー、別にいいですよー。むしろ、そのくらい軽い方がー、私は好みですー。ソウヤさんにもー、軽ーい感じでー、話して欲しいと言っているんですけどねー、まだ少し硬いですねー」
こちらを見てそんな事を言ってくるディアーナ。
「……追々、どうにかします」
俺は肩をすくめてそれだけ返しておく。
その俺とディアーナのやりとりを見ていたアーヴィングが、
「――ところで、ソウヤ君は一体何者なのだ?」
と、俺の方を見てそう尋ねてきた。
「あー、ソウヤさんはー、私の協力者ですー」
俺の代わりにそう答えるディアーナ。
「協力者……? それは……要するに『使徒』という事ですか?」
「まー、そんな感じですねー」
アーヴィングの問いかけに対し、ディアーナはそんな風に返す。
なんだか良くわからんが、それでいいのだろうか?
「女神の使徒……。真の英雄……」
アリーセがそれだけ呟くように言って、こちらを見つめてくる。
なんだか、アリーセの中で俺の存在が更に誇張されている気がしてきたぞ……
「ん、あの異能の数々と強さを考えれば納得」
ロゼの方は、なんだか勝手に納得しているな。まあ、ある意味ロゼらしい。
「先日、ソウヤ君が我が家を訪れた時、それを『女神ディアーナの導きに違いない』と思ったが、まさか『本当に』女神の導きだったとは……」
なんて事を言うアーヴィング。
いや、ディアーナ様に導かれて訪れたわけじゃないというか、あえて言うなら、アリーセとロゼに導かれたというか……
「あの……もしかして『世界の綻び』とやらは、ソウヤさんの里の里長の命ではなく、ディアーナ様の……?」
「あー、それは半々くらいですねー。なにしろー、私が里長もやっていますからー。ふっふっふー」
アリーセの疑問に対し、しれっと大嘘を吐くディアーナ。しかも、ふっふっふーって……
「えええっ!? そ、それは想定外すぎです……。というか、ど、どういう事なのかさっぱりわかりませんっ!」
アリーセは驚きのあまり、混乱気味にそんな事を言う。
まあ、そうだろうな。俺も驚きだわ。
「ん、でも女神が長をする里であれば、ソウヤがとんでもない知識を持っている理由も、なんとなく理解出来る。うん」
「……た、たしかにそう言われると……そうかもしれません」
なにやら再び勝手に納得したロゼの言葉に、アリーセが同意を示す。
「ま、だからこそ『隠れ里』であると言えるしな」
と、アーヴィングがロゼとアリーセに向かって言った。
その後も、ディアーナを交えてあれこれと説明したが、いくつか嘘とも真実とも言えない言い回しが混ざっていたが。……何気にディアーナが一度も自身を『女神』とは言っていなかったあたりは、なんだかちょっとインチキくさい。
それにしても、アリーセたちはすっかり『女神ディアーナ』だと認識して、その言葉を100%信用しているなぁ。……まあ、わからんでもないけどさ。
「ちなみにー、ここで話した事はー、他言無用でお願いしますねー。あとー、ソウヤさんが協力者である事もですー。私かー、ソウヤさんがー、話した相手同士であればー、構いませんけどー」
ディアーナが説明の締めにそう告げると、
「承知しました」
と、慇懃に答えるアーヴィング。
アリーセとロゼも頭を垂れて、了承の意を示す。
アーヴィングはそれからしばし考えた後、ディアーナに対して言葉を投げかける。
「ただ、『綻び』とやらに関しては、大々的に調査を行った方が良いのではないかと考えますが……」
「そうですねー。そうしたい所ですがー、まだ原因の一端すら掴めておらずー、どこからどう繋がりがあるのかが不明瞭なのでー、もう少し詳細が判明するまではー、大規模に動くのはー、逆効果ではないかと思いますー」
「なるほど……。たしかに、ディアーナ様の力をもってしても不明瞭であるならば、不安の芽を摘むどころか、新たに蒔くだけという事にもなりかねませんね……」
ディアーナの言葉に同意する形で、そんな事を言うアーヴィング。
いまいち分かりづらい言い回しだが、要するに……何が起きるか分からない危険な物は、多くの人員を割いてさっさと見つけるに限るが、それにはその危険な物について説明しないくてはならない。
だけど、皆目検討もついていない現状では説明もままならず、単に不安を煽るだけになりかねない、って事なんだろう。
頭の中でそう纏めているとディアーナが、3人を順番に見ながら言う。
「ですのでー、今はー、少数で『原因の一端』を探るのがー、最良かとー。……そこでなのですがー、お三方にはー、ソウヤさんの調査にー、協力していただきたいのですがー、お願いできませんでしょうかぁー?」
何故、そんな要請を述べたのかは良く分からないが、国家元首であるアーヴィングの全面的な協力が得られれば、イルシュバーン共和国領内であれば、調査がしやすいのはたしかではある。
……まあ、単独での調査はさすがに厳しいと思いつつあるしな。
実際、まともに調査出来ていないし。
「もちろんです!」
真っ先に頷いて返事をしたのはアリーセだった。
それに続く形でロゼも頷き、了承を示す。
「ん。任された」
「私も娘2人と同じです。それに……この世界に何かが起き始めているのは、ここ数日――特に今日の出来事で良く理解していますからな。可能な範囲と大規模にならない程度に、ソウヤ君の支援、およびその他諸々について協力と対応をいたしましょう」
アーヴィングもまた頷き、そう言った。
……ん? 今日の出来事? なにかあったんだろうか?
「ありがとうございますー」
ディアーナがそうお礼を述べた所で、俺は「なあ……」と言葉を投げかけ、今日何かあったのかと問う。
「あ、えっーとですね……」
という前口上と共にアリーセが昨日から今日にかけての出来事を話し始めた――
ようやく本編に戻ってきました。
ちょっと短いですが、これ以上行くと区切りが悪くなるので、一旦区切ります。




