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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第38話外伝14 当日・大聖堂での邂逅

長かった今回の外伝もこれが最後です。

<Side:Alice>

「――どうにかなりそうかね?」

 遅れて治療院へやって来た父様が尋ねてきます。


 遺跡の時と比べて、口調から荒っぽさが若干薄まって……治まって? どう表現するのが正確なのかわかりませんが、まあとにかく、だいぶ普段の感じに戻っていますね。

 戦いの場から離れて、上がっていたテンションが落ち着いたとかそんな所でしょうか?


 っとと、それはさておき―― 

「はい。体の方には特に異常はみられないそうです。手と足も、明日の昼すぎには修復が完了する予定になっていますね。それから、精神の方も外からの干渉の跡が若干見られるものの、この程度なら軽い意識の混濁程度で済み、後遺症はほとんどないであろうとの事でした」

「そうですか……良かったです。ええ、とても、良かったです」

 私の言葉を聞き、同じく遅れてやって来たアキハラ先生が安堵の声を漏らします。

 

「ん、それで、とりあえず目覚めるまでは、エミリーとクライヴが見張っておくらしい。うん」

 見張っておくって……せめて、看病するとかにしましょうよ、そこは。


「コウよ、お前も行ったらいいのではないか?」

 ロゼの言葉に続くようにして、父様がアキハラ先生にそう言います。

 

 アキハラ先生は、感情を抑えるような仕草を見せた後、

「……いえ、エステルはおふたりに任せます。私は学院の方をどうにかしないといけませんし」

 絞り出すようにそう答えました。……本当は、すぐにでも駆けつけたいんでしょうね。

 

「まあ……学院のトップがとんでもない事をしでかしていたわけだからなぁ……」

「ええ、かなり厄介な事になりそうです」

 アキハラ先生は父様の言葉にそう返すと、私とロゼの方を向き、

「……アリーセ君、ロゼ君、おそらくしばらくの間、学院は休校になるでしょう。全て片付いて再開したら連絡しますので、それまでは自宅で待機――ああいえ、ソウヤ君に張り付いておいていただけると助かります」

 なんて事を言ってきました。

 

「は、はぁ……。まあ、それは構いませんが……」

「ん、よくわからないけど、了解。うん」

 私とロゼがそう言葉を返すと、

「お願いします。ソウヤ君には少々話をしなければいけない事があるので、居場所をはっきりさせておきたいのです」

 そう言ってくるアキハラ先生。

 どうやら、何かソウヤさんに話があるみたいですね。

 

 そんなアキハラ先生に対し、父様が告げます。

「いや、そんな事せずとも、ソウヤ君なら来月の式典での護衛を頼んでいる事もあって、少なくともその式典まではウチに滞在する予定になっているよ」

 

「え? そうなのですか? でしたら話は早いですね。近い内にお宅に伺わせてもらおうかと思いますが……よろしいでしょうか?」

「よろしいもなにも、俺とお前の仲じゃないか。いつでも構わんから好きな時に来ればいいさ」

 アキハラ先生の問いかけに頷き、そう返す父様。

 

「――そうですね。では、どこか手の空いたタイミングで伺わせてもらいますね」

 アキハラ先生は微笑を浮かべながらそう言い、おじぎをして今回の事件の対応をするべく学院へと戻っていきました。


「……さて、俺たちも家に帰るとするかね」

「ええ、そうですね」

「ん。そうしよう。帰ってソウヤに今日の事を話す。うん」

 父様の言葉に私とロゼはそう返し、私たちも帰路につきます。

 

                    ◆


 ちょうどやって来た『岬居住区』行きのトラムに乗り込むと、私たち以外は誰も乗っていませんでした。

 時間的に人通りが少ないとはいえ、ここまでガラガラとはなんとも珍しい事があるものですね。

 

「ん。ところで、お父さんの背中から若干死臭がするけど、何?」

「……臭うか?」

 ロゼの疑問に対してそう言いながら、服を手で摘み、鼻に近づける父様。


「うん」

「あー、だとしたら多分、学院長の死体を担いできたせいだろうなぁ」

 父様が、そんな風に答えます。って……え?

 

「ん? 学院長、死んだの?」

「――そう言えばさっきはその話をしなかったっけな。コウが言うには、なんでも1キロ近く離れた場所から、銃とかいう特殊な武器で狙撃されたらしい。脳天に穴が空いていたよ」

「んん? なにその反則的な射程と威力の武器は。そんなの使われたら対処のしようがない。うん」

「まあそうだなぁ……。でも、その武器は魔法攻撃の類じゃなくて、小さい鉄の塊が飛んでくる単純な物理攻撃の武器らしいから、遠隔物理攻撃を遮断するタイプの防御魔法を準備しておけば、とりあえず問題ないだろうとコウは言っていたよ」

「うん、なるほど……。鉄の塊ならたしかに完全遮断出来る。うん」


 なんていう話をするロゼと父様。

 そういえば、遠隔物理攻撃を完全に遮断可能な障壁型の防御魔法の登場によって、弓矢とか投石機とかは廃れてしまったんですよね。なにしろその防御魔法を使われたら、どうやってもその障壁を突破出来ず、無用の長物と化してしまうので。


 そして、その代わりに登場したのが、私の魔煌弓やアキハラ先生が使っていたソーサリークロスボウのような、魔法の矢やボルト――正確に言うなら、武器そのものの魔煌波生成回路で変異させた魔煌波……つまり、矢やボルトに似た形状の魔力の塊――を飛ばす遠隔武器なんですよね。

 だというのに……今回の事件の黒幕と思しき存在は、小さい鉄の塊を飛ばす銃という名の武器を持ち出してきています。……一体どういう状況での使用を想定しているのでしょう?

 うーん……わかりません。

 

 ――そんな事を考えていると、ロゼが、

「ん、特殊な武器と言えば、クライヴの槍に驚いた。まさか大鎌になるとは思わなかった」

 と、そう言いました。

 

「そう言えば、あれ、どういう仕組なんでしょうね?」

 私も気になっていたんですよね、あれ。

 

「俺も色々な武器を使ってきたが、あれは始めてみたなぁ。だが――」

「だが?」

 歯切れの悪い父様に問いかけるロゼ。

 

「ああいった武器を使う者が、アレストーラ教国にいる……という話を聞いた事がある」

「アレストーラ教国……ですか? そう言えば、クライヴさんとティアさんが最初に出会った時に、ティアさんがクライヴさんの家名――アージェンタムの名を聞いて、その国の名を口にしていましたね」

「ん? そうだったのか? ……なら、以前聞いた話どおりかもしれないな……」

 なにやら、得心がいったといわんばかりの表情をする父様。

 

「どういうです事?」

「彼……クライヴ殿は、おそらくアレストーラ教国の七聖将のひとりだろう。まあもっとも、元と付く可能性は十分にあるのだがね」

 私の問いかけにそんな風に言って返してくる父様。

 

「うん? 七聖将……? 何それ?」

 ロゼが首を傾げながら父様に問いかけます。私も聞いた事がありませんね。

 

「ふむ……。まず前提の話になるが……『アージェンタム』というのが、エルラン族の中で高位の家柄を現している事は知っているかい?」

「ん、一応は」

「ええ、そのくらいはさすがに」


 以前、アルミナでその事をクライヴさんに話したら、とても気まずい空気になりましたので、よく覚えています。

 ……そう言えば、あの時始めてソウヤさんと自己紹介をしたんでしたっけね。

 

「そして、アレストーラ教国は軍隊を持たない事で、絶対的な中立の国であると宣言している事も知っているかね?」

「うん、もちろん。……でも、怪しい。害獣や魔獣退治を討獣士だけに任せているとは到底考えられない」

 父様の問いかけにそう返すロゼ。……なるほど、たしかにその通りですね。

 

「うむ、そうだな。まあ……実の所、軍隊を持たないというのは表向きの発言でしかない事は判明していたりするんだけどね。わざわざそれを指摘して、波風を立てる必要もないから、黙っているが」

「……なるほど、その裏に隠された軍隊と同等の『戦力』が、七聖将なのですね」

「ああ、その通りだよ。正確に言うならば、七聖将とその配下の聖騎士たち、だけどな」

「なんというか……聖騎士とか、凄く中世時代っぽい名称ですね」

 

 私はそう言いながら、少し前に読んだ中世時代が舞台の物語に、そんな感じの名称が良く出てきた事をなんとなく思い出しました。

 そう言えば……あの物語には、暗黒騎士なんていうのも出て来ましたね。


「そりゃまあ、あの国……というか、レヴィン=イクセリア双大陸自体が古い文化や技術を色濃く残しているし、未だにそういう中世時代的な部分があってもおかしくはないさ」

「ん、でも、聖騎士とか暗黒騎士とか、そういう名称って、かっこいいと思う」

 と、ロゼ。まあ、ロゼはそういうの好きそうですしね。……いえ、私も結構好きですけど。


 ま、まあ、それはいいとして―― 

「それで父様、その七聖将の1人が『アージェンタム』なのですか?」

「まあそうだな。そもそもアージェンタムっていうのは、あの国の古い言葉で『銀』を意味する言葉なんだ。で……だ。朱、蒼、翠、金、銀、玄、白、この7つを現す言葉が、それぞれ七聖将には割り当てられている、と言われている」

 えっと……朱、蒼、翠、金、銀、玄、白? あれ? それって――

 

「ん、なんか、魔煌波生成回路の色そのまんま」

 ロゼが私の思った事を口にします。

 

「ああ。おそらく何らかの関連性があるのだろう。が、残念ながらそこまでは判明してはいなくてね。現時点では、何とも言いようがないな」

 そう言って肩をすくめる父様。

 

 魔煌波生成回路と同じ色を現す言葉を家名とする……ですか、なんだか気になりますね。

 クライヴさんに聞いてみたい所ですが、答えてくれなさそうな気がするんですよね……。アルミナの時の反応から考えると。


 そんなこんなで思案にふけっていると、突然ロゼが声を発しました。

「ん? あれってソウヤじゃない?」

 

「え?」

 私は顔を上げて、ロゼの指さす方に視線を向けます。

 すると、道路脇にある駐車スペースに、レビバイクを停めている最中のソウヤさんの姿が目に入りました。

 

「たしかにソウヤさんですね。あそこにレビバイクを停めて、どこへ行くのでしょう?」

「大聖堂に用でもあるのではないか?」

「え? ……あ、なるほど。納得です」

 私は父様に言われて、窓から現在地を確認しながらそう言います。

 どうやら思案にふけっている間に、大聖堂の近くまで来ていたようですね。

 

「……ん。なんだか気になる。ちょっとこっそり追いかけてみよう。うん」

「普通に追いかけれて話しかければいい気もしますが……。まあ、とりあえず降りましょう。……って、停留所を過ぎてしまいましたね……」

「ああ、それなら問題ないよ。――おーい、停止してくれー」


 私たちの言葉に続く形で、父様がそう呼びかけます。

 えっと……そう言って止まるはずが……と、思ったら想定外な事にトラムが停止しました。

 

 何故? と疑問に思っていると、

「このトラムはな、元老院特務室の者が、俺の護衛を兼ねて運転している特殊仕様のトラム――簡単に言えば、国家元首専用のトラムなんだよ」

 なんて事を言ってくる父様。

 ああ……なるほど。だから誰も乗っていなかったんですね。

 

「でなければ、あんな話をするわけがなかろう」

「ん、そう言われると、たしかに……」

 ロゼが納得して頷きます。私も今更ですが納得です。

 

                    ◆


 ――私たちはトラムを降りると、ソウヤさんを追って大聖堂へと足を踏み入れます。

 階段を降りきった所で、再びソウヤさんの姿を見つけました。

 

 ……隅の方へ移動しているようですが、一体なにを?


「そーっと近づいてみよう。うん」

 そう言ってきたロゼになんとなく従う形で静かに近づいていきます。

 

「ディアーナ様、聞こえますか?」

 そんな風に呼びかけるソウヤさんの声が聴こえてきました。

 ……ディアーナ……様? 女神様の名前が何故ここで? しかも呼びかけ?

 

 困惑していると、続けて女性の声が聴こえてきます。

「――はいー? ソウヤさん、どうかしましたかー?」

 

 ……え?

「え?」

次回からようやく39話に入ります。

そして第2章も、もう少しで終わりです。


追記:変な所に句読点があったのと、誤字を修正しました。

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