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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第38話外伝13 当日・推測するふたり

<Side:Kou>

 私は、唐突に響いてきた銃声によって、その場に硬直してしまいました。

 上手く頭も回りません。


 撃たれたのは……?

 

 私……ではない。とすると……?

 

 私の視線の先で、学院長がドサッという音を立てて地に倒れ伏し、地面に積もった葉っぱを巻き上げました。

 

「なっ!?」

 私は慌てて駆け寄ろうとし……て、その足を無理矢理止め、バックステップ。

 

 再び銃声が鳴り響き、続けて先程まで立っていた地面――その上の積もった葉っぱに着弾した音が響きます。ふぅ……危ない所でした。やはり、狙ってきましたか。


 私の服の防御魔法は、物理攻撃への耐性が学院長の服と同程度しかないので、おそらく銃弾を防ぐのは不可能でしょう。

 私は即座に身を翻すと、地面を蹴って頭から通路内へ突っ込むような形で飛び込みました。そしてそのまま受け身を取りながら、転がるようにして壁際に張り付きます。 

 まあ、昔とった何とやら、こういうのは手慣れたもの、という奴ですね。

 ……さて、隠れながら状況を確認するとしましょう。


 ふむ……。どうやら視認可能な範囲内に人影はありませんね。見えるのは、地面に倒れ伏す学院長の身体――おそらく既に事切れていると思われますが――くらい……ですか。

 という事は、スナイパーライフルによる長距離狙撃……といった所でしょうか? 

 銃声が聴こえてきたので、数キロも先からの狙撃、などという事はないと思いますが、それでも1キロ近く離れている可能性は十分にあります。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それからどのくらいの時間が経過したでしょう?

 

「コウ!」

 という声が後ろから聴こえてきました。

 アーヴィングですね。どうやってここまで来たのでしょう?

 

「アーヴィング! 壁際に寄ってください! そのまま進むと狙撃されます!」

「うおっと! 狙撃手がいやがんのかよ!?」

 私の警告にそんな風に返しつつ、慌てて壁際に寄り、私に近づいてくるアーヴィング。

 

「アーヴィング……貴方、どうやってここまで来たんです?」

「途中――テレポータルがあった部屋までは、ギリッギリお前の姿が見えていたから、それを追いかけて来たんだよ。でまあ……こっちに飛んできてからはカンだ。幸い、こっちはあの遺跡ほど複雑な構造じゃなかったからな」

 私の問いかけに、そう答えるアーヴィング。……ある意味、さすがです。

 

「それより、たしかにあのオーギュストの野郎が倒れてんな。黒幕による口封じって所か? ……で、あいつを撃った狙撃手はどこらへんに潜んでいやがんだ?」

「……1キロ近く離れているんじゃないですかね? 見えませんし、捕まえるのは無理ですよ」

「はあぁ? 1キロ近く離れている、だぁ? おいおい……そんな遠くからどうやって狙撃してきてんだよ、そいつは。魔煌弓やソーサリークロスボウの限界射程を遥かに超えてんぞ?」

 アーヴィングが鳩が豆鉄砲を食ったかのような表情で言ってきます。

 まあ、そうなりますよね。そんな長射程の武器、この世界には高圧縮の魔力を撃ち出す魔煌砲――大型のビームキャノンみたいな代物――くらいしかありませんし。


「そういう武器があるんですよ。……まあ、私も始めて遭遇しましたが」

 そう言葉を返しつつ、心のなかで『この世界に来てからは、ですけど』と付け加えました。

 

「マジかよ……。そのトンデモ武器は、この大剣をぶち抜けたりするのか?」

 アーヴィングが大剣を指さしながら、そんな事を言ってきます。

 ……そう言ってくるという事は、盾にでもするつもりなのでしょう。

 

 ここが地球であったのなら、大剣程度の厚さでは、防ぐのは厳しいと思います。

 が、この世界なら別です。なにしろ、魔法がありますからね。

 硬化の魔法で補強すれば、耐久度的には十分防げるでしょう。……多分ですが。

 

「魔法で強化してやれば大丈夫だとは思いますが……」

 そう言いながら、私は魔法を使い、アーヴィングの大剣の強度を高めます。

 

「おう、すまんな。――よし、あいつを回収してくるわ」

 アーヴィングはそんな風に言うと、私の予想通り大剣を前に構え、大剣を盾としながら学院長に近づきます。

 

 再び銃声。

 直後、キィンという音が響きます。

 

 どうやら大剣に命中したようですね。まあ、アーヴィングは無傷ですが。

 ……とりあえず、耐久度は問題なかったようなので一安心、ですね。

 

 ――その後、更にもう一度狙撃されましたが、それ以降は何もありませんでした。

 無駄だと判断して撤収したのでしょうか?

 

 アーヴィングは、それでもなお慎重に大剣を盾にしつつ学院長を引っ張り、通路へと戻ってきます。

 まあ、敵がこちらの油断を誘って、あえて撃たずにいる可能性もゼロではないので、正しい判断です。ここらへんはさすがですね。

 

「……駄目ですね、やはり完全に事切れてしまっています。これでは蘇生も不可能ですね……」

 学院長の身体を調べながら、私はそう告げます。

 この世界、割とヤバめの大怪我であっても、生きてさえいればどうにかなる事が多いのですが、さすがに死者の蘇生までは不可能なんですよね。

 

「ちっ。って事は、真の黒幕は分からずじまいかよ」

「……そうなりますね。ただ、学院長の言っていた話から考えると、アーヴィング、貴方への報復を画策している者――」

「――この国に巣食っていた悪徳貴族どもの過激派連中……つまり、『エーデルファーネ』もしくは『真王戦線』の残党、って所だな」

「ええ、おそらく」

「だが……最近の奴らは、以前よりも動きが掴みづらい。なんらかの介入があると見た方が良いかもしれんな」

「そうですね。真の黒幕の更に黒幕となる者が暗躍している……そんな可能性すらありえます」


 私はそうアーヴィングに言いながら思います。

 キメラ……あの技術をもたらしたのは、『竜の血盟』はないか、と。

 先程のスナイパーライフルも、奴らが関わっていると考えるのならば、色々と辻褄が合いますしね。


「はぁ……やれやれ、どんだけ黒幕がいるんだよ、って感じだぜ……」

 深くため息をつきながらそう言って首を左右に振るアーヴィング。


「まったくですね。――それはそうと、ここはどこなのでしょう?」

「おそらくだが……昨日、ウチの娘たちが討獣士の仕事で訪れたというクレスタの廃屋――つまり、ガルディオーネ家の屋敷跡だろう。ここへ来る途中、ガルディオーネの家紋を何度か見かけたからな」

 私の問いかけに、アーヴィングがそう返してきます。


 まあ、クレスタの屋敷跡と遺跡のテレポータルが偶然繋がっていた……という事は、まずありえません。

 なので、真の黒幕ともいうべき者がわざわざテレポータルを設置し、接続させた……と、そう考えるべきでしょうね。


「なるほど……。昨日、アリーセ君たちはテレポータルを発見していなかったんですかね?」

「ウチの娘たちは、地下にいた魔物を倒した後、そのままここから外に出たみたいだからな。地下の方はしっかり探索していなかったんだろう。……まあ、あのティアとかいう傭兵の方はわからんがな」

 そう言って肩をすくめるアーヴィング。

 要するに、ティアさんとアリーセ君たちが遭遇したのは、ティアさんが地下を探索し終えた後である可能性もあるという事ですね。


「……彼女、何者なのでしょうね? あれほどの力を持つ傭兵が無名なはずないと思うのですが」

「最近なったばかりなのか、普段は実力を隠しているか、傭兵という肩書は単なる隠れ蓑なのか……。ま、そのどれかだろうな。……もっとも、いずれにしても、傭兵が単独で行動している事自体が不自然なのだがな」

 アーヴィングが腕を組んでそんな推測を述べます。

 まあ、私も同じ考えですが。この世界の傭兵は、常に集団で動くのが基本ですし。

 

「一応、単独行動する傭兵もいねぇわけじゃねぇ。いわゆる斥候の類だな」

「……ふむ。もし仮に彼女が斥候の類であるとしたら、ルクストリア全体がキナ臭い事になってきている……と、そう考えた方が良いかもしれませんね」

「ああ、そうだな。先日、娘たちがアルミューズ城の地下で強力なゴーレムを操る奴に遭遇した事も含め、本格的に何かが動き始めているのやもしれん」

「その観点で見るなら、その前にあった列車強盗団の件もですね。あれも不自然な点が多いですから」

「……たしかにそうだな。というか、あれもウチの娘が巻き込まれているんだよなぁ。……なんだか良くわからんが、最近トラブルに巻き込まれる率が高い気がするぞ。まさか、そんな所が遺伝したとでも言うのか……?」

 そう言ってアーヴィングはため息をつきながら首を振ります。

 

 ああ、そう言えばアーヴィングは昔、事件や騒動に良く巻き込まれていた、とかいう話を以前聞いた事がありますね。

 ……もっとも、そんな性質が遺伝したとは思えませんが。

 

 で、まあ……単なる偶然、と言えばそれまでなのですが、一応、他の可能性もないわけではなかったりします。


「――アーヴィング、それなのですが……『貴方の敵』による貴方への牽制、もしくは警告である、とも考えられるのでは?」

「……その可能性は考えていなかったな。たしかに、一理ある。しかし……それを判断するにも、いかんせん情報が足りなすぎる」

 たしかにアーヴィングの言う通り、情報が足りませんね。


「……まあ、これ以上ここで話をしていても仕方ありませんし、とりあえず戻るとしましょうか。エステルの容態が心配ですし」

「ああそうだな。まあ、エステル嬢の事は、アリーセに応急処置が終わり次第、俺たちを待たずに治療院へ連れて行くように伝えておいたから大丈夫だろう。念の為に、俺が一筆書いた書類も持たせてあるしな。治療院であれを見せれば、何があろうと優先的に治療してくれるはずだ」

「……それは、感謝しますけど……職権乱用なのでは?」

「そんな事はない。彼女は事件の重要参考人なのだから正しい対応だぞ」

「あー、まあ……そうとも言えますね」

「だろう?」


 そんな事を言いながら、私たちは来た道を引き返します。

 もちろん、学院長の死体はアーヴィングに担がせましたけど。

とてつもなく長くなった今回の外伝ですが、次でラスト(の予定)です。

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