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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第38話外伝6 前日・報告、英雄、相談

<Side:Alice>

 ――というわけで、ルクストリアで遅い昼食を摂った後、私とロゼは報告のために、討獣士ギルドへとやってきました。

 

「あ、お疲れ様です。クレスタの件が片付いたのですか?」

 中に入った所で、私たちに気づいたカリンカさんが、そう問いかけてきました。

 

「片付いたには片付いたんですが……」

「うん、ちょっと色々な問題があって、報告したい。うん」

 私とロゼがそんな風に言うと、カリンカさんは首を傾げ、

「……? 良く分かりませんが、雰囲気からすると深刻な話になりそうですね。奥でお話を伺わせて戴いてもよろしいですか? あ、それとカードの方をご提出戴けますでしょうか」

 と、言ってきました。

 

 私とロゼはそれに了承し、カリンカさんの案内でギルドの奥――ギルド本部長の部屋へと足を踏み入れます。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「はぁ……。アリーセさんもロゼさんも、ソウヤさんやシャルロッテに負けず劣らず、厄介事に遭遇しますわねぇ……」

 私たちの話を聞き終えたサギリナさんが、ため息交じりにそう言いました。

 

「ん、それは否定出来ない。けど、ここまで立て続けに何かが起きるのは、最近になってから。うん」

「……もしかしたら、ソウヤさんやシャルロッテの『性質』に、巻き込まれているのかもしれませんわね」

 ロゼの言葉に対し、サギリナさんが笑ってそう返してきます。

 

「昔から、英雄とか勇者とか、そう呼ばれる事になる人は厄介事に巻き込まれるのが常だからね。――アーヴィング様もそうだったみたいだし」

 仕事の時の口調から、日常の時の口調に変えたカリンカさんが、そんな風に言ってきます。

 

「あ、たしかに小さい頃、父様から冒険譚を色々聞かされた気がしますね」

 父様から聞いた話を思い返していると、

「うん、同じく。もっとも、私は昔じゃなくて最近だけど。うん」

 ロゼが頷き、同意の言葉を口にしました。

 

「これからも色々ありそうですわねぇ……」

 サギリナさんは肩をすくめてそう言うと、

「そうだねぇ」

 と、首肯するカリンカさん。


 ソウヤさんやシャルロッテさんが英雄の資質を持っているのは当然です。

 そうでなければ説明がつきません。

 だから、あのふたりは英雄なんです。間違いなく。


 ……? …………??


 なんだか今、私はおかしな事を考えていたような……?

 って、あれ? 私は何を考えていたんでしたっけ? 急にど忘れしてしまいました。


 何を考えていたのか思い出そうと首をひねっていると、

「っと、それはそうと……カードの方、ありがとうね」

 と、カリンカさんが言い、先程預けたギルドカードを私たちに手渡してきます。

 

「――オーク、ゴブリン、アラクネ、ハルピュイア……。どれもこれも初めて聞く名前ばかりですわねぇ……」

「うんたしかに。そもそもこの害獣――じゃなくて魔物の名前が、どこの国、もしくはどの時代の言葉なのかも分からないし……」

「ですわねぇ。それに、キメラという単語も良くわかりませんわね」

「とりあえず中世時代の錬金術書を調べてみたけど、そんな用語はなかったよ。多分だけど、古の錬金術固有の用語だと思う」

「古の錬金術は中世の物と比べて、ほとんど記録が残っていないのが厄介ですわねぇ……」

「そりゃまあ、1億年以上前の学問だし……」


 ギルドカードの情報から転写されたと思われる資料をテーブルに広げながら、そんな事を話すサギリナさんとカリンカさん。

 

 話の内容が良くわからないので質問してみると、なんでも錬金術は錬金術でも、古の錬金術というのは、シャルロッテさんの刀のように、ありえないくらい太古の時代に生み出された物に使われたと考えられている技術の事なのだとか。

 

 ただ、この『古の錬金術』という名称自体は、発見された太古の技術書の断片に、中世時代に記された錬金術の書と同じような記述があった事から、そう名付けられた物であり、太古の時代に『錬金術』と呼ばれていたのかどうかまでは、分からないみたいですね。

 

 なんでも、その技術書の断片には『科学』という謎めいた単語が混ざっており、その『科学』というのが正しい名称なのではないか、という説もあるみたいです。


「とりあえず、その廃屋の詳しい調査と、周囲の森の害獣を掃討する必要がありますわね」

「そうだね。あと、魔物についても調べないと」

「ええ、そうですわね。……はぁ、なんだかここ数日で、やるべき事が急に増えた気がしますわ」


 ため息をつくカリンカさんに「なんだかすいません」と、なんとなく謝罪の言葉を述べる私。

 

「別に気にしなくても構いませんわ。この手の事はシャルロッテで慣れてますもの。……それよりも――」

「ここ数日、ルクストリアで立て続けに奇妙な事が起きている方が問題だね」

 サギリナさんの言葉を途中から引き継ぎ、そう言ってくるカリンカさん。

 

「シャルロッテを襲った人形、貴方の屋敷に侵入した女、古城の近くに現れた魔獣、古城の地下遺跡に現れた男、そしてキメラ……」

「あと、学院で発生している失踪事件や、列車強盗あたりもかな?」

「さっき、ロンダームの支部から、飛竜に似た存在――ソウヤさんやアリーセさんがアルミナで遭遇したのと同じものが近郊に現れた、という報告もありましたわね。ちょうど居合わせたシャルロッテが瞬殺したみたいですけれど」

 

 そんな事を話すサギリナさんとカリンカさん。

 学院の失踪事件は、今回の件と繋がっているような気がしてなりません。

 ……本当は繋がっていない方が良いですし、そうである事を願っていますが。

 

 それにしても、あの飛竜みたいな存在がロンダームにも出現したとは驚きです。

 まあ、シャルロッテさんによって討伐されているようですが。

 

「ん、なんだかいっぺんに色々起こりすぎ」

「ですわねぇ……」

 ロゼの言葉に再びため息交じりに同意するサギリナさん。


「一体なにが、このルクストリアに起ころうとしているんだろう……」

 というカリンカさんの言葉に、私はこのルクストリアを覆い始めた闇を感じ取るのでした。

 

                    ◆


「ふむ、そんな事があったのか」

 家に戻って父様に今日の出来事を話すと、父様はそう一言呟くように言った後、「うーむ」と唸りながら何かを考え始めました。

 

「ん? どうかした?」

「いや、クスターナの方でも魔獣の異常な出現があったらしくてな。アルミナで起きた事変やロンダームに現れた飛竜もどきなどと合わせて考えると、事はルクストリアだけでは終わらないような気がしてならんのだ」

 ロゼの問いかけに対し、そんな風に言ってくる父様。

 

「……ソウヤさんが調べているという世界の『綻び』とやらの影響でしょうか?」

 度々ソウヤさんが口にしている事を思い出しながら、言葉を紡ぐ私。


「ああ。その可能性は高い、と考えて良いかもしれないな。良くない事が起きる、という漠然とした内容も、様々な異常現象が起き、それを利用して何かを企む者たちがいる……そう考えれば、漠然とするのも納得がいくからな」

「ん、たしかに」

 父様の推測に納得し、頷くロゼ。私も無言で頷きます。

 

「まあ、そちらに関してはすぐにどうこう出来るものでもないし、今はキメラとやらと学院の失踪事件の関係性の方をどうにかした方が良いな。明日の午後は、必須な予定が入っているわけではないから、学院の視察という名目で私も出向くとしよう。コウに任せても良いんだが、アイツはここの所、ずっと大工房に詰めているから、明日いるとは限らんしな」

 いきなりそんな事を言ってくる父様。


 コウさんというのは、エクスクリス学院の教師であり、レビバイクを初めとした画期的な魔煌具を生み出した方ですね。

 父様は数年前、新型魔煌具の発表会で出会った時に意気投合したそうです。

 それはそうと……

 

「え? 父様が来るんですか?」

「当たり前だろう。ふたりに何かあったら俺はあいつになんて言えばいい」

 あいつ、というのはおそらく母様の事でしょう。

 

「かつて武聖と呼ばれていた俺の腕は、まだ錆びついていないつもりだ。もし黒幕が学院に潜んでいるのなら、俺がそいつの相手をする」

 そう言って父様は、左の手のひらに対し、右拳を打ち付けます。

 

「うん。お父さんがいれば百人……は言いすぎた。五人力」

「急にスケールダウンした!? しかもなんだか中途半端! そこはせめて十人力くらいにしてくれないかな!?」

「無理、ソウヤやシャルならともかく、お父さんだとそのくらい」

 そんな事を話すロゼと父様。……まあ、私も否定出来ませんね。

 

「むむう……。ならば、今からソウヤ君と一勝負――」

「――ソウヤさんの邪魔をしては駄目ですよ」

 父様が血迷った事を言おうとしたので、私はニッコリと笑ってそう告げました。


 無論、心の中では笑っていませんけどね。ふふふ。

ホウレンソウ、ならぬ、ホウエイソウ。なんだか語感だけは似ている気がします。


今回の外伝(というにはかなり長いですが)は、後半に入る次回から、視点の切り替わりが多くなる(予定の)ため、各人物の抱える『冥い闇』が見えてくる……かもしれません。

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[良い点] 可哀想なお父さん~
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