第38話外伝5 前日・発見と謎
<Side:Rose>
……ようやく、アリーセによるソウヤについての話が一区切りついた。
「……ソ、ソウヤという人がとんでもないのは、良く分かりましたねぇ」
なにやら憔悴気味に言うティア。
それにしても、なんだか明らかに途中で話が盛られていたけど……。うん、まあ、言わないでおこう。面倒だし、それ以上に気になる事があるし。
というわけで、私は気になる物……討獣士ギルドのカードをアリーセに見せ、告げる。
「――ん、アリーセ、討伐の記録の方はしておいた。けど、うん、何かおかしい」
「おかしい? どこがです?」
アリーセの問いかけに対し、私はカードの隅にある剣マークを指さす。
すると、アリーセは顎に手を当て、同意の言葉を紡ぐ。
「……あ、なるほど。たしかにおかしいですね。剣のマークの色が赤いままです」
「うんそう。普通なら剣のマークが少しすれば青くなるはず。なのに全然青くならない。うん」
「あー、それは、この魔物を解析魔法が認識出来ないせいですねぇ」
ティアは私の言葉にそんな風に答えると、懐からカードを取り出す。
そして、アラクネとハルピュイアに対し、それを順番にかざしていく。
どうやらここらへんの仕組み――解析魔法の認識印を害獣にかざすというのは、傭兵ギルドも討獣士ギルドも同じらしい。
魔獣のように、撃破した瞬間に自動的に感知して認識しれくれれば楽なのに……。何故、そういう風に出来ないのだろう? うん。
そんな事を考えていると、ティアが私たちの方にカード向け、説明をしてきた。
「――この通り、私のカードもそうなりましたから間違いありませんねぇ。未知の害獣なんかに遭遇するとこうなるんですよねぇ」
カードを見ると、討獣士ギルドのカードと同じ剣のマークが赤くなっていた。
……どうでもいいけど、傭兵ギルドも解析魔法の認識印は剣なんだ……。うん。
「ん、これってどうすれば? このままでもOK?」
「ギルドにこのまま提出すれば、新規登録がされるはずですねぇ。なので、このままでも問題ありませんねぇ。あ、さっきのオークとゴブリンも認識させてしまいましょうかねぇ」
問題ないらしいので、手間の部屋のオークとゴブリンも認識させておく。
倒したのはティアだけど……と聞いたら、自分が居なければ、ふたりが普通に倒しただろうから、ある意味横取りしたようなものだし、気にしなくていいと言われたので、遠慮なく認識させてもらった。
実際、ティアの言う通り、ティアがこの場所に来ていなければ、私とアリーセが倒していたはずだし。うん。
――オークとゴブリンを認識させた痕、再びアラクネとハルピュイアの居た部屋に戻り、あれこれ物色していると、
「――ここには、もうあまり情報が残っていなさそうですね。既に持ち去られてしまったと考えるべきでしょうか」
そんな風にアリーセが言ってきた。
少しでも多くの情報をギルドに持ち帰りたかったが、情報らしい情報は既にどこにもなく、錬金術関連の情報がチラホラあっただけだった。
たしかにこれ以上何もなさそう、と言おうとした所で、床に何かキラリと光る物を見つける。
「……うん?」
光る物を手に取ってみると、それは私たちの通う学院の紋章が入ったバッジだった。
「んん? なんでこれがこんな所に?」
「ロゼ? どうかしました?」
アリーセがそう問いかけてきたので、私は拾ったバッジを見せる。
「これは……私たちの学院の物ですね。……まさか――」
「――倒した魔物たちの元になったのは、お二人の学院の生徒である可能性がありますねぇ」
アリーセの言葉を引き継ぐ形でそう言いながら、カメラを取り出すティア。
「写真を撮っておいて、後で照会してみましょうかねぇ」
「……そうですね。まったくの無関係であったなら、それはそれでいいですし」
魔物の写真を撮り始めるティアにそんな言葉を投げかける。
……けど、残念だけど無関係って事は、ほとんどありえないと思う。うん。
◆
<Side:Alice>
「こんな所に入口があったんですね……」
ティアさんの入ってきたという出入口から外に出た所で、私が呟きます。
「ん、思ったより入口の幅が広い。これなら大型の魔物でも出入りが容易。うん」
ロゼが出入口を見回しながら、そんな風に言いました。
たしかに出入口は大きく作られており、先程のアラクネより大きな魔物でも簡単に通り抜ける事が出来そうです。
「……というか、この入口、鉄道のトンネルに似ていません?」
ふと思った疑問を口にする私。
「あ、うん、たしかにそうかも……」
「そう言えば、この辺りの地下深くには、魔晶の鉱床があるらしいという話を、以前聞いた事がありますねぇ……。もしかしたらですが、これは元々、その鉱床から魔晶を発掘、運搬するために作られたトロッコ用の坑道だったのかもしれませんねぇ」
ティアさんが腕を組んで入口を見ながらそう言ってきます。
トロッコ用と考えると、通路に直角の曲がり角がなかった理由も、なんとなく理解出来ますね。
「ん、言われてみると、あの施設の通路は、どれも広かったし、直角の曲がり角がなかった。うん」
と、ロゼが私の思った事を口にしました。
「元々、鉱山だった部分に部屋を作った……という事なのでしょうか?」
「もしくは、その逆で錬金術の研究で使うために、魔晶を発掘していた可能性もありますねぇ。で、カムフラージュのために、鉱山のように見せかけていた……とか、そんな感じですかねぇ」
私の推測に続き、ティアさんがそんな推測をしてきます。
うーん……なるほど。ティアさんの推測の方が正しいかもしれませんね。
「ま、その辺は私たちより専門家が調べる方が早いでしょうねぇ。なので、私たちはそれぞれのギルドに集めた情報を報告するとしましょうかねぇ」
「――たしかにそうですね」
ティアさんの言う通り、ギルドに報告して調査をお任せするのが一番ですね。
「あ、そうそう、おふたりは学院生でしたよねぇ? 写真を現像し終えたら照会したいので、明日の午後、どこかでお会い出来ませんかねぇ? もちろん、予備の写真も差し上げますねぇ」
「そうですね……明日の午後でしたら、14時半くらいに学院の門の所とかでどうでしょうか」
「はい。私の方は問題ありませんねぇ。それでお願いしますねぇ」
そんな感じで明日の約束をした私たちは、森を抜けた所で別れます。
ティアさんはレビバイクで訪れていたらしく、そこに停めてあったレビバイクに乗って去っていきました。
「なんだか不思議な感じの人でしたね」
「うん、たしかに。……あと、シャルと同じで何か隠している気がする。うん。解析魔法が、未知と判断した魔物の名前を知っていた」
「……? どういう事です?」
私はロゼの言いたい事がいまいち掴めず、首を傾げました。
「ん、討獣士ギルドの解析魔法が未知だと認識したのは分かる。でも、傭兵ギルドの解析魔法まで未知だと認識したのは謎。うん」
「……そう言われると、たしかにそうですね。傭兵ギルドに所属していて、名前を知っているという事は……傭兵ギルドの解析魔法では既知にならなければ不自然ですね」
そうでなければ、ティアさんは傭兵ギルドが持っていない情報を持っている事になります。
「うん、そういう事」
「名前は知っているけど、出会ったのは初めて、とかだったんでしょうか?」
「ん。もしくは出会っているけど報告していないか、それか、傭兵ギルドに登録する前に出会っていた可能性もある。うん」
もし、ロゼの発言どおりなら前者後者問わず、傭兵ギルドが持っていない魔物の情報を持っていながら、それをあえて隠している事になります。
そしてそれは、ロゼが最初に言った通り『何かを隠している』という事でもありますね。
うーん、アルミナで出会ったクライヴさんもそうでしたが、なんだか私が出会うエルラン族の方々は、みなさん何らかの秘密を持っているような……
と、そこでロゼの方から、クゥッという音が聴こえてきました。……?
「……お腹が減った。うん」
どうやら、お腹が鳴ったようです。
……でも、そう言われると、私もなんだかお腹が空いている感じがします。
懐中時計を次元鞄から取り出し、時間を確認してみると、とっくにお昼の時間を過ぎていました。
「いつのまにか、随分と時間が経っていたみたいですね……」
「うんまあ、色々調べていたし。あと、アリーセが延々とソウヤの話していたし。うん」
私の言葉に対し、そんな風にため息交じりに返し、肩をすくめるロゼ。
……ま、まあたしかに、ついソウヤさんについて語りすぎた気がします……
「え、えーっと……その……とりあえず、ティアさんの事は気になりますが、ここで考えていても詮無いことですし、ルクストリアへ戻ってどこかで遅いランチにしましょう」
そう私が言うと、ロゼは頷き、
「うん、そうしよう。アリーセのおごりで。うん」
と、言ってきました。
……むぅ、仕方がありませんね……。今日はおごるとしましょうか。
エルラン族は秘密が多い。……というわけではなく、単にアリーセが出会ったエルラン族は、3人とも何かしらの重い(ただし、ダークとは限らない)過去があるからです。
追記
誤字を修正いたしました。
ご報告ありがとうございます!




