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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第38話外伝2 前日・森の廃屋

<Side:Alice>

 ……なにやら、ロゼから生暖かい視線を送られましたが、何かおかしな事を言ったでしょうか……?

 と、そう思いながら視線を前に向けると、鬱蒼とした森に囲まれた細い道がありました。

 

「ん、目的の廃屋はあの先っぽい」

 ロゼが、ギルドで手渡された写真を見ながら言います。

 写真を覗き込むと、たしかにここで撮影されたもののようでした。


 それにしても、写真って便利ですよね。数年前に登場したばかりの物ですが、あっという間に世界中に広まりましたからね。

 私も綺麗な景色とかの写真を結構撮りますし。……アルミナに持っていかなかったのが、痛恨の極みです。地溝とか地下神殿とか、写真に収めておきたかったです。

 ……まあ、またいずれ訪れるとしましょう。

 

 心の中でそんな嘆きを呟いた後、私は森を見渡しました。

 うーん、かなり広そうですね……。うっかり迷い込んだら危険な気がします。


「中世時代、ルクストリア周辺には森が広がっていた、というのを歴史で習いましたが、これを見るとそれが良くわかりますね」

「うん、凄く納得」

 ロゼが頷いてそう言ったところで、

「アンタたち、もしかして討獣士かい?」

 という声が聞こえました。

 

 声のした方を向くと、そこには杖をついたお婆さんがおりました。


「はい。この先の廃屋に住み着いた害獣の討伐に来ました」

 そう私が答えると、お婆さんは、

「やっぱりそうかい。これで夜中に不気味な雄叫びを聴かなくて済むようになるのぅ……」

 なんて事を言ってきました。

 

「うん? 不気味な雄叫び……?」

「うむ。毎晩というわけではないのだがの。この先の屋敷――今は廃屋になっておるが、そこから不気味な雄叫びが聴こえてくる夜があってのぅ……。付近の住民は皆不安がっておった」

 ロゼの疑問の言葉に、お婆さんはそう返してきました。


「なるほど……。それで依頼人の欄が『クレスタ第七居住区住民一同』となっていたんですね」

「うむ、そういう事だの。……雄叫びの主がどのような害獣か分からず申し訳ないが、よろしくお願いするよ」

「はい、お任せください」

「……ああ、だけど、無理はせんで良いからの。もし、危険そうな害獣であったのなら、戦わずに戻ってきても構わぬ。命あっての物種……という言葉を忘れてはいかん」

「ん。気をつける」

「ご心配ありがとうございます」


 私たちはお婆さんとの話を終え、廃屋へと向かって歩を進めます。

 

                    ◆


「住宅街からさほど離れていないのに、結構害獣と遭遇しますね」

 森から這い出してきたスノーリザードという名の凍結ブレスを吐く大きなトカゲを、倒した所で、私はそう口にしました。


「うん。もっとも、こんな鬱蒼とした森だし、害獣が住み着いていたとしても別におかしくはない――というより、住み着いていない方が不自然なくらいかも、うん。……それよりアリーセ、今の魔法薬、ブレスを封じた上で焼き尽くすとか、なんだか凄くエグい。うん」

 ロゼが周囲を見回した後、そう言葉を返してきます。

 

 封声の火炎薬――声帯を一時的に封じる魔法の炎を撒き散らす魔法薬を使ったのですが……


「えっと……ブレスまで封じたのは想定外ですね。まさかそんな効果まであったなんて、って感じです」

 ブレスって声と同じ仕組みで吐かれているんですかね? いえ、害獣にもよるでしょうけど。

 

「ん? そうだったの? まあでも、ここまで使ってきたどの魔法薬も結構凶悪。うん」

「それは……否定しませんが……」


 たしかに、スノーリザード以外の害獣に試しに使った魔法薬は、どれも強力な性能を持っていましたからね。……正直、どれもこれも予想以上です。

 多分、使った魔石が強力過ぎる代物だったのでしょう。

 なにしろ、ソウヤさんから貰った魔石は、かなり高純度の物ばかりでしたからね……。

 一体、ソウヤさんは、どんな凶悪な魔獣を薙ぎ倒して回ったのでしょうか? ある意味、さすがと言うべきではありますが。


「ん、とりあえず周囲に害獣はもういない」

「では、先に進みましょうか」

 他に害獣がいない事がロゼによって確認されたので、再び歩き出します。

 

「遭遇した害獣ですが、どれも大した強さではないとはいえ、一度、森の中を掃討した方が良い気はしますね。もし、強い害獣が住み着いていて、それが付近の住宅街に這い出したりしたら事ですし、後でギルドにそう報告しておきましょうか」

「うん、そうしよう。あ……今、どれも大した強さじゃないって言ったけど、トカゲの前に倒したゴリラは、一応強い部類に入る害獣。さっきは、アリーセのチャージショットがクリティカルヒットしたから一発だったけど。うん」

 と、私の言葉にそんな風に返してくるロゼ。


 そう言えば、あの害獣、なんだか強そうだったので魔煌弓を使って戦ったんでしたっけね。

 でも、チャージショットの一撃で倒せたので、実は単なる見かけ倒しだと思っていたのですが……違ったようです。

 どうやら、『クリティカルヒット』と呼ばれている現象が発生したみたいですね。


 クリティカルヒットというのは、魔法や魔煌矢などの魔煌波を利用した攻撃で、時たま魔煌波がブースト状態になって、威力が何倍にも跳ね上がるという現象の事なのですが、何故そういう現象――唐突なブーストが起きるのかは、謎に包まれていたりします。

 判明しているのは、『攻撃』以外では絶対に発生しない現象だという事くらいでしょうか。


「あ、そうだったんですね。私、クリティカルヒットって初めてです」

「うんまあ、滅多に発生しないし」

「――そう言えば、そのクリティカルヒットで倒したあの害獣ですけど、大きな岩を投げてきましたけど、あんな岩、どこにあったんでしょうね……?」

「あれはうん、多分、小石に魔煌波を纏わせて巨大化したんだと思う。なんか魔力っぽいのを感じたし。要は、私の円月輪を巨大化させる原理の魔法版? みたいな感じ。うん」

「なるほど……。それにしても、ロゼはそういった所は詳しいですね」

「戦いは情報の有無で大きく変わる。うん。だから戦いを有利にしたければ、知識は必須。うん」

「うーん、たしかにそう言われるとその通りですね。納得です」

 戦闘や害獣に関する事になると、相変わらず詳しい上に、口数が多くなりますね、ロゼは。

 

「――あの害獣も雄叫びを上げていましたけど、付近の方が聞いた不気味な雄叫びというのは、あの害獣の物だったんでしょうか?」

 私がそう問いかけると、ロゼは少し考えた後、

「うん、多分……違うと思う。さすがにあの程度じゃ周囲に聴こえたりしない。うん。あと、あの害獣は夜行性じゃない。夜は寝ている。うん」

 そう言ってきました。


「たしかにそう言われると違いますね。さっきのお婆さんは夜中に聴こえると言っていましたし……。それにしても、周囲に聴こえる程の雄叫びを上げる害獣というと……なんでしょうね?」

「……ん。かなりの大型害獣だとは思う。けど、何かと言われると、情報がたりなさすぎて難しい。うん」

「大型の害獣だとすると、廃屋に留まっているというのも不思議ですね」

「うん、たしかに。害獣が住み着くような森があるとはいえ、ここはルクストリア都市圏。普通の野生動物なんてほどんどいないし、他の害獣を喰らうだけじゃ足りなすぎる。うん。だから……うん、もしかしたら害獣じゃなくて魔獣である可能性も……ある。魔獣なら餌は少量でも問題ない。うん」


 ロゼの話を聞き、私はなるほどと思いました。

 魔獣は、魔煌波を『喰らう』事が出来るので、肉や草などをそんなに食べる必要がないですからね。

 とはいえ……アルミナの森で、モータルホーンがウィングラビットやロゼに喰らいついたように、まったく食べなくても問題がない、というわけではないようですが。

 特に魔瘴から魔獣化した直後は、飢えていると言われており、手当たりしだいに近くの生物を喰らうそうですし。

 

 と、そんな事を考えているうちに、廃屋が見えてきました。


「ん、随分と大きい屋敷。うん」

「ええ、そうですね。ウチと同じくらいでしょうか……?」

 私はロゼにそう言葉を返しつつ、廃屋――屋敷の外観を見回します。

 

 造りはルクストリアの一般的な屋敷に似ていますが、少し古い建築様式ですね。

 中世から近世にかけて流行った建築様式な気がします。

 

「これだけ大きな屋敷ですと、大型害獣……もしくは魔獣が潜んでいても、おかしくはありませんね」

「うん。1体だけじゃない可能性もある。だから、うん、慎重に中に入る」

 ロゼは私にそう言うと、円月輪を構えつつ、慎重にドアが壊れて中が見える状態になっている玄関へと近づきます。

 

「……うん。玄関に気配はない。ん、不審な物もない」

 そう呟くように言って中へと入るロゼ。私も弓を構えてそれに続きます。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……うん、おかしい。どこにも何もいない。ただの廃屋。うん」

 屋敷をあらかた探索し終えた所でロゼがそう言って首をひねります。

 

「そうですね……。不気味な雄叫びを上げるような害獣や魔獣は、見当たりませでしたね。……いったいどういう事なのでしょう?」

「ん、もしかして幽霊? 夜中って言ってたし」

「……た、たしかに『夜中に』と言っていたので、その可能性はありますね……」

 

 もし本当に幽霊の類だったとしたら、ターンアンデッドボトルぐらいしか効かないのではないでしょうか。

 ……まあもっとも、ターンアンデッドボトルも大量に作って持ってきているので、倒すだけならさして問題ではありませんが、あまり遭遇したくはないですね。

 

「ん、夜まで待つ?」

「うーん……そうしないと駄目ですかね……。一度駅まで戻って、家に連絡を入れておきましょうか。たしか、駅には通信機が設置されていたはずですし」

「うん、了か――」

 了解と言おうとした所で、ロゼがなにかに気づいたのか、動きを止めました。

 

「どうかしましたか?」

「……ん、何か腐った臭いを感じた」

 私の問いかけにそんな風に返し、クンクンと鼻を動かすロゼ。

 そして、部屋の隅まで行くと、

「……この下?」

 そう呟いて、サブウェポン用のホルダーから短剣を抜き放ち、それを床に突き刺しました。

 

「……ん。下が空洞っぽい」

 ロゼは一度短剣を引き抜くと、それを水平に構えて魔法を発動させます。

「――金土の岩槌!」


 虚空にハンマーのように下部が平らな岩が出現し、それが床へと落下。

 ドンッ! という重い音に続き、バキッという音がして床が崩れました。

 

 ポッカリと開いた穴……かと思いきや、穴の側面に梯子が見えました。明らかに人工的に作られた穴のようです。

 

「ォォォォォォ……」


 かすかですが、咆哮のようなものが聴こえてきました。

 

「ん、間違いない。この下にいる」

 そう言って梯子を降りていくロゼ。

 私もそれに続いて梯子を降りていきます。

 

「……真っ暗」

 と、ロゼが言った通り、梯子を降りきった場所は真っ暗でした。

 まあ、上から覗いた時点でそんな気はしていましたが。

  

「……ですね。ソウヤさんから借りている《銀白光の先導燐》のスティックを使いましょう」

 先日のお城探索の後に、1本借りておいたそれを収納術式から取り出し、起動。一気に周囲が明るくなり、大きな鉄の扉がその姿を見せました。

 

「うん、さすがエステル製。明るい。私が先に進むから、貸して。うん」

 ロゼがそう言ってきたので、私はスティックを手渡します。

 

 ロゼは私からスティックを受け取ると、鉄の扉に耳を押し付け、

「……うん。扉のすぐ向こうに潜んでいるわけじゃなさそう」

 そう言って鉄の扉を開け……ようとして開きませんでした。

 

「ん? 錆びているわけでもないのに開かない……? ってか、霊力的なものを感じる……」

「施錠魔法の類ですかね? ちょっと待って下さい」

 私はそう告げると、次元鞄から1つのボトルを取り出します。

 

「うん? それは?」

「隠された術式を浮かび上がらせるボトルですね。ターンアンデッドボトルの特性を利用してちょっと改良したら出来ました」

「んん? それってつまり……アリーセが作った……?」

「はい、そうですよ。私オリジナルの魔法薬です。――えいっ」


 ロゼに対して簡単に説明した私は、ボトルの中身を扉に対して勢い良くふりかけます。

 と、扉の表面が赤く発光しました。

 

「おそらくですけど……障壁や結界の類ですね、これは」

「ん、なるほど。うーん……シャルなら消せそうだけど、私だと無理。やり方が良く分からない。うん」

 私にそう言葉を返し、首を横に振って肩をすくめるロゼ。


「でも、霊力の類なんですよね?」

「うん、それは間違いない。私のソレに似ている感じがするし。うん」

「でしたら、ターンアンデッドボトルで消せるかもしれませんよ。城の地下でソウヤさんが言っていましたよね。霊力を霧散させられる、と」

 私はそう言いながら、次元鞄からターンアンデッドボトルを3本取り出すと、先程と同じように扉へとふりかけます。

 ただし、先程とは違って、念の為に3本分ふりかけましたが。

 

「ん、赤い光が消滅した」

 程なくして扉の表面の赤い発光が消え、ロゼがそう言います。

 どうやら上手くいったようですね。

 

 さて、この先には何があるのでしょう……?

クリティカルヒットって最近のRPGでは、単純に敵に与えるダメージが大きくアップする効果ですけど、昔のRPGでは一撃死だったりしたんですよね。

なので、ウサギにクリティカルヒットで首を跳ね飛ばされて即死、なんて事も……

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