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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第38話外伝1 前日・クレスタ

第1章の最序盤ぶりのアリーセとロゼ視点の話です。

 前日――


<Side:Alice>

「ロンダーム……ですか?」

「ええ。さっき知り合いに呼ばれてね。ちょっと会いに行ってくるわ」

 玄関で出会ったシャルロッテさんが、そんな風に言ってきました。

 

 ……さっき? どうやって連絡を取ったのでしょう?

 我が家には一応通信機があるとはいえ、書斎とお風呂場近くの廊下に設置されているものだけです。

 お風呂場の近くの物は、先程通った時には誰も使っていませんでしたし、書斎は鍵が掛かっていたはずです。うーん……?

 

 と、疑問に思っていると、シャルロッテさんが、

「ついでにカリンカの昔の仲間が近くに住んでいるみたいだから、そっちにも寄ってくるつもりよ。一応、明後日には戻ってくるつもりだけど、知り合いの用事次第ではもう少しかかるかもしれないわね」

 そう言葉を続けながら靴を履きます。


「うん、わかった。ちなみにソウヤは部屋で服のデザインしてた。うん」

 いつの間にか横にいたロゼがそんな言葉を返しました。

 どうやら、ソウヤさんは今日も部屋に籠もっているみたいですね。

 

「あれはなかなか大変そうよねぇ……。私も試しに描いてみたけど、画力じゃちょっと厳しかったわ。……っと、それじゃ行ってくるわね」

 と言い残して、シャルロッテさんは玄関から出ていきました。


「ん、アリーセ、今日はどうする? 昨日と同じく学院に行く?」

「いえ、昨日ソウヤさんから戴いた魔石で戦闘用の魔法薬を色々と作ったので、今日はそれの威力を実験してみたいと思っています」

「うん? それなら討獣士ギルドで適当な害獣退治を依頼を受ける? うん」

「そうですね……。ちょうどランクアップもしておきたいですし、そうしましょう」


 今日の方針が決まった私とロゼは、討獣士ギルドで依頼を受ける事にしました。


                    ◆


<Side:Rose>

 ギルドで気になる依頼を見つけた私とアリーセは、依頼を達成するべく、鉄道に乗ってクレスタへとやって来た。

 ううん……依頼書には、廃屋に住み着いた害獣の討伐と書かれていたけど、どんな害獣なのだろう? 廃屋への入口である道の写真以外の情報がないので良くわからない。うん。


「うん、相変わらず閑散としている」

 クレスタ駅の改札を抜けた所で、私は周囲を見回しながらそう言う。

 ルクストリア中央駅から一駅の街なのだけど……うん、あまり人通りはない。


「クレスタは大半が住宅街ですし、昼間はこんなものだと思いますよ。少し前に外縁部までトラムの線路が伸びたので、そちらの方が近い人はそちらを使うでしょうし」

「なるほど……。うん、たしかにそうかも。でも、ここだけ見るとアルミナの方が人が多いと思う」

 そう話ながら、駅前の道を歩いていくが、人とほとんど遭遇しない。

 アルミナなら、道を歩いているだけで、もっと結構な頻度で人と遭遇したのだけど。うん。


「言われてみると、たしかにそうですね。うーん……そう考えると、アルミナ方面の鉄道が、もう少し本数増えれば、あちらの方にも住宅街が広がりそうですね。今は本数が少ないので、住宅街には不向きですけど」

「うん、たしかにクレスタ方面は鉄道の本数が多いから移動が楽。うん、アルミナ方面とは雲泥の差すぎる。うん」

「ですねぇ。もっとも、住宅街が出来ると森が切り拓かれてしまって、薬草が取れなくなる可能性もあるので、今のままが丁度いいのかもしれませんね。ルクストリアから、それなりに気軽に薬草採取をしに行ける場所として便利ですし」

「うん。……まあ、気軽といっても、魔獣が出なければ……だけど。うん」


 私は言葉を返しつつ、腕を切り落とした時の事を思い出し、腕を見てしまう。

 さすがに腕を切り落とすのは、もうやりたくない。

 あれは、痛いなんてものじゃない。うん。


「……あの時は例外すぎたというか……まさか、魔獣が出るとは思いませんでした」

「うん、同感。ソウヤが偶然訪れていなかったら危険だった。うん」

「まったくです。出会い方といい強さといい、まさに『物語の英雄』と言った感じですよね、ソウヤさんって」

 そう言ってウンウンと頷く仕草をするアリーセ。

 

 ……ううん、アリーセは時々『物語の英雄』に執着するというか依存するというか……まあともかく、なんだかそんな感じの所があると思う。

 その理由は良くわからないけど、でも、うん、なんとなく理由っぽい物に関しては予測がついている。……確定じゃないから、口には出せないけど。

 

「――今日はソウヤがいないけど……でも、うん、もう魔獣ごときに遅れは取らない。武器もばっちり強化済み。それに……もし、属性相性が悪くても霊力でどうにか出来る。負ける要素がない。うん」

「ええ、私も同じです。今日はあの時と違って、色々と用意してありますし、魔獣が出ても大丈夫です。……って、そう言えばロゼ、呪紋鋼で強化した短剣の方は、メインの武器にしないんですか?」

 アリーセが私の腰にある円月輪を見ながら、そう問いかけてくる。

 

 うん、まあたしかに、呪紋鋼で短剣を強化し終えるまでの間の代用品として使っていた円月輪をメインの武器にして、肝心の短剣の方はサブの武器としているので、アリーセが不思議に思うのは当然かもしれない。

 

「うん。色々試してみたけど、円月輪の方が強い。少しくらいなら霊力も込められるし、うん。あと、隠しギミックみたいなのが仕込まれていて、それを霊力で起動すると数秒だけど巨大化させられる。うん」

「え? そんなギミックあったんですか?」

「うん。短剣を受け取りに言った時に、親方と話をしていたら、偶然見つかった。うん」


 私は周囲に人がいない事を確認し、円月輪を真上へと放り投げた。

 と、同時に霊力を糸のように細くする感じを思い浮かべて、円月輪に向かって放つ。

 

 するとその直後、円月輪が半径1メートルとちょっとの大きさへと変化する。

 私の身長よりも大きい。うん。

 

「こ、これは随分と大きいですね……」

「うん。これなら、大型の魔獣の首も跳ね飛ばせる……はず。うん」

 驚くアリーセにそう告げた直後、円月輪が元の大きさへと戻り、落下してくる。

 それをジャンプしてキャッチしてから、私は言葉を続ける。

「ただ、うん、この通りすぐに戻る。うん、だからギリギリで大きくする必要がある」


「たしかにそうみたいですね。……でも、霊力を流す事が前提になっている武器、というのも不思議ですね」

「ん、それは親方も言っていた。うん、だから、もしかしたら魔女……というより、アカツキの巫覡(ふげき)が、自分たち――巫覡のために作った物じゃないかと思う。うん」

「なるほど……。そもそもがアカツキ皇国生まれの武器ですし、ありえそうですね」

「うん。朝、シャルに聞いたら、アカツキには討獣士の原型とも言える『退魔師』っていう魔獣を狩る職業が古くからあったらしい。うん」

「退魔師、ですか。なんというか……いかにもな名前ですね」

「うん、たしかに」


 そんな話をアリーセとしていると、ふと思い出す。

  

「……ん、そう言えば、朝その話をシャルに聞く直前だけど……シャル、誰かと話をしていた。うん」

「相手の顔は見えなかったんですか?」

「ううん。見えないんじゃなく、いなかった。庭で、誰もいないのに喋っていた。あ、でも耳に何かを当てていた気がする……うん」

「耳に……? 小型の通信機……?」

「ん? 小型の通信機? そんなものあるの? 見た事ないけど。うん」

「実用化はされていませんね。大工房などで小型化が試みられてはいるようですが、通信に使う術式や機械が、どうしても今の大きさから小さくするのが難しく、難航しているようですよ。ただ……」

「ただ……?」

「イルシュバーンよりも先に、クスターナで魔瘴を探知する魔煌具が小型化されたという例があるように、他国で実用化に至っている可能性は十分にありえますね。世界最先端の魔煌技術国といえど、常にすべての分野で最先端というものでもありませんし」


 アリーセの話から、ミリアに聞いたシェードディテクターの事を思い出す。

 たしかに、他の国では既に作られている可能性もある。うん。

 

「うん、でも、シェードディテクターと違って、噂にすらなっていない事を考えると、もし既に実用化されていたとしても、極秘である可能性が高い。うん。そうなると、何故それをシャルが持っているのかって事になる。うん」

「たしかにそうですね……。まあでも、シャルロッテさんもソウヤさん並に、高度な技術に関する知識があるようなので、似たような立場なのかもしれませんね」

「あー、うん、なるほど……。ソウヤがアカツキ皇国の隠れ里なら、シャルは双大陸の隠れ里の出身……? うん」

「隠れ里かどうかはわかりませんが、特殊な技術を持つ環境で育ったのだとは思いますよ。絶霊紋とかが分かりやすい例です。あんなもの初めてみましたし、あの後、紋章に関する色々な文献を調べてみましたが、どこにもありませんでしたから」

「むぅ……。ソウヤもシャルも謎だらけ……」


 ふたりとも味方だから良いけど、もしも敵だったら厄介すぎる。うん。

 腕を組んでそんな風に思っていると、アリーセが、

「その謎な部分――ミステリアスな部分が、まさに『英雄の秘密』という感じで、とても素晴らしいと思いますよ」

 なんて事を言った。

 

 ……うん、どうしてそういう思考になるのかわからない。

 なので、私はアリーセに対し、呆れ気味に生暖かい視線を送った。

シャルロッテの出番が続いたので、今度はアリーセとロゼです。

ロゼ視点(Side:Rose)は、『ロゼの語り』なので、セリフ間の地の文がやや少なめになっていたりします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 因みに、「Alice」 だったら 「アリス」 なんじゃないか? 「アリーセ」 のローマ字は 「Aleese」 です
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