第0話 一つの結末から異世界へ
第0話です。
本編開始前のプロローグにあたる部分なので、0という数字をつけました。
ヒトのようでヒトでないもの――人間とモンスターが混ざりあったかのような、地球に存在するはずのない異質な化け物。
その化け物どもの屍が多数、俺の周囲……とある研究所の地下にある、強化ガラス製の大型培養槽が乱立する大広間に転がっている。
……いや、正確には俺が叩き潰した奴らの屍が転がっている、か。
やれやれ……どうして俺はこんな所で、こんな化け物どもの相手をしているのやら。
いやまあ、自分からあえて相手をする事を選んだのだが、この数の屍を見ていると、そんなグチの1つも言いたくなるというものだ。
と、そんな他愛もない事を心の中で呟いていると、淡い光を放つ緑色の謎の液体に満ちた培養槽の中から、新たな化け物が次々にガラスをぶち破って現れる。
「はぁ……。ザコとはいえ、さすがにそろそろキツくなってきたぞ……」
そうため息混じりに呟いた所で、一度言葉を区切り、天井の方を一瞥して、
「あいつら、さっさとあのラスボス野郎をぶちのめしてくれないもんか……」
と、ここにはいない仲間たちの事を思い浮かべながら、言葉を続ける。
まあ……とりあえず、倒すとするか。
気合を入れ直し、俺は化け物どもの方へと右手を突き出す。
化け物どもによって砕かれ、周囲に散らばったガラス片が宙に浮かび始める。
――否。それだけではない。この大広間のあちこちに散らばっているガラス片全てが宙に浮く。
というか、俺が無理矢理浮かせている。正直言うと、割とギリギリだ。
「……ここから先へ、お前たちを行かせるわけにはいかないからな。ちょっとばかしキツいが、一気に行かせてもらう……っ!」
そう言い放ちながら、突き出した右の手のひらへと精神を集中する。と、宙に浮かしている無数のガラス片が、勢いよく動き出す。
そしてそれらが、荒れ狂う嵐の如く舞い踊りながら、四方八方から化け物どもを切り刻む。
「「「グギャアァアァアァァッ!?!?」」」
化け物どもの甲高い断末魔の叫びが幾重にも響き、そして倒れていく。
俺は、油断なく化け物どもの動きを凝視し、その様子を見続ける。
……サイコキネシス。テレキネシスとか念動力などとも言われる物体を自在に動かす力。
一体、何の因果なのかわからないが、俺が手にしてしまった異能――サイキック。
俺の使えるサイキックは、そのほとんどが手品レベルの大した事のない力なのだが、このサイコキネシスに関しては他よりも少々優秀で、こういう風に数を集めて一気に動かせば、非常に強力な攻撃手段に化けるのがナイスだ。
特に、サイコキネシスを使って物を押し出す事に関しては、かなり重い物――それこそトラックでも動かせる。まあ、なぜか浮かせようとすると無理なんだけどな。……どうやら、押し出すのと浮かせるのとでは、なにかが違うらしい。
もっとも、なにがどう違うのかは、俺自身にもさっぱりわからないんだが。
しっかし、攻撃手段にも防御手段にもならない他のサイキックも、もう少し強ければ使えそうなんだがなぁ……なんとかならんもんか。
ああでも、クレアボヤンスは戦闘以外でなら、少しは使えるサイキックではあるか。少しは、だが。
……って、こんな事を今この場でボヤいても、しょうがないな。
やれやれって感じではあるが、まだ生き残っている化け物どもを一掃する事に専念しよう。
◆
「……片付いた、か?」
散乱している化け物どもの屍を見回しつつ、そう呟いて一息つく。
『俺に任せて先に行け』という、割とヤバいテンプレフラグを立ててしまったが、どうにかなったようで、一安心だ。
……それにしても、やっぱりというかなんというか、あれだけの事をすると疲労感が半端じゃないな。
ホント、もう少し使い勝手を上げられないもんか。
サイコキネシスも、押し出す感じで使う場合は結構使い勝手がいいんだけど、今みたいに浮かすのはどうしても消耗がなぁ……
そもそも、押し出す時と違って、あまり重い物は浮かす事すら出来ないしなぁ。どうしたも――
「ギギイイイッ!」
突如、俺の頭上で甲高い声が響く。
「っ!?」
弾かれるようにして真上へと顔を向けると、間近に迫る化け物の姿が目に飛び込んできた。
「しま……っ!」
余計な事を考えていたせいで反応の遅れた俺は、慌ててサイコキネシスで化物を押し出すべく、手を突き出す。
この使い方であれば、化け物でも吹き飛ばせ――
「ぐうっ!?」
吹き飛ばせるはずだったが、やはり反応の遅れが仇となった。
サイコキネシスが発動するよりも早く、刃のような形状をした化け物の腕が、俺の視界を塞ぐようにして上から下へと通り過ぎる。
襲ってきた痛みは、今まで味わった事のない程の強烈なものだったが、それに対して声をあげる間もなく、視界が自身の血で真っ赤に染まり、そして崩れ落ちるように床へと倒れ込んだ。
そして、立ち上がろうとしても力が入らず、声もでない。
そうこうしているうちに全身が寒くなってきて、つい数瞬前まで真っ赤だったはずの視界が、黒へと塗りつぶされ、狭まっていく。
だが、それに反して痛みの方は徐々に消えていった。
……ここにきて、ようやく認識する。
俺は、奴の攻撃をまともに食らってしまい、致命傷を負ったのだという事を。
そして、痛みが消えていくのは感覚自体が消失しつつあるからなのだろう。
……ってか、こんな時まで冷静に状況判断を行おうとする俺自身に驚きだな。
まあもっとも、これは――
その先を思考しようとした所で、急激に思考と意識が混濁してくる。
くそっ……! やはり……死亡フラグは……強力だった……か……
出来れば……フラグなんて……へし折り……た……か――
「…………っ!? …………っ!!」
意識が完全に途切れる直前、誰かの声が頭に響いてきたような気が……した――
そんなこんなで投稿を開始しました。
よろしくお願いいたします!