第7話 『若獅子との謁見』
儂はカスミの店で買ったケーキなる物を持参し、クロス・バーナード邸へお邪魔している。クロスは意外にも気さくな感じで儂と語ってくれた…本題に入り、儂はクロスに隠さず本心を伝える事にした。クロスを通してクライシス殿下に会うには変に繕って話してしまうと今後殿下に本心を話した際、虚偽報告をしたとクロスが責められる事を避けたいと思ったからだ。
「………という訳で私はこのトライズンまで来ました」
「……………つまりセントランス卿は母国のザベート王国にクーデターを起こすという事ですな」
「そうなりますね」
「…………………少し考えさせて下さい」
そういうとクロスは話を変え、自身の支えるクライシス殿下について話してくれた。聞けばクライシス殿下は18歳という若さで王座に就き、この8年で数々の改革を行いそれを成し遂げてきた若獅子と呼ばれる程の方だそうだ。王位に着任後クライシス殿下はまず旧臣下の貴族達を役職から外し、平民も貴族も亜人も関係無く…ただ能力ある者達を集い選抜!その後もその者達と共にトライズンをより一層住み良い国へと改革し続けている。まさに儂の理想とする国のあり方だと感銘を受けたッ!!
「クロスさん 私は感激しました! まさに理想の国づくり!! 私はクライシス殿下と是非話がしたいッ!」
クロスさんは瞳を大きく開き驚いた表情を見せた後、こそばゆい感じをさせていた。他国の…しかも貴族の儂が余りにも素直に羨ましがっていたからだ。そんな儂をクロスさんは「貴方の信念を信じましょう」とクライシス殿下への謁見に協力してくれる事を約束してくれたのだった————。
そして三日後……儂はクロスさんの力を借りてクライシス殿下に謁見許可を頂いたッ!
ーーー《魔装大公国トライズン 王城》ーーー
「〝謁見者 セントランス・リョーマ卿 入られよ!〟」
豪華な装飾が施された謁見の間の扉がゆっくりと開かれると、そこは500人はゆうに入れるであろう大きな広間が広がっていた。儂はゆっくりと歩みを進め玉座に座するセバポリス・クライシス大公殿下の元まで行き片足を付き頭を下げた。
「今回はクライシス大公殿下に謁見許可を頂き誠に感謝致しております! 私はザベート王国はセントランス領より参りました2代目領主セントランス・リョーマと申します!」
「遠路遥々良くぞお見え下さいましたセントランス卿 私がこの魔装大公国トライズンを治めるセバポリス・クライシスです! 御顔をお上げ下さい」
「はい…」
儂は殿下を鑑定眼で視ながら話を進めた———。
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名前:セバポリス・クライシス
性別:男
年齢:26歳
レベル:20
二つ名:若獅子
称号:龍神の加護
職業:第7代魔装大公国トライズン大公王
能力:光魔法Lv20 講話交渉術Lv30
特殊能力:先見眼Lv24 状態異常耐性Lv40
講話交渉術…こんな能力まであるのか。これからの儂には是非必要な能力の一つぜよ…
「それでセントランス卿 本日はどの様な件で私に会いに来られたのでしょう?」
「はい! 実は………」
儂はまずクライシス殿下の改革に感銘を受けた事を伝え…そして現在のザベート王国の有り様とこれから儂が何を成し、何をするのかを包み隠さずに話した。
「成る程…セントランス卿のザベート王国を憂う気持ちしかと伝わりました! しかし問題は沢山ありそうですね…例えば噂の国王直属最強兵を相手に無事に済むのか?またそれを攻略したとして革命によって更に疲弊するであろう王国の立て直し……細かい事を言えばキリがありませんが…」
「クライシス殿下に率直に聞きます…私にこの革命成せると視ますか?」
「————ッ!!! セントランス卿 それはつまり…私のスキルの事を指しているのですか?」
「さすがは殿下! 詳しくは御返事を戴いてからではないと申せませんが…そう取って頂いて結構です」
「……………」
クライシス殿下の特殊能力先見眼! これは先々を予測して的確に判断したり、将来どうなるかを前もって見抜く事の出来る〝先見の明〟…と言われる能力ぜよ。その眼で儂を見極めてくれッ!クライシス殿下ッ!!!
「ふむっ……私は現在王という立場にある者ですので私自身が直接セントランス卿の力になる事は今現在不可能と言えます」
「……………」
「しかし私は貴方に賭けてみたくなりました」
「ッ!!! では御力を!?」
「いえ… 先程も申した通り立場上私が貴殿に協力する事は出来ません……… 表向きには!」
「では?」
「クロスをココへ!!」
「クロスさん? ですか?!」
「お呼びでしょうか殿下!!」
「クロス… お前に暇を出します! このトライズンより出て旅商人となりなさい!!」
「旅…商人ですか!?」
「えぇ…貴方はトライズンの国民権を捨て無関係な体になり、そして私の影としてセントランス卿の力になるのです! いいですか?これは超極秘任務と知りなさい」
「ハッ!! 畏まりました!!!」
「セントランス卿 彼を私の代わりとして御預けします 私は王として他国のクーデターに関わる事が出来ません! これが分かれば三公連合の協定違反にも該当してしまうからです」
「はい! クライシス殿下に御迷惑はかけません!」
「セントランス卿…… 貴殿がもしこのクーデターを成功させた暁には一体どの様に国を立て直すおつもりなのか お聞かせ下さいますか?」
「はい! まずは私が代表となり数年で国の復興を行います!! その為にまず憲法を創り、今ある商業組合を私の創る商業組合に完全吸収させ財政再建を図り、王族の世襲制度を廃止し次期代表を立憲君主制により決めていきたいと考えております」
「立憲君主制…つまり権力が憲法により規制されるという事ですね?」
「はい! このトライズンの制限君主制からヒントを得ました 名前は違えど基本的には制限される権力ですので、今のような悲惨な国にはならないかと……」
「成る程…… どうやら私の先見眼も間違いではないようですね! となると王国ではなく公国となるのですか?」
「はい! その際三公連合へ是非加盟したいと考えております」
「そうですか……そうなると気掛かりはクロノスト帝国」
「御名答ッ! 私の見立てではザベートが加盟する事により力の均衡にズレが生じ…帝国と連合の争いが予想されます」
「これはかなり大問題ですね… 仮に今回セントランス卿がクーデターを失敗もしくは起こさなくてもザベートがこのまま衰退してしまえばクロノスト帝国に吸収され帝国はより一層の力を付け、力の均衡が保てず…我ら連合が不利になる!」
「はい…どちらにせよ 近い将来均衡は保てなくなります」
「うーん…… ならば連合加盟の件は任せて下さい! セントランス卿は革命の事だけに集中をッ!!」
「ハッ!! ありがとうございます」
「クロス… 分かりましたね?貴方の働き次第で我が国の未来が決まる事になりました」
「はっ、はい! しかと任務遂行致します!!」
「セントランス卿 必要な物は全て用意しますのでクロスを通じて申して下さい! …ところで何故私の特殊能力先見眼の事を知っているのですか? このスキルについては一部の者しか知らないはずですが?」
「私の特殊能力も殿下と似ていまして…眼で見たモノの情報をある程度視る事が可能なのです」
「なんとッ! そんなスキルが存在していたとは…しかしそんな大事な事……話して良かったんですか?」
「殿下のお人柄を拝見し隠す気が失せました! ハッハッハッハッハッ」
「ふふふっ それは良かった ハッハッハッハッハッ」
後日クロス・バーナードは魔装導師団を退任しリョーマと共にトライズンを出立……旅商人として名をセバスチャン・クロセントに変えたーー