第6話 『転移者カスミ』
儂が魔装大公国トライズンに入国し城塞都市ドラッシュに腰を据えて一週間が過ぎようてしていた。この国はザベート王国とは違い奴隷制度は廃止され、人間と亜人が共に暮らすとても良い国であった。
「あら おはよう リョーマくんは今日も早いのね」
「おはようございます シィーラさん」
この人の良さそうなおばさんは儂がトライズンに来てお世話になっている〝猫の亭〟の女将シィーラさんぜよ。この人の料理が気に入って儂は一週間この宿を利用されてもらっている。
「はい朝食だよ 今日は何処に行くんだい?」
「今日はクロスさんがお休みらしく昼から御宅に招かれてるんですよ! 手ぶらじゃなんなんで何かお土産を買いたいんですが何がいいですかね?」
「あらっ、あの総隊長さんとこに行くのかい? そうだねぇ〜… あの人は甘党だって話だから最近出来た〝甘味屋 カスミ〟にでも行ってみたらどうだい?」
「甘味屋かぁ〜 いいですね♪ ありがとうございます」
カスミとはまた和風な感じの名前じゃなぁ〜…
もしかして元日本人!?
ーーー《城塞都市ドラッシュ 甘味屋カスミ》ーーー
儂は早速女将に教えてもらった甘味屋へ行きガラガラガラッ…と店の扉を引くと店内に甘い香りが漂っていた。
「なんと美味そうな香りだ」
そう呟くと唾を思わずゴクリと飲み込んだ。
「いらっしゃいませ ようこそ甘味屋カスミへ」
声の方へふと目をやると長い黒髪で黒い瞳をした日本人と思わしき女性がニコリと微笑み迎えてくれた。
「本日はどのような物をお求めですか?」
「……あのぉ〜失礼ですが日本人の方ですか?」
「———ッ!!!」
儂は気になり直接問いかける事にした、だが悪いとは思いつつも実はこっそり鑑定眼も使用していたのだ!何故なら儂のステータスにも前世の名前が表示されていた為、もしかしてと思い……
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名前:ニイガキ・カスミ
性別:女
年齢:21歳
レベル:16
称号:異世界転移者
職業:甘味屋主人
能力:水魔法Lv5 火魔法Lv4
特殊能力:料理Lv60 暗殺術Lv80
儂の疑問だった日本人かどうなのかは分からないが異世界転移者と表示されているという事はやはり… というかそれ以上に気になるのがこの特殊能力暗殺術Lv80というのを聞いてみたいが……
「……何故それを!?」
「やはり!!! 名前からしてもしやと思ったんです」
「では貴方も……日本人? でも金髪だし… それに子供だし……」
「僕は一度死んでこの世界に転生したんです」
「転生……ですか」
「はい こちらの世界ではセントランス・リョーマと名乗っていますが生前の名は……」
「…………」
「坂本龍馬と申します!」
「えっ? …えぇぇぇぇぇッッッ!!!!!!」
儂が坂本龍馬だと名乗るとカスミは声を荒げて驚愕していた。儂ってそんなに有名人じゃったかのぉ?
「すみません 突然のことで大きな声を出してしまいました」
「いえ…あのぉ〜 僕の事知ってるんですか?」
「しっ、知ってるも何も! 貴方は超有名人ですよ!!」
「ちょ、超?」
「何せ教科書何かにも載ってて授業で習ったりもしますし、小説に映画やドラマにだって貴方は出てきますから!」
「小説? えっ映画? どどドラマ??」
「あっ、私は新垣霞と申します! 実は転生者では無く転移者なんです…」
「……………」
「私もラノベとかでしか知らないんですが転移とはつまり…何らかの原因で日本からこちらへ移動して来たって事です! 私は姿形は勿論…年齢もそのままの状態でこちらに来ているので今は21歳です」
カスミの言葉には嘘はない…それに儂が教科書とやらに載っていると言うのであればカスミは恐らく儂の居た時代より遥かに先の未来から来た事になる。
悪人には見えぬし…少し信じて暗殺術について聞いてみるか!
「あのぉ〜実は僕……人のステータス情報を少しだけ見れちゃう特殊能力を持ってるんですが…カスミさんの特殊能力が凄く気になるんです……これは一体?」
「あぁ 料理と暗殺術とかいうやつですよね?」
「はい しかも二つとも高レベルですし…」
「これは私がこちらに転移した時からあったスキルです… 私こっちに転移して一年程なんですがその間から暗殺術なんて物騒過ぎて使ってないんですよ」
「確かに物騒な名前ですもんね」
となると初期状態でレベル80だったという訳か……
「あのカスミさん 良かったら少しお話しませんか?」
儂は同じ日本人であるカスミに親近感が湧き、儂の仲間になってくれるよう懇願した————。
「今ザベート王国ではそんな事に……」
「あぁ だから僕は今一度この異世界で行動を起こさねばと考えています…どうかカスミさんの御力をお貸し下さい!」
「龍馬さんのお話を聞いて分かりました! 実は私…こちらに来た理由が分からないままだった… でも今はこう思うんです……きっと坂本龍馬さんと一緒に何かを成し遂げる為にこの異世界に来たんだと…今は思います! だからどうか宜しくお願いします」
「ありがとう… ありがとうカスミさん!!!」
こうしてリョーマは新垣 霞という仲間を得て異世界革命の第一歩を踏み出す!
「…ところでクロス邸に招かれているので何かお土産を見繕ってもらえませんか?」
「えっ? あっ ハイ!」