第5話 『魔装大公国トライズン』
儂は急遽ザベート王国の安宿に泊まる事にし、まずは国民達の話を直に聞いてみる事にしたが大人達は子供とはいえ貴族相手に素直な気持ちを言えていない様子だった。そこで目線を下げて子供達に話を聞いてみるとやはり親達は家で不満を口にしているみたいだ。無理もない…一年という長きに渡り国は疲弊し、国民は稼ぎもろくに無く国の為にと民に酷使させ続け、裏を返せば上流階級は変わらぬ暮らしを優雅に決め込んでいる。これがこの国の現状ッ!!
「名誉じゃ…腹は膨れんぜよッ!!」
儂はこの国の在り方に怒りすら覚えた———。
急ぎセントランス領へ戻った儂は部屋に籠もり、これから必要な能力について思案する事にした。戦闘になれば必ず必要になってくる攻撃魔法や耐久能力は必須!あとは錬金術の練度を上げ、組織を構築し商業組合を立ち上げよう…金策は必要じゃしな♪
「忙しくなるぜよぉぉッ!!!」
しかし組合を立ち上げるにせよ、これからは儂一人では大成せんぜよ…誰か適任者や協力者を探さねば……
「リョーマぁぁぁ 帰ったのぉ〜?」
「ん?ローラか?」
「もおッ! 何が ん?ローラか… よッ!! 戻って来たなら顔出しなさいよね」
「あぁ悪い悪い これから領主として色々やらなきゃならなくて…… そういえばブレッドさんってローラの家の元執事長だったんだよな?」
「うん… 私が物心ついた頃にはもう引退して私の面倒を見てくれてたけどね」
「そうか……あの年齢だし人脈はそれなりに有りそうだな」
「何なのよ?」
「よしっ! 今からローラの家に行こうッ!!」
「えっ? 何? どうしたのよぉ!? ちょっと待ってよぉ」
ーーー《セントランス領 ローラの家》ーーー
「ブレッドさぁ〜ん! 居ますかぁ〜?」
「あらあらっ! リョーマ様 如何なさいました」
「今日は折り入ってブレッドさんにお話があります」
不思議そうな表情を浮かべたブレッドさんは儂の切迫した気迫を感じたのか応接室へ通してくれた。儂はブレッドさんに王都の有様を伝え、自身の感じたこの国の嘆きをブレッドさんに語り尽くした…話し終えるとブレッドさんは儂の目的に気づいたのか、掛けていた老眼鏡をクイッと動かし口を開いた。
「リョーマ様 私はお力にはなれません」
「何故ッ!? ブレッドさんは僕には出来るわけないと思ってらっしゃるんですか!?」
「いえ…そうではありません 私はローラ様を旦那様と奥様に託された身、あまりリスクを負った事はローラ様の身の危険に関わると考えております故…御容赦下さい」
「…………すみません 御無理を申しました」
そうだった…やはり訳があるのか。目立つ事を極度に嫌がる程の訳が———ッ!!しかし儂もローラを危険な目には合わせたくない、ブレッドさんの気持ちは凄く分かるぜよ。
しかし……
「これは私の独り言ですが… 魔装大公国トライズンの第7代セバポリス・クライシス大公殿下は26歳の若き獅子と聞き及んでおります 彼ならリョーマ様の思想も理解してくれそうなのですがねぇ〜……まぁ独り言ですが」
「ありがとうございます ブレッドさんッ!」
魔装大公国トライズンとはザベート王国とクロノスト帝国とは別の領地に独立支配権を有した公国のひとつである。このキャセインには魔装大公国トライズンの様な公国が他にもふたつあり、それらは大貴族と称される者達によって制限君主制を用いて王が決められるそうだ。これらの公国はザベート王国やクロノスト帝国よりも小国の為、有事の際には互いに協力する和平条約を結び三公連合と呼ばれている。
「魔装大公国トライズンのセバポリス・クライシス大公殿下か… よしッ!とりあえず行ってみるぜよ」
ーー《魔装大公国トライズン 城塞都市ドラッシュ》ーー
「また長旅だったなぁ〜 セントランス領を旅立ってトライズンまで3ヶ月もかかってしまった」
領主としての仕事は母と姉に丸投げして儂は単身トライズンまで来ていた———。この魔装大公国トライズンは民衆の大半が魔法使いの一族らしく、近隣には強力な魔物が多く生息しており防衛処置として首都のドラッシュはその周りを塔の様な高さの壁で覆っている為、城塞都市と呼ばれている。
「しかし本当大きな壁だなぁ〜…確かにドラゴンクラスのデカさの魔物じゃなきゃ入れないぞ」
街に入るには身分証を提示して防衛策もしっかりしている。
「しかし大行列だ!これじゃ街に入るまで1〜2時間はかかりそうだなぁ〜」
「きゃあぁぁぁッ!!!」
「————ッ!!! あれはワイバーン!?」
「皆ッ! 急いで散るんだ ワイバーンに襲われるぞ!」
今はまだ目立つ事をしたくないので儂も避難するぜよ!
「うわぁああぁぁぁッ」
「ママぁぁぁッ」
———ッ!! あの子の母が襲われてるのかッ!?
参ったぜよ…目立ちたくなかったが仕方ない。この3ヶ月の移動中に覚えた攻撃魔法で……
「そこの少年ッ!! 離れなさい———ッ!!!」
「ッ!!! 儂!?」
「天を轟く雷よ 眩い閃光と成りて 我が命を受け その力を示せ……〝雷光電葬ッ〟」
儂に離れるよう叫んだその男は雷魔法の高位攻撃呪文を詠唱し、一撃で巨大なワイバーンを絶命させた。あんな離れた場所から周りにいた人に当たる事なくワイバーンだけを攻撃するなんて普通の人間にはそうそう出来る芸当ではないはず…一体彼は何者なんだ!?
ちょっと覗かせてもらうよ…〝鑑定眼ッ!!〟
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名前:クロス・バーナード
性別:男
年齢:27歳
レベル:52
二つ名:雷撃
称号:雷神の加護
職業:魔装導師団総隊長
能力:雷魔法Lv60 槍術Lv40
特殊能力:魔力回復Lv20
雷神の加護持ちか…かなりの高レベルだな。職業……魔装導師団総隊長!?って事はこの人に近づけばセバポリス・クライシス大公殿下に会えるかもしれない!!着いて早々ツイてるぜよ♪
「ママぁぁぁッ」
「ッ!!!」
「こりゃ酷い……ワイバーンの爪で肉を抉られてる」
「急ぎ衛生兵を呼んでこいッ!!」
「クロスの旦那…今からじゃ間に合わねぇよ……」
「……………」
「ちょっといいですか?」
「何だ!? 子供は離れなさいッ」
「大丈夫…僕に任せて下さい」
「一体何をッ!!?」
儂は自分で錬金した上級回復薬ポーションを母親に使い傷を癒してあげた。見る見るうちに傷が癒え、傷跡すら残らず消えていった———。
「なんとッ!!」
信じられないという表情を浮かべる人々の中、涙と鼻水でクチャクチャにさせていた子供だけはまた大泣きしながら喜んでいた。
「………この子は一体!?」
ボソリと呟くクロス・バーナードに目線を移した儂はニコリと微笑み名を名乗る…
「僕はザベート王国はセントランス領より参りました2代目領主のセントランス・リョーマと申します!」
「……私はクロス・バーナード このトライズンで魔装導師団の総隊長を任されています! 我が国民の命をお救い下さりありがとうございました」
こうして〝雷撃のクロス〟との初対面を果たしたリョーマはクライシスに会う事は出来るのか———!?