第4話 『家督継承』
儂が10歳になって半年が過ぎた頃、ザベート王国とクロノスト帝国の戦争が開戦。儂が住むセントランス領はザベート王国の領土で国王陛下より父上が預かり受けている土地だそうだ、戦地からはかなり離れた辺境地の為セントランス領までは戦火は届いておらず報せだけが耳に入ってきた…その報せとは元王国騎士団だった父上に至急参戦せよとの命令書だった。
「行くのパパ?」
「リョーマ… 国の大事だからね 行かなきゃ」
「…………」
儂に…儂に何か出来ないのか!?
考えろ!…考えるんじゃ坂本龍馬ァッ!!!
「パパ… 僕の作った回復薬ポーションを持って行って!」
「リョーマ……ありがとう下級回復薬でもリョーマの作った物なら心強いよ」
下級ではない…上級回復薬ポーションだ!だが父上にそれを教えてしまったら儂の錬金術レベルまでも悟られる危険性がある。
……いやっ、今は父上の命を優先すべきぜよ!
戦地では確かな情報が命を守る事もある。
「……パパ 実はね これ上級回復薬ポーションなんだ」
「えっ!?」
「何でか分からないけど僕の錬金術レベルは15なんだよ だから上級までの回復薬が作れちゃうんだ」
「リョーマ……」
「戦地では知らない事が命のやり取りに繋がる事もあるけど僅かな有益な情報が命を救う事もある! だから……」
「リョーマ お前…天才だなッ♪」
「ッ!!!」
「俺はお前を誇りに思う! 有り難く貰っておくよ」
「パパ…」
「俺が帰るまでセントランス家を頼んだぞッ!」
「うんッ!」
これが我が父…セントランス・パパリクスとの最期の会話となった———。戦争に参戦した父は騎士団に居た頃よりも強く、そして勇ましくなっていたと当時を知る騎士仲間が語っていたという…国の為に勇ましく戦って散った父を儂は誇りに思うッ!
そして戦争開始から一年後、ザベート王国とクロノスト帝国との停戦協定が結ばれ戦争は終結…儂は11歳でセントランス家の家督を継いだ———。家督継承の儀を済ませると儂は国内貴族交流の社交場へ顔通しを行うべく、王都ワシルへと向かった。
道中馬車に揺られながら父の姿を瞼の裏に思い描き儂は涙した、偉大なる父に恥じぬ様努力しようと心に決め…涙を拭う。
五日に渡り移動した儂は遂に王都ワシルへ足を踏み入れると、そこにはまだ戦争の傷跡が感じられる程 憔悴しきっていた民や兵士の姿が目に飛び込んできた…この戦争はザベートにとって、かなりギリギリの戦いだったのだろう!
ーーー《王都ワシル 貴族街 ソニア大神殿》ーーー
ここは王都ワシルの中にある貴族が住む街、貴族街の中央に位置するソニア大神殿。ソニアとは太陽神の名前で…光魔法や聖魔法の神様らしい。この魔法世界キャセインには9人の神様が存在すると言われており、儂をこの異世界に送り込んだキュラソウもその一人ぜよ。
〈転生神キュラソウ〉死者の転生を司る導きの神
〈太陽神ソニア〉光と聖を司る生命の神
〈水神ミネラ〉水を司る命源の神
〈焔神エンマ〉炎を司る獄炎の神
〈土神ドンツ〉大地を司る慈愛の神
〈風神センキ〉風を司る自由の神
〈雷神ブンキ〉雷を司る怒りの神
〈龍神ドラグナ〉精神を司る強靭の神
〈暗黒邪神ダークマス〉闇を司る冥府の神
「皆さん! 遠き地より良くぞ集まって頂いた 私は司会進行を務めさせて頂くザベート王国伯爵家プラノ・バシリックと申します お見知り置きを」
パチパチパチパチッ…
「此度の戦で沢山の兵と皆さんのご家族の命が失われた事にまず黙祷を行いましょう… 黙祷ッ!!」
黙祷を終え貴族達の領土収益報告を答弁し、家督継承の挨拶が始まった。儂を含め此度の戦争で父または兄弟を失い、家督を引き継いだ者が3名居た…
「…では続きまして家督継承の挨拶に参ります! 継承挨拶をする者は御起立下さい」
「私はザベート王国西南部に領土を持つ子爵家タナマ・フィースと申します 父の跡を継いで立派な領主となりますので御教授の程宜しくお願いします」
「私はザベート王国北西部に領土を持つ伯爵家スパム・イザビームと申します 兄が戦死致した為この度家督を継承致しました! 宜しくお願い致します」
「私はザベート王国東南部の辺境地に領土を持つ男爵家セントランス・リョーマと申します! 年は11歳なれど父に恥じぬ領主となります故 以後お見知り置きを!!」
ざわざわっ…
「お静かにッ では次に………」
11歳という年齢に反応したのか?まぁ何にせよ儂は儂を…坂本龍馬を貫き通すだけぜよッ!!
一通りの挨拶を終えた儂は中庭で同じく家督を継いだスパム・イザビームに声を掛けられた。
「やぁセントランス卿 折角辺境地から王都に来られたのですから一緒に観光でもなさいませんか?」
「いいですよ ご一緒します」
今の時勢を目にするのも悪くない!儂はそう思いスパム・イザビームの申し出を受ける事にした。まずは貴族街を散策、戦後でも変わらぬ優雅さを実感する程気品に溢れており、貴婦人達が通うドレスや宝石、化粧品を取り揃えているお店には華やかな姿で高笑いする者たちが目立つ。
対する市民街とされる王都の外側の街は傷付いた兵士が路肩に座り込み穴が開いた防具に折れた武器が山積みにされていた。街のムードはピリピリとしており、奴隷への扱いも目に余るものだった。
「酷い…… なんて酷い有様だ」
「確かに酷いね セントランス卿アレを見てごらん」
「アレは…子供……の奴隷!?」
「この世はこの金貨の様なものさ 表か裏か…食うか食われるか…勝つか負けるか…強者か弱者か…富豪か貧困か…庶民か奴隷か…そして生きるか死ぬか」
「…………」
「僕らも貴族なんて偉そうにしているけど人間なんて死ねば皆同じ……ただの屍さ その事に気付いている貴族は一体何人居るんだろうね」
儂がまだ郷士じゃった頃の日本でも表裏一体の物事は沢山存在していた。いやっ、今尚それは在り続けているじゃろう…しかし同じ国の者なら、国の為に傷付いた者が居る時こそ寄り添うべきではないのか!?儂はザベートの国王に意見を聞きたいぜよ!
じゃが男爵とは言え11歳の子供の言葉に耳を貸すまい。
儂に力があれば………
「ッッ!!! チカ…ラ!?」
あるッ!! あるではないか!!!
儂の唯一の武器… 特殊能力《意欲》がッ!!