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ユリちゃんは隅のベンチにいた。花火は次々に打ち上がり、ユリちゃんの姿を色とりどりに染めていく。声を掛けようとして、僕は首を傾げた。
ユリちゃんが見つめているのは、きれいな花火じゃない。
二つの袋に入った、七匹の金魚だ。さっき僕らがすくった金魚だ。
透明な水の中。花火に彩られるその中を、金魚たちはゆっくりと泳いでいる。ユリちゃんはそれをじっと見つめている。離れたところにいる僕には気づいていないようだ。
突然。
何を思ったのか、ユリちゃんは袋の口を開けた。指をそっと入れる。何かが入ってきたことに驚いて、逃げ惑う金魚たち。底の方で溜まり出した金魚を、細い指が追いかける……。
やがて一匹が尾びれを摘ままれた。ぴちぴちと身体をくねらせながら、水から出される。
金魚が連れていかれる先には、闇がぽっかりと待ち受けていた。
ユリちゃんは、金魚を食べようとしていた。大きく開いた口は、お面のカエルのよう。遠目から見ると、本当に真っ暗で底無しの闇だ。
ゆっくりと指が離れていき。金魚は闇に落ちていく。
ぴちょん、と音が聞こえたような気がした。ユリちゃんの喉が跳ねた。
一匹、また一匹と金魚は食われていく。
とうとう、七匹全てがユリちゃんの口に消えていった。
ユリちゃんは空になった袋を名残惜しそうに見つめ、舌で唇を舐めた。
僕はぼんやりと一部始終を眺めていた。初めて、ユリちゃんが「食べて」いるところを見たんだ。一瞬たりとも目が離せなかった。
ぱき