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七時半になると、花火が上がる。見やすい場所には人が集まっているけど、僕らはそこには行かない。いつも遊んでいる公園。そこは花火がよく見えるのに、人の来ない、僕らだけの特等席だった。
早く行かないと、花火が始まっちゃう!
屋台ではしゃぎ過ぎて、花火の時間に遅れそうになる。駆け足になる。それも毎年のこと。
だけど、その年は違った。
ぷつん、と音を立てて僕のサンダルの紐が切れた。このまま走ったら、脱げてしまいそう。
「ユリちゃん、これ持って先に行ってて」
「うん。分かった」
金魚の入った袋を受け取って、ユリちゃんは駆けていく。僕はその場にしゃがみ込んだ。紐はあろうことか真ん中で千切れてしまっている。結ぼうとしてみるが、届かない。僕はしばらく苦戦した挙句、諦めることにした。紐の切れたサンダルともう片方を脱いで、それぞれ手に持つ。
どん、どん、という凄まじい音がする。花火が始まったみたいだ。ユリちゃんの待つ公園に向かって、僕は走り出した。