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不思議なことはもう一つあった。
僕は、ユリちゃんが何か、物を食べる姿を見たことが無かった。水を飲むのは見ているのに、食べる姿は一度も無い。
小学生ってほら、友達と遊ぶ時におやつを持って行くだろう? 僕だってそうだった。でもユリちゃんは違った。
僕はユリちゃんの分もおやつを持って行く。二人で食べようとしても、ユリちゃんは受け取るだけで
「今、お腹が空いてないの」
と言って、それをスカートのポケットにしまってしまうのだった。
普通のお菓子なら、それでもいい。だけどアイスクリームなんかのすぐに食べないといけないものの時にはそうはいかない。僕が
「一緒に食べよう」
と言うと、ユリちゃんはじっと考え込んで
「じゃあ……食べてるとこ、恥ずかしいから見ないで」
そう言った。
幼い僕はそれを何とも思わず、両手で顔を覆い隠して、ユリちゃんが食べ終わるのを待った。
「食べ終わったよ」
しばらくして、ユリちゃんの声で僕は顔を上げる。
僕が自分のアイスが溶けてどろどろになっているのを嘆くと、ユリちゃんは「ふふふ」と笑っていた。
ユリちゃんがどうして食べる姿を見せようとしなかったのか。
その理由を、僕はこの目で知ることになるんだ。