魔法とは食の探究
あれから頻繁にエアルと行動を共にするようになった。
彼女に魔法を食べさせてわかったことは、魔物は食材、魔法は調味料の味がするということだ。岩を生み出したら塩の味がするらしいし、マグマはトマトケチャップっぽいらしい。だから、魔法で倒した魔物はそのままより美味しいらしい。
調味料が素材の味を活かすのだ。
そして、その調味料の質は使い手の魔法の完成度、つまりは俺の腕に左右される。
強くなればなるほどに、深いコクや辛さの中の旨み、十分な甘さはあるけどさっぱりして食べやすいなど、味の完成度が高くなる。
彼女に魔法を食べさせることは自分のレベルを知ることにも繋がってwin-winな関係が築けていると言えるはずだ。
ただ、どれだけ全力の魔法でもエアルの魔法である真食で完全に消されるというのは、精神的に来るものがある。体質すら利用したオンリーワンなそれはこの世界では特別で、誰でも使えるものしか持っていない俺にはエアルがとても遠くに見えた。
俺だって転生というオンリーワンな要素を持っているというのに、同年代と比べて少し優秀なだけというのが、余計に俺の劣等感を刺激してしまう。
だから俺は彼女に嫉妬し、憧れているのだ。
だからせめて、置いていかれないように。
身体を巡る魔力を煮えたぎらせる。恒星、火星、火山……そして重力を身に宿し、重力で押し込んで無理矢理まとめた力を外へ解き放つ。
恒星は爆ぜたがっている。火星は着火する時を心待にしている。火山は熱と共に全てを解放したがっている。それらは重力という暴力で押さえつけられ、目の前にいる青く輝く虎へと向かっていく。
この虎は全身を雷へ変化させることによって機動力、麻痺性能、攻撃力、物理耐性を得る厄介な魔物ではあったが、もうその程度では相手にならない。
重力は雷になった虎すら吸い込み、次の瞬間爆ぜた。
圧縮された熱達は行き場を求めて拡大し、全てを融かしながら広まっていく。空気が歪み、それを炎が飲み込み、膨張する。
エアルが飲み込んだことでそれが終わると、そこには灰色の空洞だけが残っていた。
「ミンチになってハンバーグになりな」
「ライヴくんって決め技っぽいの使うとキザになるよね」
余韻に浸っている所に水を差される。
魔法が当たり前にある世界に初めからいたら特別思うことはないのかもしれないが、魔法は創作の中でしかなかった地球を知っていると魔法が使えたらこういう台詞を言いたくなるってものなのだ。
累計20年以上生きていても厨二は厨二なのである。
「もう癖なんだなこれが。で、これどうよ? 味の組合わせ的には問題ないはずだけど」
「んーとね。並列起動すると一つ一つの味が落ちるからちょっと安っぽい感じになっちゃったかなー? 魔法の威力としては上がってるんだろうけど、完成度はまだ足りてないって味だよ。ちなみにトマトチリソース味」
「エビ系のやつに使いたくなるなそれ。今度海の方行ってみるか? しかし、やっぱり制御が課題かー。力任せ過ぎたのかもな」
「あれあれ? わたしデートに誘われてる? ライヴくんはわたしにぞっこんかー。そっかー」
からかうような口調で覗きこんでくるエアル。だが悲しいかな、俺はもっと胸が欲しい。
「……ならもっと魔力食べさせてよ」
「読心魔法を覚えただと!?」
「視線」
エアルはさっきまでのニヤニヤが嘘のようにジト目で俺を見てくる。栄養が足りないから成長が遅いと言いたいらしいが、身長は年相応なのでそれはどうなのだろうと思う。失礼だから思うだけで絶対に言わないが。俺はまだ食われたくはない。
「わたしはお詫びに海鮮ツアーを要求する!」
「おっと、今度は俺がデートに誘われてしまったか。じゃあ次は一緒に海だな」
「ライヴくんって反省しないよね……。まあいいけどさ」
そんな約束をして、今日も家へと帰っていく。
戦士としての距離は離れていても、こんな無駄話や帰り道は一緒に歩いていられる感じがして安心する。
でも、だからこそ俺はもっとエアルの領域に近付きたいと思ってしまう。
憧れは恋みたいだ。