凡人転生者と天才少女(2)
獲物を横取りされたというのは、別に構わない。第三者から見て俺がピンチになっているのは明らかで、その場合はいわゆる横取りをしていいことになっているし、推奨すらされている。
だから、誰かが助けてくれたということは別に驚くことではないんだ。問題は……。
「魔物を含めたあの量の魔力、あれが散ったわけでもなく完全に消えたってどういうことだよ……」
俺には理解出来ない魔法(?)が事も無げに使われたこと。それも、同年代ぐらいのやつに。
「ありゃりゃ、倒せてたかもだね。ごめんごめん。こりゃわたしが食べるまでもなかったかー」
「それはいい。実際ギリギリだったし……。見ず知らずの俺を助けてくれてありがとうって言わなきゃいけないぐらいだ」
「そかそか、ならよかったよー。でもこっちもありがと! 熊の手美味しかった! あれだね、火加減がよかったんだね」
と、一人うんうんとうなずいて納得する少女。
てか、美味しかったってどういうことだ? まるで魔力を食べたみたいな言い方だ。
外部の魔力を魔力のまま自分に取り込むだなんて、そんなことができるとしたらそれは最早無敵だろう。魔物は魔力によって構成されるし、魔法も魔力によって維持される。
だから、魔力そのものを喰い消せるとしたら、それは最大の攻撃で最大の防御と言えるだろう。そんな魔法や能力は現状公開されていないはず……。
「……っと悪い、考え込んでしまった。俺はライヴ。上層ですらギリギリの駆け出しだ」
「んー? わたしはエアル。食べることが好きだよ。よろしくね」
「よろしく。もしかして、さっきのあれも食べる魔法なのか?」
「んんー? そだよ。魔力を食べる魔法なんだ。味も感じられるのがいいよね」
「あの熊って美味しいんだ……」
「口当たりが軽くて口の中でふわっと溶ける極上の肉だよ!」
まさか本当に魔力を食べるとは……。でも、そうなると、許容量の問題が出るはずだけど。
魔法とかを使わない限り魔力は常に身体を循環しているんだから、受け入れられるキャパがあったところでそこまで残存魔力を下げられるわけがない。40L入る車でも100L入る車でも、満タンから5Lしか減ってないなら入る量は同じなのだから。
なら、それを使うにはあらかじめ魔力枯渇ギリギリまで追い込むか、循環するということを否定……。もしかして。
ある可能性に思い至った俺は反射的にエアルの魔力の流れを見てしまった。
すると、やはりと言うべきか彼女の身体からは何にも変換されることなく魔力が漏れだしていた。
循環魔力障害。本来は身体を巡るはずの魔力が身体から漏れだしてしまい、徐々に魔力が減っていく。魔力がギリギリまで減ると自己防衛本能のために気分が悪くなり倒れるという魔力枯渇の症状すら無視して魔力が減り、やがて死に至るというものだったはず……。
「なぁに? ジロジロみちゃってー。ライヴくんのえっち」
わざとらしく胸を隠して反応するエアル。俺はロリコンではないので凹凸のない身体を舐め回すように見る趣味はないのだが、きっと彼女は気付いた上でこのような反応を取っている。
そんな反応に、勝手に人の秘密を見た罪悪感に襲われるのだった。
「……勝手に見てごめん」
「いいよ。慣れっこだわたし」
「あの魔法は生きるために覚えたのか?」
「ううん、気が付いたらやり方を知ってた。運悪いけど運いいんだ」
沈黙が流れる。気まずさと、魔法を使う才能の差と、色々ごちゃごちゃになって俺は言葉につまってしまう。
そんな俺を見かねたのか、沈黙を破ったのはエアルだった。
「だからさ、たまにライヴくんの魔法を食べさせてよ。魔物探しても見つからない時もあるかもだし、そんな時に誰か私が生きられるだけの魔力をくれたらいいなーって。ねっ? ねっ?」
カッコ悪い。とてもカッコ悪い。
気を使わせて、魔力を見たことを水に流してもらって、こんなに自分はダメな男だったのかと落胆する。
だからこそ、これ以上失態を見せないためにも短く「ああ」とだけ答えた。
「よかったー。じゃあ私そろそろ帰るね。また今度!」
そう言って手を振って帰っていくエアルに最後に素朴な疑問をぶつける。
「そういや、俺の炎ってどんな味なんだ?」
「チリペッパー! めちゃカラだよ!」
去っていく彼女に手を振りながら、もっと女子受けする味の魔法覚えるか……。なんて呑気なことを考えるのだった。