凡人転生者と天才少女(1)
書いてる途中でデータ消してしまったので途中までで一旦切りました。
10歳を迎え、一人で外へ出る条件を満たした俺は、上層で魔物を狩る日々を送っていた。
その中で、無限に増え続けるスライムに数の暴力で負けそうになったり、五感への影響を及ぼす鱗粉を撒き散らす蝶に発狂させられそうになったりしたが、おおよそ平和に生きてこれた。
だが、今日と言うか、今は違う。
ふわふわと目の前を漂う茶色の霧。この魔物に、俺はなすすべもなく逃げるという選択肢を取るしかなかった。
元々は熊の見た目をして現れたこの魔物は、魔法への気配を敏感に感じとり、身体を霧へと変える。そして、その霧は恐ろしい程の耐性を持っていた。
熱では消えず、重力には適応し、土や木に染み込むこともない。多分この熊は霧になることでこの世界にある魔力と同質化し、魔法による影響を打ち消している。
だから、こいつを倒すには直接魔力を掻き乱すような魔法を使うしかないのだろう。そして、その術を今の俺は持っていなかった。
圧倒的な力量差でなすすべもなく殺されるよりは良かったのだが、勝てる方法がない以上は逃げるしかない。だが、優位性を理解した熊は俺を獲物と定めて執拗に追ってくる。
逃げ続けることはできるのだが、その内に別の魔物に遭遇しないとは限らない。もしそうなったらじり貧になって俺は死ぬだろう。
だから、賭けに出るべきだ。
わざと追い付かれて、攻撃するために実体化する一瞬を狙ってフィスタの炎を置く。
少しタイミングが崩れたり、発動速度が遅かったりするだけで、即死する爪が俺を引き裂くだろう。防御を張る余裕も、回復する余裕もなく、攻撃に全ての神経を割かないといけない状態での被弾とはそういうものだから。
だから、初めての戦闘から使っている置きトラップ系の炎で、産まれて初めて教わったフィスタを選んだ。
全霊を懸けて乗り切るべき危機にゾクゾクする。きっと俺はこの世界に染まりきっているんだろう。
わざと速度を落としたことは悟られていない。来る。3……2……1……。
「ウェルダンだ!」
昂った意識はいい方向へと働き、自分が思う座標、タイミング、発動速度で空間へと恒星の炎を置く。
ヤツの実体化はもう止められない。このまま炎に飲まれて炭と化すことだろう。
しかし、そうはならなかった。
実体化するはずだった熊も、俺が灯した炎も、全てが何かに喰い消されてしまったから。
結果、突如ばくりと乱入してきた一人の少女によって、クライマックスは思わぬ終わりを告げた。