はじめてのせんとう
まだ転生サイドの世界観の説明多目です
5歳になった頃、この歳になってようやく居住区の外へと出られる権利を得られる。安全性の問題でそれ未満の子供を外へ連れ出すことは、例え親同伴でも許されないというのだ。
更に、一人で外へ出ようというなら10歳以上かつ、形態を問わず5個以上の攻撃魔法の習得及び、それ以外に回復魔法に分類されるものを2個以上の習得を管理局から認められたものという条件が付く。
それがこの世界で一番弱いところへ行くために必要な条件だと言うのだから、この世界の過酷さを推して知るべしって所だろう。今更だが人生ベリーハードモードがデフォって酷いと思う。
つまるところ、俺は今居住区の外に、正確に言えば魔物が出る区画の一番弱いところにいる。
この世界における人間以外の動物、つまり魔物は強ければ強いほど南で産まれる。それは最南端にスポットと呼ばれる魔力溜まりの地点があるからで、そこ以外に産まれる魔物は強弱の差はあれ、余波と言える。
余波は当然距離が遠いほど弱まり、最北端が一番弱い魔物が出る地域ということになる。だから、上層。深淵から遠い上澄みの世界。
「そういう場所じゃないと、死が近すぎるから、子供なんて育てられないし、育てられても一生外になんて出せない」と母さんは笑っていた。
だから、これはこの世界に生きるための洗礼なのだろう。
俺は今から目の前にいる子犬のような魔物を、殺す。
フィスタを起動、身体を流れる魔力は光となり、身体を満たしていく。心臓から熱が流れ、今すぐに解き放ちたいという感覚に駆られる。それを抑え込み、俺は身体に星を宿した。
ここまで数瞬だったはずだが、魔物というものは魔力の変化に敏感で、すぐに俺を敵と捕捉。子犬の茶色い体毛が黒っぽい紫へと変わり、爪は鋭く、更に全身が魔力を帯びていくのがわかる。
恐らくこの犬は俺から見てかなり早い。だからこそ先手を取らなければと、本能的に理解できた。そして、その理解と同時に指から一筋の熱線を発する。
反応を置き去りにし、突き刺し、焼き抉る。そういうつもりで放った一撃。
しかし、それほどこの世界は甘くないのだと、すぐに理解させられた。
何かが飛んでくる気配。それを感じて前方に光を壁のように展開する。
じゅっ。
と何かが蒸発する音、避けた犬が突っ込んできたのかとそんな楽観をしてしまったのが地球の記憶がある俺の甘さで、何かを考えるより先に魔力を探るべきだったのだ。
何かが横切るような風を受ける。その風は、俺の左腕をどこかへと運んでいった。
痛みと共に知覚する。攻撃を受けたことを、犬はまだ生きているということを。
意識が朦朧とし、何か別の熱が身体を熱くする。それは心地いい光などではなく、身体を蝕む黒い熱。あの犬の見た目通り、毒を受けたのだろう。
霞んでいく目、重くなる身体。五感が無意味となっていく。しかし、恐れはない。それでも魔力は感じられるから。犬の魔力によって生み出された毒を受けたことでよりハッキリと。
それに、生きてさえいれば父さんや母さんがなんとか出来るって言ってたし……。
「だからさ、一応俺の勝ちってことで」
身体は倒れながらも、光を犬の真上から落とす。当然避けられるも、想定内。もちろん、この状況でお前が俺に突っ込んでくることも魔力の動きで分かっていたから想定内だ。
だから、俺はそのタイミングでそこに置くだけでいい。お前を消す程度の熱量(炎)を。
「飲まれろ」
霞む視界でもなんとか見える黒い紫を融かす白い赤。
すぐに駆け寄ってくる母さんの足音に勝ちを実感し、俺は5歳らしく昼寝へと意識を落とすのだった。