パパとかママとかを初めての言葉にするのはあくまでも地球の風習
ある程度言葉を理解し始める2歳を迎えた頃、伊勢天星としての意識は突如として目覚めた。
熱中症で死んでも異世界転生できるんだなぁなんて的はずれなことを考えながらも、俺はこの先の展開に心を踊らせていた。
大した知識があるわけではないけれど、この世界の恐ろしく水準の低い料理や、娯楽のなさを見るに、そこら辺でチートできるに違いないと。そんな楽観的な気分でいた。
その一歩としてまずは両親を驚かせてやろうと、定番のパパ、ママを言葉として出すことに決めたのだが、まだこの国の言葉は余り理解していない。
でも、フィスタとか、プラトって単語をよく聞くから、それがこの世界の父、母にあたるはず。
そんな軽い気持ちで俺はたどたどしくも「フィスタ」と口にした。
瞬間、何かが身体から抜け出ていくような感覚、そして何かと一体化するような感覚が身体を襲い、俺は意識を手放した。
目の前が暗くなる前に何か赤いものが見えた気がするけれど、そんなことを気にする余裕など、その時の俺にはなく、ただただ倦怠感に身を任せたのを覚えている。
次目覚めると、そこは赤ちゃん用ベッドの上で、嬉しそうな父と少しガッカリした母が見えた。
あぁ、俺は先にパパと言ったんだなと思ったのだが、少し様子が違う。
そもそも、パパと言うだけで先ほどのような事が起きるわけがない。なんていうか、内なる気を解き放ったみたいな、そんな感覚をパパという単語が与えてくれるのなら、この世界で言葉を発するのはとても怖い。
幸いにもそんなことはなく、不幸にも更にこの世界はクレイジーだった。
「fista」
父がそう発すると、人の頭程ある火がボウッとあがった。
……まさか、産まれて初めて発する単語を魔法言語的なものにする世界に産まれるとは思うまい。
恐らくプラトも何かしらの魔法のキーワードなのだろう。
そんな世界に産まれたと思うと、思わず一筋の涙が溢れるのだった。赤ん坊なのでその後止まらなくなってあやされた。