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記憶とキモチ-告白・巡-  作者: くづもち
3/3

記憶喪失の彼女とキモチ・後編

『死なせてよ!元』

『じゃーね、元』

『ごめんね、元』


ごめんなさい、覚えていないや。


俺は目を覚ました。

「嫌な夢を見たな.......」

今までの春が言ってきた言葉がずっと繰り返されるだけの夢。

所謂、思い出の回廊。

いつかの彼女の飛び降りも、現在の自殺や記憶喪失も全て。

些細な事までこと細かく再現されている夢だった。

今の自分にとっては悪夢でしかない。

だって、今の春には記憶が無いのだから。

前の彼女がああなってしまったのは、自殺をしようとしたから。

本当に死にたかったから。

「.....................」

今は深夜。眠る前に降っていた大雨は小雨になっていた。

そして、その景色を窓越しに見ながら、俺はまた涙を零した。


咲野春の記憶を呼び起こす方法。

本人の死に対する執着。

「.................ある!」

記憶を呼び起こす方法はあった。

今の彼女にもこの気持ちが変わらないなら、やってみるしかない。


その日は、もう寝なかった。

寝ずに、考え尽くしていた。


「咲野の記憶を呼び起こすだと?」

次の日、俺は彼方先生にその事を話した。

「そうです。春は一度、自殺未遂をしています。それを止めたのは俺です。そして、今回の一件も彼女の自殺心、つまり『死への執着』がこの結果を招いた。

今の彼女にまだ、死にたいという気持ちが残っているのなら、その事に対して、問いただし、事故現場や学校の屋上に連れていけば、戻ってくると思うんです」

今回の事故現場や学校の屋上は言うなれば、春の自殺現場という事になる。

「.......」

彼方先生は黙って俺の話を聞いてくれた。

記憶を失った時以上のショックを与えると記憶が戻ってくるというのを聞いたことがある。

俺は、それに賭けようと思った。

そこで、先生は口を開いた。

「木下。確かにそれは得策かもしれない。しかし、反動はでかいぞ。薬で言うなら、『副作用』。お前がその死にたいという事を問いただして、その言葉に対して、拒絶反応を見せ、自我が崩壊し、記憶を取り戻すならいいが、そのまま気を失い、さらに記憶を失くす場合があるんだ。危険だ、やめておけ」

「.....でも、俺は、やるしかないと思うです。確かに、春の体に何かしらの変化は起きるかもしれない。でも、それを支えてやるのは彼氏の役目でしょう?」

その言葉を聞いた先生は、小さく鼻笑いをして、

「青春してんなぁ、クソガキ。いいだろう、やれるとこまでやってみろ」

こう言って、先生は部屋から姿を消した。


あの日以降、俺と彼方先生が会うことはなかった。

二度と、会うことはなかった。


その次の日に俺は実行しようと思った。

先生の言っていたことをしっかりと頭に入れて。

「春、入るよ」

俺はそう呼びかけたが、中から返事はなかった。

「.....?」

まだ寝ているのか?

そんな事を思いながら扉を開けると、春の姿はなかった。

「春...!?」

俺は動揺した。

部屋中を探し回ったが、見つかるわけもなかった。

そこで俺は、机に置かれていた一冊のノートを見つけた。

「ノート...?」

そのノートに名前は書かれていなかったが、少し廃れていた。

中を見てみると、1ページ目からある言葉がぎっしりと少しの隙間もなく、書かれていた。


『死にたい』


そんな言葉が書かれていた。


まさか、記憶を失くした今でも、この気持ちは変わっていなかったというのか、いや、違う。

自分の脳をフル回転させて考える。

何故、こんなノートがあるのか、どうして、死にたいと思っているのか。

「.......!」

考えると、ひとつの節に思い当たった。

それがもし、当たっているなら、春の居場所はあそこしかない。

俺は、病室を後にして、走った。

屋上まで全速力で走った。

そうして、屋上へと続く扉の前まで来た。

「ここに、春が居るなら...俺の考えは当たる」

俺は勢いよく、その扉を開けた。

開けたと同時に見えたのは、屋上から下を眺めている春の背中だった。

「春!!」

俺は、彼女の名を呼んだ。

力強く呼んだ。

そうすると、春はこちらへと振り向いた。

「.........元君」

俺は少し動揺した。

彼女が泣いていたからだ。

「少し、だけ、思い出したよ。私は今まで、二度、自殺しようとしていたんだね。今回の事故の事も思い出したよ。でもね、まだ全部は思い出せないの」

「君は、また俺の前で死ぬつもりなのか?未だに死にたいという気持ちに変化はないのかぁ!」

「うん、そうだよ、元君」

「そんな事させねぇよ。前にも同じ事を言ったよ」

「じゃあ、止めてみなよ。無理でしょう?もう遅いんだ、何もかも」

そう言いながら、春は柵を超えた。

「待て!」

俺は走り出した。

「じゃーね、元君」

そう言いながら、彼女は飛んだ。

「本当に馬鹿野郎だよ!君は!」

俺は柵を超え、身を乗り出し、春の腕を掴んだ。

「だから、約束したじゃねぇか!『ずっと傍に居る』ってなぁ!!」

その言葉を聞いた瞬間の春の顔を少し懐かしいかんじがした。

「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁ...!!」

春はそのまま叫び出した。

いや、苦しみ出した。

顔も蒼白になっていた。

俺は急いで、春を引き上げて、地面に寝かせて、彼女の名を呼んだ。呼び続けた。

「春。春、春、春、春、春、春ぅ!!」

しばらくして、春は目を覚ました。

「春!!」

「.................?」

「春、分かるか?俺だ!」

「.....................()?」

「その呼び方、よかった。成功したみたいで」

俺の必死の説得?は成功したようだった。

「元の声が聞こえたの、私の呼ぶ声が。ごめんね、約束破っちゃって」

「本当にだよ、あの時死んでたらどうしてたんだよ」

「さぁ?」

そんな会話をしながら互いに笑った。


それから数日間、春は入院をした。

記憶に関しての確認や検査、脳検査などをしていたらしい。

中々めんどくさいんだなと改めて思った。

そして今日、めでたく退院した。


「いやぁ、大変だったよ。本当に」

「そうなの?」

「そうなのって、喪失中の記憶ってあるんだろ?」

「冗談よ、まさか、自分が約束の事まで忘れているとは思わなかったけど」

「そうかい、つーか、もう死ぬのはやめてくれよ?お前が居ないとか俺は生きていけないからよ」

「うん、分かってる。ごめんね」

「謝らなくてもいいけどさ。やらなくちゃならない事をやったまでだ」

そんな、話をしながら今日もゲーセンに向かっていた。

「ゲームのことだけはわすれてないとか、中々よね、私」

「まぁね」

流石にこのままでいいと思ったことは言えない。

口が裂けても言えない。

でも、本当によかった。

「ありがとう、春」

俺はぽつりと呟いた。

「ん、なんか言った?」

「なんもねぇよ、ほら、ゲームしようぜ」


この日は快晴だった事を今でも、覚えている。

俺達の事を祝福するような、美しい快晴だった。

あとがき

初の告白シリーズの連載でしたが、いかがだったでしょうか。

僕としてはとてつもなく楽しかったです。

結局、後日談も一緒に書いてしまいましたね。

記憶喪失というのは、そうそうなるものではありませんが、一度なってみたいという変な興味があります。

何もかも忘れるというのはどんな気持ち何でしょうね。

それでは、予告というかなんというか。

次回作は異世界恋愛物語を予定しています。

文フリの企画の応募期間に間に合えば嬉しいですけど、今のところ応募するかどうかは思考中です。

では、次の機会に。



by くづもち

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