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記憶とキモチ-告白・巡-  作者: くづもち
1/3

記憶喪失になった彼女・前編

それは、突然の出来事だった。

在り来りな、出来事だった。


俺の名前は木下元きのしたはじめ

どこにでもいそうな、普通の高校2年生。

髪はボサボサで少しばかりけだるそうな目付きだが、まあ性格は普通だ。

自分で言うのもおかしいがな...。

俺は今、彼女である、咲野春さきのはるとデート中なのだ。

春は俺とは違い、しっかり者だが、少し天然なところがある。

そこがまた可愛いのだが。

容姿も抜群である。

俺の自慢の彼女だ。


今日も俺達はいろんなゲーセンで遊んだりしていた。デートと言っても、やはりこうなる。

普通?にあるような、お洋服などを買ったり、食事に行ったりはしないのだ。

暇さえあれば、ゲームである。

「やっぱり、楽しいね。このゲーム」

「ああ、そうだな」

この時はあんな事が起こるなんて思いもしてなかった。


ゲームを終えた俺達は、公園で昼食を取っていた。

「こうやって二人並んで飯を食うのも久しぶりだよな」

「そうだね〜。あー風が気持ちいい」

そんな軽い会話をしながら、食事は進み、食べ終えたら、他のゲーセンへ向かった。

今思うとこの街はゲーセンが多い気がする。

それに、距離もそこまでないし、歩いて行ける距離だ。

そこがまた嬉しいような気もするがな。

「元!今度はこのゲームやろうよ!」

そんな考え事をしていると、春から声を掛けられた。

「ん、ああ。やろうか」

遅れて返事をして、筐体の方を見ると、それはSTGシューティングゲームだった。

春がこれをやろうと言い出したのは少し意外だった。

だって、今まで音ゲーや格ゲーしかしてこなかったから。

確か、春はSTGは苦手とか言ってなかったか?

「珍しいな、春。お前がこんなのやろうって言い出すなんて」

「ん?あー、チャレンジしてみようと思ってね。食わず嫌いって奴だし、やってみなきゃ分かんないでしょ?」

成程。

今まで食わず嫌いだったのか...。

だが、そのチャレンジ精神は気に入ったのか、俺は右側に行き、100円を投入した。

「俺もよ、あんまりしたことないんだよ。だから、な?」

春は俺のその言葉を聞いて、ニコッと笑って、

「楽しもうよ!」

そう言った。


その後、何度かプレイを繰り返したが、互いに1ステージもクリア出来ないという、お粗末な結果になった。

「「やっぱり難しいわ〜、STG」」

互いに言う事が被る。

「やっぱり、俺達は、音ゲーだな」

「そうだね」

プレイ後のショックはほとんどなく、速攻で開き直り、日が暮れるまで音ゲーをプレイした。


ゲーセンを後にした帰り道、突然の出来事が春を襲った。

俺達は横並びで歩きながら、帰っているのだが、あるところの横断歩道を渡ろうとした瞬間、車が猛スピードで突っ込んできた。

春は俺を突き飛ばし、横断歩道内に残った。

春の体に車が当たるのがしっかりと確認できた。

その時の春の顔は笑っていた。


「春ーーっ!!」

春はその場に倒れ込んでいた。

意識も無くなっていた。

とにかく俺はパニックにはならず、冷静に救急車を呼んだ。

救急車が来る間ずっと、春を呼び続けた。

「春、春、春、春!」

救急車が到着しても春が目を覚ます事はなかった。

春はそのまま救急搬送され、手術室に運ばれた。

俺は手術室の外で待機していた。

「...................................」

死なないでくれ。

そう願うばかりだった。

手術は1時間に及んだ。

手術室の『手術中』のランプが消えた時、俺はガタッと立ち上がり、扉から出てきた、先生に声を掛けた。

「春は、春は!どうなったんですか!?先生」

「落ち着いてください、向こうで話します」

先生にそう言われ、場所を移った。

そこの一室で待っていると、いつも通りの姿に着替えた先生が入ってきた。

「ええと、彼氏だよね。君は」

「はい、そうです」

「そうか、名前は?」

「木下です。木下元」

「ふむ」

先生は少し咳払いをした後、話を始めた。

「元君、まず言う事は手術は成功したという事。

幸いにも彼女には目立った外傷はなかった。

しかし、問題が一つだけある」

「問題...」

「彼女は頭をかなり強く打っているんだ。少しばかり、傷も出来ていた。頭を少し強く打って、事故前後の記憶が飛ぶというのはよくある事なんだが、彼女はその()()()()()かもしれないんだ」

最悪の場合。

一通りの話を聞いて、頭を過ぎったのはその言葉だった。

まさか、()()()()なんて事ないよな。

この時は、ないと信じるしかなかった。

春はまだ目を覚ましていないらしい。

だから、目を覚ますまで声を掛けたり、傍にいてやるんだ。

そう、先生から言われ、春の病室へ向かった。

「入るぞ、春」

俺はそう言いながら、部屋に入ると、やはり寝ていた。

頭に包帯を巻いた春が寝ていた。

俺はすぐさま駆け寄り、声を掛けた。

「春!春!なぁ、春!目を開けてくれよ」

俺は目を覚まさない春を見て、その場で泣き崩れた。

絶望だった。

あの時、何も出来なかった自分が悔しかった。

その日は、その場で春に声を掛け続け、春の手を握りながら寝ていた。


次の日。

この日も春は目を覚まさない。

俺はずっと、春の手を握りながら、声を掛け続けた。

春の好きな歌も歌った。

でも、春が目覚めることはなかった。


流石に、学校もあるということで、家に戻ることにした。

家にいても、気は収まらなかった。

春の事が気になって寝れない夜が何度か続いた。

授業もまともに聞こえないくらい、春の事を考えていた。

放課後になったら必ず、見舞いに行った。

その度に声を掛けた。

だが、目覚めない。


それから一週間後、病院から連絡が入った。

どうやら、春が目覚めたらしい。

俺は、学校を早退し、大急ぎで病院へ向かった。

病院に入るや否や、俺は、受付をすぐに済ませ、病室へ駆け込んだ。

「春!」

部屋に入り、春の名を呼んだ。

静かに外を眺めていた春は、こちらへ振り向いた。

俺は、嬉しさのあまり、涙を流していた。

「......................」

春はこちらを見ながらキョトンという顔をしていた。

「春.....?」

俺はゆっくりと彼女の元へ歩み寄った。

「春、分かる?」

「.........」

何も喋ってくれない。

「俺だよ!元だ。分からないかい?ずっと心配していたんだよ」

「...........」

キョトンとしていた春はやっと口を開いて、

「.............................誰?」

そう言った。


俺はその言葉を聞いた時、言葉を失った。

先生の言っていた事が当たったのだ。

「は、春.......」

俺はショックで、彼女の肩に手を掛けた。

その時、「触らないでっ!!」

春は、俺の手を振り切り、自分の頭を抱え、怯えていた。

「怖い、怖い、怖い、怖い、知らない人ばっかり。

私は誰?ここはどこ?何も分からない。

貴方は何者なの.........?」

涙を浮かべて、怯えていた。

そんな春に、俺は何もしてやることが出来なかった。

これが先生の言っていた、『最悪の場合』で、俺が思っていた事だった。

記憶喪失。

俺は今の彼女に何をしてやればいいのか一瞬で分からなくなった。


あとがき

今回は告白シリーズ初の連載作品です。

そして、今回、この作品で『文フリ短編小説賞』に応募させて頂きました。

結果はどうなるか分かりませんが、頑張ります。

前編、中編、後編の3話構成の予定です。

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