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【#05】《石》から始める人類文明!【MAO実況】


 おれはカンナとロベリアを連れ、森の中を歩いていた。

 まともな刃物もないので、邪魔な枝や蔦は手でのけ、あるいは千切っていく。


「大丈夫か、ロベリア。きつかったら遠慮なく言え」


「はっ、はい……! 大丈夫です……!」


「親方ぁー。カンナは心配してくんないっすかー?」


「お前は黙ってついてこい」


「差別っすー!」


 5分ほども道なき道を進むと、岩肌が剥き出しになった断崖に突き当たった。

 切り立つ岩壁は高さにして10メートルというところか。

 その下は地面から岩場に変わっており、大きな岩がそこらにごろごろ転がっている。


「行き止まりっすよ?」


「ここが目的地だ。《デトックス・ポーション》を作るとき、おれが《アオダヌキダケ》を見つけた場所だよ」


 フォレスト・ウルフに腕を噛み千切られた場所でもあるが、あえて言うこともあるまい。

 おれは地面から岩場に踏み入り、その辺に転がっている《石》を二つ手に取った。

 サイズはどちらも野球のボール程度だ。


「カンナ。《木の作業台》」


「あいあいー」


 カンナがストレージから《木の作業台》を引っ張り出す。

 虚空から木組みの台が出現する光景を、ロベリアが物珍しそうにしげしげと見ていた。


「何度見ても、不思議な魔法をお使いになりますのね……」


「へっへー。そうでしょ~?」


「得意になるな、この程度で」


「あだっ!」


 ただのシステムだろうが。虎の威を借る狐にも程がある。

《木の作業台》を地面に置かせると、その上に拾った《石》の片方を置いた。

 おれは《木の作業台》の前に座る。


「なに作るんすかー?」


「《打製石器》だ」


「ダセイ……?」


 首を傾げるロベリアにうなずきかけて、おれはもう一方の《石》を右手に握り込んだ。


「普通に生産職を始めるときは、最初から道具があらかた揃ってるから、あまり世話になることはない。だが、ゼロから道具を調達する方法もちゃんと存在する」


《作業台》に置いた《石》を、もう一方の《石》でガンガン叩いていく。

 割って削って形を整えていくのだ。

 重点的に狙うのは石の端っこ。端だけ押し潰して平らにするようなイメージである。

 やがて、ふわりと光のエフェクトが出た。

 完成したのは、ギターのピックのような形をした石器である。


「できた。《石刃》だ」


「これは……まさか、ナイフでしょうか?」


「そうだ。原始的なナイフ。金属製のものに比べれば格段に切れ味は落ちるが、ないよりはずっといい」


 持ち手も何もない剥き出しの《石刃》を、ぽいっとカンナに投げ渡す。


「うわっと! あ、あっぶな~」


「カンナ、その辺の木から枝を何本か切ってこい。ロベリア、おれたちはもう少しデカい石を探そう」


「え~? カンナだけ仲間外れっすか~?」


「ぶつぶつ言うな。お前が欲しがってたものを作ってやろうとしてるんだ」


「ふぇ?」


 何が何だかわからないという顔で首を傾げるカンナに、おれは口の端を歪めながら言う。


「最初に言ってたろ。――《高炉》だよ。まずは《高炉》の完成を目指す」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 今のおれたちは石器時代に生きている。

 先の文明に進むためには、金属加工ができるようになることが必須だ。

 そのために必要なのが、金属を鋳溶かす《高炉》である。

 幸い《鍛治職人》であるカンナもいるし、とりあえず作っておいて損はない。


「ランド様。その《高炉》というのは、どうやって作るのでしょう……?」


 岩場を歩き回って手頃な石を探しながら、おれはロベリアに説明する。


「《煉瓦》で作るんだ」


「《煉瓦》……建物などに使われている、あの赤茶色の?」


「そうだ。それは《土》を《石窯》で焼いて作る。そして《石窯》を作るには《岩の作業台》を設置した《作業室》が必要だ」


「……なんだか気が遠くなってきます」


「そうでもない。効率よくやれば今日中に完成する」


 ふんふん、とロベリアは興味深そうにうなずいた。

 利発そうで好感が持てるな。アホ全開のカンナと違って。


「《高炉》があると、何ができるようになるのですか?」


「今はこうして落ちてる《石》を使ってるが、金属の《ピッケル》や《斧》が使えるようになれば《石材》や《鉱石》、《木材》を大量かつ迅速に採取できるようになる。すると――」


「すると?」


「家を作るのが楽になる」


 ロベリアは驚いたように口に手を当てた。


「ランド様は、薬ばかりではなく、お家までお作りになられるのですか?」


「というか、そっちが本職だな」


 何せクラスが《建築家》だ。


「まだ素材も設備も揃ってないから、捕らぬ狸の皮算用だがな」


「とらぬたぬきの……? ああ! ……ふふ。ランド様は面白い仰りようをなさいますね」


「……………………」


 ただのことわざを褒められてもな。

 考えた大昔の人を褒めてやってほしい。


 それにしても、知識欲旺盛な様子といい、『捕らぬ狸の皮算用』の意味を自分で察したことといい、ロベリアは地頭がかなりいいようだ。

 知識の絶対量が不足しているだけで、勉強さえすればおれよりずっと頭が回るようになるだろう。


「……よし。ロベリア。これからも何か気になったことがあったら何でも訊いてくれ」


「え? ……何でも、ですか?」


「ああ。遠慮はしなくていい」


 カンナがアレだから、頭脳的な労働力がもう一人は欲しいところだ。


「何でも……ですか……。そ、それでしたら……」


 ロベリアは表情を隠すように緩く握った拳を口元に当てると、ちらちらと上目遣いにおれの顔を見上げる。

 ……何をもじもじしてるんだ?

 怪訝に思っていると、ロベリアはか細い声で、遠慮がちにこう言った。


「か……カンナ様は、もしかして、ランド様の愛妾でいらっしゃるのでしょうか……?」


 …………………………………………。

 あいしょう。

 愛称。

 ……愛妾?


「…………一応訊くが、なんでそう思った?」


「あ、あれ……ち、違いましたか……? ランド様ほどの知識人が若い女性を連れておられるので、てっきりそうだと……」


 おれは眉間にしわを寄せてこめかみに手を当てる。

 どこから訂正すればいいのかわからん。

 ロベリアのいた場所では、まともな教育を受けられるような地位の人間が若い女を連れていたら、大体そうだということなのだろう。

 文化が丸ごと違う相手に、どう説明したらいいのか……。


 真剣に悩み込むおれを見て、ロベリアは顔を赤くしながらわたわたと両手を振った。


「ご、ご、ごめんなさいっ……! そうだったら気を遣わないといけないのかなと思って、わたくしっ、あのあのっ……!」


「……いや。おれも考えが足りなかった。そうだな……。時間はかかるだろうが、互いの常識のすり合わせも必要なのかもしれん」


 ひたすら恐縮するロベリアを宥めるように、おれはその白い髪の上に手を置いた。


「恥ずかしいことを質問させて悪いな。勇気を出してくれてありがとう」


「……あっ……」


 自分の頭に乗ったおれの手を、ロベリアは呆然としたように見上げる。

 っと、しまった。

 慌てて手を引く。


「悪い。カンナの奴がいつもせがむから、つい同じノリで――」


「いっ、いえ!」


 離した手を、ロベリアの手がひゅっと伸びて捕まえた。


「こういう風に、撫でられたことがなくて……ちょっと、驚いただけ……です」


 上目遣いの視線は、どこかねだるような色合いを帯びている。


「もういっかい……いい、でしょうか? おっきくて、気持ちよかったので……」


「…………。まあ、わかった」


 そんなに嬉しいもんでもあるまいと思いつつ、おれは今一度、ロベリアの小さな頭をゆっくりと撫でた。

 カンナより体格が小さいからか、あいつのときみたいに雑にはできねえな。


「ふふ♪ ふふふ……♪」


 だが、ロベリアの好みには合ったようだ。

 胸の前で緩く手を組んで、くすぐったそうに笑っていた。

 ……まずいな。放っておくといつまでもやっていそうだ。

 区切りを付けるように、少し乱れた白い髪を指で梳いて、おれは手を離した。


「あっ……」


「おしまいだ」


 ロベリアの名残惜しそうな視線から逃れるように顔を逸らす。


「……また何か、褒められるようなことをしたらな」


「はいっ……♪」


 嬉しそうな声を出して、ロベリアは小走りにおれの隣に並んだ。

 ……どうにも、この子には調子を狂わされるな。


 そんな一幕がありつつも、手のひらより少し大きい程度の《石》を見つけると、おれたちは《木の枝》の採集を終えたカンナと合流した。


「親方だけズルいっすー。カンナもロベリアちゃんとイチャイチャしたいっすー」


「だってよ、ロベリア。正直に言っていいぞ」


「……え、ええっと……正直、カンナ様の目には、ちょっと身の危険を感じると言いますか……」


「ええー!? 親方もこう見えて結構スケベっすよ!?」


「デマの拡散には厳正に対処する」


「あだー!」


 カンナにデコピンをかましつつ、《木の作業台》を使って《石》と《木の枝》を合成(クラフト)した。

 そうしてできたのは、持ち手に石の塊がくっついた《石槌》――いわゆるハンマーである。

 漫画に出てくる原始人がよく持ってるアレだ。


「これで《岩》が加工できるようになる」


「《岩》って……もしかして、アレっすか?」


「アレだ」


 森と岩場の境目辺りに、おれの胸ほどまで高さのある大きな岩が鎮座している。

 おれは《石槌》を持ってそれに近付くと、カンナに言った。


「カンナ。5分交代な」


「え~!」


 不満の声を無視して、おれは《岩》に《石槌》を叩きつけた。


 そして、約30分後。


 合計3つの《石槌》を犠牲にしながら、《岩》を叩いて叩いて叩きまくり、平らに均した。

《岩の作業台》の完成である。


「これを使って、さっきの《石刃》を研磨する――」


 ざらついた《岩の作業台》の表面に《石刃》を当て、刃物を研ぐようにゴリゴリとこすった。

 何度も繰り返していると、例によって光のエフェクトが現れ――


「わっ……!」


「おおーっ! ピカピカっす!」


《石刃》はつるりとした光沢を帯びるようになった。

 おれは黒光りするそれを二人に見せる。


「《磨製石器》――《石剣》の完成だ。《石刃》よりも切断力が高い」


《石剣》を受け取ったカンナが、早速《木の枝》で試し切りを始めて、「おーっ!」と完成をあげた。


「親方ぁー! これなら《斧》も作れるんじゃないっすかぁー?」


「まさにそれが目的だ」


「《斧》……《木材》を手に入れるのですね!」


 ぱあっと顔を明るくするロベリアに、おれはうなずいた。


「ああ。《斧》があれば《木材》が大量に手に入る。それを《石鋸》――石で作ったノコギリで加工すれば《木の建材》の完成だ」


 おれはロベリアを見下ろす。

 彼女は未だ、ボロボロのワンピース1枚の危うい格好だ。

 褐色の胸元や太股が大胆に露わになっていて恥ずかしかろうし、それ以前に寒くて敵わないに違いない。

 新しい服を用意してやることはまだできないが、別のものを用意してやることならできる。

 すなわち――隙間風の入らない寝床を。


「次に必要なのは、《石窯》を作るための《作業室》だ。――ついでに一棟、家を建てちまおう」


【パッチノート】

指摘があったので、

「Entry into an Island:《建築家》と《鍛冶職人》」内で

『辞表』と記述されていた部分を『退職届』に修正しました。

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