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Execute.96:STAND ALONE COMPLEX./粉雪、近くて遠い

 シェパード01、双方の発信器の反応が集結する部屋のフロアに到着。

 その一報を無線通信の内容から聞きつけた戒斗は、少しばかり身体を強張らせ。そして頭の中に叩き込んだサナトリウムの構造図を思い出せば、無線で聞いた情報を元に大まかな位置を予測。その部屋がこの狙撃ポイントから望める窓のある部屋であることを理解すれば、身体は自ずとそちらの方向に意識を向ける。

 日々谷の制服には、こういった事態に備え二箇所ほど発信器が内密に埋め込まれている。入社して少ししてからそれを悟った戒斗に関してはすぐに発信器を取り潰して無効化し、今では制服すらロクに着なくなってしまっているが、荒城の場合はその発信器が役に立ったというワケだ。これで囚われの荒城も、そして彼によく似た少年も、その双方を追い詰めたことになる。

 とはいえ、全ての部屋を虱潰しに一つずつ潰していく兎塚の方針は変わらず、敢えて発信源のある部屋へ一直線に突撃はせず、突入部隊・シェパード01は順々に部屋を一つ一つクリアリングしていくことになったようだ。

 良い判断だ、と戒斗はナイトフォース製のスコープ越しに戦地たるサナトリウムを睥睨しながら、独り内心で兎塚の判断を褒めていた。流石に元米軍SOF(特殊部隊)と噂されるだけのことはあるらしい。どうせ敵は逃げられないのだから、背中を撃たれる可能性は少しでも減らしておくに越したことはない。

 兎塚たちが最初の部屋へと突入する。その部屋も戒斗の位置から望める位置に窓がある大きな一室だったが、その一室だけカーテンが閉め切られていて、中の様子をこちらから窺い知ることは出来ない。全てがアドリブで進行する現状、狙撃による支援を出来ないのは痛すぎる。だが射界が確保出来ていない以上、後は突入した連中を信じるしか出来ないのだ。

 監視と狙撃、こういった任務での辛いところだ。前にも何度だって戒斗にはこういった経験はある。自分たちは戦場を高い位置から見渡し、時に情報を、時に直接的な暴力の行使で味方を守ることが出来るのが監視オーヴァーウォッチ任務に就いた狙撃兵というものだが、しかしそれと同時に、射界が確保されていない室内なんかに入られてしまえば、後はただ祈ってやることしか出来ない。一歩引いた場所に居るからこその辛さ、というものだろうか。

「畜生、結局眺めてるしか出来ねえのかよ……!」

 隣で伏せる吹雪に関して言えば、初めて味わうそのどうしようもない歯痒さに存分に苛まれているようだった。上空のRQ-11無人偵察機をタブレットで操る吹雪の横顔は苛立ちを隠そうともしていなくて、無意識にぼやく語気もまた、やり場のない感情を吐露しているかのようだ。

「そういうもんだ」

 束の間の小休止に息をつきながら、戒斗が苛立つ吹雪の方へと視線を流さないままで言う。

「辛いモンなんだよ、本来。戦いってのは大なり小なり辛いモンだ」

「ンだよ、その言い方……。まるでアンタ、知ったような口効きやがって」

「知ってるのさ」

 相変わらずといった調子で突っかかってくる吹雪の棘のある言葉を、やはり戒斗は視線一つ流さないままで静かに肯定した。

「知りすぎて、正直もう嫌になっちまってるぐらいにはな」

 迂闊な発言かもしれない、と言ってしまってから戒斗は思う。今の自分の、黒沢鉄男の経歴を鑑みれば、この発言はあまりにも妙だ。これが切っ掛けで、何かしらの綻びが生じるかも知れない。

 そう感じていても、戒斗は言ったことを後悔はしなかった。この言葉に嘘はなく、逃げ出したいほど嫌になっている。酷い言い方をしてしまえば、こんなものは単なるお遊びですらないのだ。自分と一切関わりのない、戒斗からしてみれば道端の石ころほどにどうでも良いこと。そんなことの為にこうして自らもまた、命のやり取りに加わってしまっていることが、実のところ戒斗としてはどうしても嫌だった。

 嫌だが、しかし心の何処かでは「仕方ない」と割り切っている自分も居る。自分の戦いを終わらせる為に、これは必要な儀式なのだと。心の何処かでそう割り切れているからこそ、戒斗は今も逃げ出さないままに此処に居て、そしてSR-25の銃把を握り締めている。

「やっぱり、イケ好かねえよ、アンタは」

 そんな戒斗の内心を知らぬままで、吹雪はチッと激しく舌打ちをし、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

「……本当に、イケ好かねえ野郎だよ」

 そしてまた、戒斗でさえもそんな吹雪の言葉の真意を知らない。知りたくもない。知ろうとも思わない。必要ならば躊躇無く殺す。戒斗にとって吹雪の価値は、とどのつまりその程度でしかないのだから。だから戒斗は必要以上に、黒沢鉄男の仮面を被る以上で必要な範囲より奥の領域に、吹雪の領域には決して踏み込まない。イザとなれば簡単に見捨てるレベルの相手のことなど、踏み込んでも無駄で。踏み込んだところで、無用に傷付くだけだと知っているから。

 故に、戒斗と吹雪。この二人は何処まで行っても、永遠に平行線のままなのだ。決してその道が交わることはなく、半インチとて道と道が触れ合うことすらない。そんな平行線を辿ったまま、戒斗は永遠に知ることなんて無いのだ。隣で苛立つ彼の、吹雪の抱く真の思いを。彼の抱く、本当の思いを。

「さてと、無駄話はこの辺でお仕事だ。どうやら状況が変わってきた」

「うるせえな、分かってるよンなこと」

 吹けばすぐ消えてしまう、粉雪のような視線を意に返さぬまま、舞い散る雪の色に目もくれないまま。戒斗の瞳が見据える先に、永遠に彼の姿が映ることはない。戒斗の視る視線の先に、歩む道の先には。何処まで行っても、隣り合う彼の姿なんて在りはしないのだ。

 それを分からぬまま、吹雪はまた手元のタブレットの画面へと視線を落とす。隣り合う彼との、こんなにも近い距離に居るはずの彼との、しかしどうしようもないほどに開いた距離の遠さを感じながら。


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