Execute.94:STAND ALONE COMPLEX./猟犬の矜持
サナトリウムの裏扉が、禅の放つ12ゲージ口径のダブルオー・バックショット散弾で撃ち砕かれ。そして兎塚の脚から繰り出される蹴りで無残に吹き飛ばされる。
「フラッシュ・アウト!!」
そんな宣言と共に兎塚の手で閃光音響手榴弾が放り込まれれば、響くのは爆音、瞬くのは目潰しの閃光。吹き飛ばした扉の奥から呻き声が聞こえれば、踏み込んだ禅の構えるサイガ12K自動ショットガンが火を噴いた。
ダンダン、ダンダンと小気味の良いリズムで撃ち放たれるのは、広範囲に拡散する死の洗礼。プラスチックの緑色をしたショットシェルの空薬莢がカランコロンとリノリウムの床を転がる度に、死体が幾つも増えていく。
「禅ちゃん!」
とすれば、禅の後ろを数発の9mmパラベラム弾が過ぎ去った。貴士のPP-19-01"ヴィチャース"サブ・マシーンガンから撃ち放たれた高速拳銃弾は、禅の散弾で致命傷を喰らいつつも、一矢報いようと横たわったまま禅の背中に兼銃を向けていた奴に今度こそ三途の川を渡らせる。
「油断大敵、ってね」
「……礼は言いませんよ」
「構わねえさ、それぐらい」
背中合わせになりながら、貴士のフォローを受けつつ禅は使い切った三十連発のドラム・マガジンを足元に投げ捨て、プレートキャリアの弾倉ポーチから掴み取った十連発の通常弾倉をサイガに差し込んだ。ガシャン、とボルトキャリアが引かれる派手な音が響く。
「……っと」
そうした時だった。今までサナトリウムの内部を煌々と照らしていた天井の蛍光灯を初めとした照明が、一斉に光を失ったのは。
兎塚は一瞬だけ戸惑いながらも、しかし冷静に眼を凝らす。生憎と夜目は利く方だ。フラッシュライトもあるし、それに夜明け間近で外は薄明るい。これぐらいの光源があれば、兎塚にとっては十分だった。
「行くぞ、俺が前に立つ」
そう言うと、兎塚は禅と貴士の前に立ち、薄暗いサナトリウムの中を歩き始めた。AR-15の銃把からは手を離さず、そのセレクタはセミオートのままで。
歩きながら眼に付いた部屋を一つずつ丁寧に、しかし素早く検索していく。人並み以上に夜目が利くということもあって、全て兎塚が率先して真っ先に突入していた。
一つ部屋へ踏み込む度に、響くのは一瞬の罵声と、そしてサイレンサーで抑えつけられた5.56mm弾のくぐもった銃声。兎塚のAR-15に差さる三十連発のP-MAG樹脂弾倉の残弾は着実に減っていくが、しかし必要最小限の減り具合だった。
「…………」
そして兎塚は次なる部屋へ踏み込もうとドアノブに手を掛けたが、しかし鍵が掛かっていて開かない。ドアは観音開きで、明らかに大広間っぽい感じの趣だった。
「禅、頼む」
兎塚は今の内にとプレートキャリアの弾倉ポーチにある新しいフルロードの弾倉と、今差さっている中途半端な弾倉とを入れ替えつつ、禅にそう命じた。禅は「分かりました」と言って扉の前に立つと、またサイガの散弾でドアの施錠を吹き飛ばす。
「貴士さん!」
「あいよ!」
禅が観音開きの戸を蹴り開けるなり、貴士が閃光音響手榴弾を投げ込んだ。それが部屋の中で派手に炸裂した後、貴士が先頭に立って踏み込んでいく。
兎塚が構えたAR-15のフラッシュライトがパッと部屋の一部分を照らせば、その中に何人かの敵構成員の姿が見えた。一部は咄嗟に閃光音響手榴弾から身を守ったのか、多少フラつきながらもAKM自動ライフルを現れた貴士へと向けている。
しかし、貴士がヴィチャースを発砲する方が速かった。フルオートでバラ撒かれる9mmパラベラム弾は、次々と標的を屠っていく。
「貴士!」
「ッ!!」
そんな折だった。飛んで来た兎塚の警告に反応した貴士が振り向けば、鉈を振り上げた構成員が貴士のすぐ傍まで迫っていて。その鉈を、貴士の首元目掛けて振り下ろしている所だった。
「ああ、くそ!」
貴士はそれを、咄嗟に顔の前に横倒しにしたヴィチャースで受け止めた。ガキィンと甲高い音がして、鉈の刃がヴィチャースの機関部に食い込む。
鉈が食らい付いたヴィチャースを握り締めたまま、背中から床に倒された貴士は目の前の男の腹に蹴りを食らわせた。同時にヴィチャースからも手を離せば、男は後ろにたたらを踏む。
「くたばれ!!」
咄嗟にプレートキャリアの胸のホルスターからマカロフ拳銃を抜き、そのまま貴士は蹴った男の胸に三発を撃ち込んだ。ついでに頭にも二発をお見舞いしてやれば、絶命した男はヴィチャースの食い込んだ鉈を取り落としながらバタリと倒れる。
「禅、俺がカヴァーに入る!!」
「分かりました!」
仰向けに横たわる貴士の前に滑り込む兎塚と、その上を飛び越えるようにして残りの敵へと肉薄する禅。兎塚は貴士の前に膝を突いてAR-15を構えフラッシュライトで辺りを照らし、禅はサイガの弾を全て撃ち尽くさん勢いで連射した。
そして禅が着地した瞬間、サイガの弾が切れる。禅は「チッ」と軽く舌を打つとサイガを床に落とし、両手で腰のホルスターから自動拳銃を抜き放った。
パラ・オードナンスP14。ダブルカーラム弾倉のM1911クローンの先駆けとも言える高精度の拳銃で二挺拳銃の格好になった禅は、身を低く地を蹴って飛び出し、そして暴れ始める。
タンタンタン、と断続的な銃声が大部屋の中へ響き、瞬くマズルフラッシュが薄暗い室内を照らす。禅は両手でそれぞれ別の標的を次々と、そして確実に処理し続け、弾切れを起こしたP14のスライドが両手ともに下がりきってホールド・オープンする頃には、禅の立つ部屋の中には兎塚と貴士以外、生きている者はすべからくその存在を否定されていた。
「無事ですか、貴士さん」
P14の弾倉を手早く交換しながらの禅の言葉に、「オーライだ」と貴士は兎塚の手で引き起こされながら答える。
「迂闊すぎます、油断大敵ですよ」
「……禅ちゃんに言われちゃあ形無しだ、精進するよ」
「全くです」
ふん、と鼻を鳴らす禅が床のサイガ12K自動ショットガンを拾い弾倉交換をする傍ら、兎塚に引き起こされた貴士もマカロフの弾倉を新しい物と交換。プレートキャリアのホルスターに仕舞い直せば、床に落ちていた自分のヴィチャース・サブ・マシーンガンを拾い上げるが、
「あっちゃー……こりゃあ使いものにならねえか」
トップレールに乗せたオープン式のMRSドットサイトから、ダスト・カヴァーの奥まで深々と鉈の食い込んだヴィチャースの様子を見るなり、すぐに使いものにならなさそうだと貴士は判断した。見た感じの判断だが、撃発機構までがお釈迦になっている。
「随分と怪力だったみたいだな、レシーバーの奥まで食い込まれるなんて」
「全くだぜ、コイツが身体に降ってくるのは想像したくない」
兎塚の言葉に軽口っぽく答えながら、貴士は鉄屑に変わり果てたヴィチャースを投げ捨てて。そうすると立ち上がりながら、右腰のモデル586リヴォルヴァー拳銃を抜いた。左手でポケットから取り出したのは、シュアファイア製のフラッシュライトだ。先端部に刺々しいストライカーが取り付けられた、格闘戦にも使える品だった。
「急ぐぞ、先頭には俺が立つ」
そんな兎塚に引き連れられ、シェパード01の面々は早々にその大部屋を急ぎ足で後にしていく。まだ、肝心の救出対象を見つけてもいないのだから。




