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Execute.92:STAND ALONE COMPLEX./マキシマム・ソルジャー

 シェパード両隊の侵入開始からおよそ十分後、午前五時四五分。兎塚たちシェパード01、及び英治と古郡の二人で構成されるシェパード02の両隊は無事にサナトリウムの裏側へと到達し、その高い外壁に沿ったそれぞれ二箇所で待機していた。

「設置開始するぞ」

 兎塚が小声で言うと、貴士や禅も含めそれぞれが背負っていた小振りなバックパックを下ろし、その中に入っていた外壁突破用の爆薬を手早く壁に貼り付けていく。内容物はポピュラーなコンポジション-4(C-4)プラスチック爆薬だ。内部には鉄筋が入っていないことも確認されているから、テルミット反応を使う溶断装置は持ち込んでいない。

 細長いロープ上に繋いだそれを、兎塚が慣れた手つきで壁に貼り付けていく。爆破方向に指向性を持たせたそれは、丁度人間が立って潜り抜けられる程度の大きさをブチ抜けるようにセットした。

 最後に信管をブスリと刺し、発火装置に繋がったコードリールを引っ張って三人は外壁から離れていく。遠く離れたシェパード02の二人も、全く同じ作業を行っているはずだ。

「で、一番槍は誰から?」

 壁から離れながら貴士が訊くと、兎塚は一瞬だけ唸った後で「禅、お前が行けるか」と傍らの禅に問うた。

「無論です、最初からそのつもりの装備ですから」

 禅は二つ返事で頷く。確かにサイガ12Kの自動ショットガンに大容量ドラム・マガジンなんて組み合わせ、斬り込み隊長にはうってつけだ。こんなナリをしていて、禅は意外と派手な暴れ方をすることを貴士も兎塚も知っていた。

「なら、その後に俺が続く。貴士、お前は背中のカヴァーを」

「あいあい、任されて」

 右手一本でヴィチャース・サブ・マシーンガンを掲げながら、貴士は悪戯っぽい表情で頷いた。

 兎塚もそれに頷き返すと、チャージング・ハンドルを少し引いて薬室の装填状況を確認。ちゃんと金色の薬莢がチラリと見えたことを確認するとダスト・カヴァーを閉じ、それから胸のプレートキャリアに括り付けたPTTスウィッチを押し込んだ。

「シェパード01、爆薬設置完了」

『……シェパード02、こっちも付け終わったよん』

 すぐさま聞こえてくるのは、英治の報告だ。どうやらシェパード02の方も突入準備が完了したらしいことを悟ると、兎塚は「了解だ」と短く返す。

「HQ、陽動班の方はどうなってる?」

 その後で陽動班――千鶴と大滝、厄介者のパワータイプ二人の状況を問えば、みどりは『んー』と反応をし、

『今から仕掛けるみたいぜよ。表で派手な花火が上がったら、わんわん二匹も任意のタイミングで突入しちゃって』





 ――――ほぼ同時刻、ウェイポイント・アルファでは。

「ヘッヘッヘッ……」

 ニヤニヤと不気味な笑みを湛えた千鶴は腕時計が刻む時刻が定刻を示したことを見ると、すぐさま巨体を翻しトヨタ・ハイラックスの荷台へと飛び乗った。

 何かの上に被せてあるブルーシートを固定する縄を半ば引き千切るような勢いで解き、被せられていたブルーシートをバサッと片手で剥ぎ取る。荷台の上で仁王立ちする千鶴の前で派手に姿を現したのは、あまりに仰々しく重々しい鋼鉄の塊だった。

 ブローニング・M2HB重機関銃。登場から一世紀を控えた現在でも尚、現役の優れたアメリカ製の重機関銃だ。信頼性なら世界最高峰、カートリッジもドデカい.50口径の物で、威力の程も申し分ない。人間に命中すれば比喩抜きに血の煙になって粉々になってしまうほどの威力を撒き散らすコイツは、正に猛獣といっても過言でなかった。何せ、先の大戦では戦闘機に載せられドッグ・ファイトすら経験した傑作機関銃なのだから。

 しかもご機嫌なことに、このブローニング重機関銃には、前面に鋼鉄の盾まで備え付けられているのだ。厚みも十分にあり、7.62mm×51NATOの通常弾までならば耐えられそうな具合だ。流石に鉄製弾芯の徹甲弾ともなれば難しいだろうが、そんなものをあのヤクザ風情が持ち合わせているとは思えない。

「全く、散らかさないでくれよ」

 千鶴が投げ捨てたブルーシートと固定用の縄を拾い集めて畳みつつ、大滝は荷台に上る千鶴の方を見上げて「どうだ?」と問いかける。

「へへへ……全くご機嫌だぜ、スプラッタ映画も真っ青なショーが楽しめそうだ」

 常人が見れば泣き出して失禁してしまうかというほどの凶悪な笑みを浮かべつつ、しかし千鶴の手つきは淀みが無かった。

 上部のフィード・カヴァーを開き、内部の様子を(あらた)める。ハイラックスの荷台に溶接された、機関銃とを繋ぐ可動式の一脚にはご丁寧にチェッカーがぶら下げられていたから、それを使い薬室ヘッドスペースの開き具合も確認しておいた。大丈夫だ、正常に撃てる。

 後は荷台の上に置かれていた幾つもの軍用弾薬箱を持ち上げ、それを機関銃の左側にあるラックへとセット。蓋を開けた弾薬箱の中からベルトリンクで繋がれた12.7mm×99NATOの巨大な弾薬の帯を引っ張り出し、それをカヴァーを開けた機関銃にセットした。

 殴り付けるようにカヴァーを締め、ロックを掛けてからコッキング・レヴァーを二回連続で引く。中々に重いはずのレヴァーを、しかし千鶴はその怪力で以て簡単に引いてみせた。ガシャンと派手な音がして、端のベルトリンクが一つだけ吐き出される。装填完了だ。

「千鶴よ、そろそろ時間だ」

 とすれば、ブルーシートを助手席に放り込んだ大滝がハイラックスの運転席に乗り込むと、開いた窓から身を乗り出し荷台の千鶴に呼びかける。すると千鶴は「あァ」と頷き、またも歓喜に満ちた凶暴な笑みを浮かべてみせた。

「ご機嫌だぜ、久々に殺し放題だ……」

「間違っても、貴士たちに向けてくれるなよ」

 肩を竦めながら大滝は言って、ハイラックスのエンジンを掛けた。ヘッドライトがハイビームの位置で灯り、夜明けを間近に控えた薄闇を照らし出す。

「さてと、後は上手く呼吸を合わせてくれることを祈ろう」

 最後にひとりごちれば、大滝はサイドブレーキを解除しつつギアをドライヴへと入れ、アクセル・ペダルを踏み込むとハイラックスを発進させた。荷台に凶悪なブローニング・M2HB重機関銃と、それ以上に凶暴な人間核爆弾めいた男を抱えて。


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