Execute.90:STAND ALONE COMPLEX./ウェイポイント・アルファ
夜明け前の、左右に田畑を望むまるで人気の無い農道。サナトリウムから約一・五キロほどの路肩に、明け方の薄闇をヘッド・ライトで切り裂いて二台の車両がやって来た。
停まった車両は黒いシボレー・エクスプレスと、白いトヨタ・ハイラックスだ。ハイラックスの方の荷台には何故か縄で固定されたブルーシートが被せられていて、背の高い何かが覆い隠されているのは一目で分かる。
ハイラックスの両座席と、そしてシボレーの後部ドアから何人もの人間が明け方の空の下に降り立つ。その両足で大地を踏み締める彼らの出で立ちはいずれも物々しく、この場に警察車両が通りかかれば一瞬で銃撃戦に発展しかねないほどの完全武装だった。手に持つのはサブ・マシーンガン、自動ライフル、軽機関銃と多彩だが、いずれも数十人の人間を屠るには十分すぎるほどの弾薬を携えている。
日々谷警備保障の社員一同だ。ハイラックスから降りたのは千鶴と大滝の陽動班二人、そしてシボレーの連中は残りの突入チーム"シェパード"の面々だった。此処こそが一時集結ポイントにして待機ポイントに指定された地点、ウェイポイント・アルファである。
「シェパード01・寒田よりHQ。陽動班、及びシェパードはウェイポイント・アルファへ現着。これよりRQ-11を飛ばします」
胸に吊すプレートキャリアに括り付けたPTTスウィッチを押し込みながら、禅が首に巻き付けたスロートマイクに向けて呼びかける。彼を含め、シェパード隊の面々は全員がダイヤモンドバック・タクティカル社製のFAPCプレートキャリアを胸に羽織っていた。いずれもコヨーテブラウンの色だ。
『HQ、感度良好よ禅ちゃーん。……了解、さっさと飛ばしちゃいな』
「シェパード01、了解です。
――――貴士さん、奥の箱を」
「もう出してるよ」
禅が言う前に貴士はシボレーの荷台からドデカいミリタリー・ユースの箱を引っ張り出すと、禅と協力してその中身を手早く組み立てていく。すると完成したのは大型ラジコン程度の大きさな、しかし飛行機としてはあまりに小さい代物だった。これがRQ-11"レイヴン"小型無人偵察機だ。
「システムの準備は?」
「滞りなく」
シボレーの開け放たれたバックドア、そこで荷台を椅子にするように座りながら付属のタフブックを叩く貴士を一瞥しつつ、禅は少し離れると。誰も居ない見晴らしの良い田畑の方向へ向け、まるで紙飛行機を飛ばす前のようにRQ-11を片腕で構えた。
「回してください」
「りょーかーい」
パンッと貴士がキーボードを叩く。するとRQ-11の胴体中央上部ぐらいにあるプロペラが回転を始め、次第にブゥーンと高い風切り音を奏で始める。
「いきます――――!」
そして、禅は軽い助走を付けると、満を持して右腕を振るいRQ-11を放り投げた。
一度失速したように大きく沈みながら、しかし勢いを取り戻したRQ-11は緩やかに上昇しながら禅たちの周りを大きく旋回。円を描くように何度か回った後、急速に高度を上げていった。夜明け前の薄暗い空の中に、RQ-11の小さな機影が消えていく。
「シェパード01よりHQ、UAVの打ち上げは成功したぜ。後はみどりさんにお任せだ」
『ほいほい、こっちでも確認したよ。以降の操作はこっちで引き継ぐから、わんわんの皆々様は移動準備を開始してちょーだい』
「シェパード01、了解よ」
そう返答を返すと、貴士は閉じたタフブックを放りながら荷台から立ち上がり。傍らに置いていたサブ・マシーンガンを手に取った。
ガシャリ、とボルトハンドルを引き初弾を装填する。貴士が手にしたのはロシア製のPP-19-01"ヴィチャース"だ。AKライフルの構造をベースに円形弾倉を採用したPP-19"ビゾン"を一般的な箱型弾倉に改めた物で、用いるカートリッジは西側でも一般的な9mmパラベラム弾だ。貴士の物にはトップ・カヴァーのレールにワルサー社のオープン式ドットサイト・MRSを搭載し、ハンドガードには小振りなフォアグリップとシュアファイア社製のフラッシュライトが取り付けられている。
加えて、腰にはいつものモデル586のリヴォルヴァー拳銃と刀を吊していて、更に胸のプレートキャリアには予備としてマカロフPM自動拳銃を携行していた。接近戦ということを考慮した結果だ。
「貴士さん、油断は禁物です」
「分かってるって」
「本当に分かっていらっしゃるのですか?」
相も変わらず貴士に厳しい視線を向ける禅の装備はといえば、三十連発ドラム・マガジンを搭載したロシア製のサイガ12K自動ショットガンを携えていた。予備の十連箱型弾倉もたっぷりとプレートキャリアの弾倉ポーチに差し込んでいて、それに加えて両腰に携えているのはM1911クローンのパラ・オードナンスP14自動拳銃だ。強力な.45口径のカートリッジをダブルカーラム弾倉で十四発も携行しているから、火力のほどは申し分ない。禅は明らかに二挺拳銃で臨む構えだった。
「禅、貴士。無駄話はそこら辺にしておこう」
ヘラヘラと笑う貴士と、それに眼を釣り上げる禅の間に入って制したのは、やはりというべきか兎塚だ。昼間までの憔悴した様子は横顔から消えていて、今の目付きは正にプロフェッショナルといった感じだ。
そんな兎塚の装備は、一〇・五インチの短い銃身を持つAR-15自動ライフルだ。米軍CQB-R、或いは海軍Mk.18に近い仕様で、短い銃身にダニエル・ディフェンス社のRIS2レイルド・ハンドガードを組み合わせている。伸縮銃床はクレーンストック、搭載する光学照準器はEOTechの553ホロサイトだ。加えてBCMガンファイター製の短いフォアグリップとシュアファイアのフラッシュライトをハンドガードに、そして銃口にはナイツ・アーマメント社製のQDSS-NT4サイレンサーが嵌め込まれている。
加えて右腰のホルスターには愛用のカスタム品なスプリングフィールド・M1911自動拳銃が差さっていて、手にはメカニクス・グローブ。ヘッドホンのような大型ヘッドセットは野球帽の上から被る感じだ。格好がジーンズを主体としたラフな私服ということもあって、今の兎塚はまるでNSAか何処かの非正規作戦オペレーターという風貌だった。
「時間もあまりない、移動を開始しよう」
同じシェパード01の貴士と禅に向かいそう言いながら、兎塚はAR-15のチャージング・ハンドルをガシャリと引く。初弾が装填されたのを確認するとダスト・カヴァーを閉じ、グローブに包まれた親指でセレクタを弾くとセイフティを掛けた。
「シェパード01、これより移動を開始する」
そして、兎塚以下二名の突入チーム・"シェパード01"は薄闇の中を動き始めた。夜明け前のまどろむ空を仰ぎながら、音もなく侵攻を開始する。目的地はただひとつ、あのドデカいサナトリウムだ。
(……伯、もう少しの辛抱だ)
兎塚は知らず知らずの内に、銃把を強く握り締めていた。




