Execute.08:All Alone With You/茨の道、二人の背負う罪と罰
カーテンの隙間から微かに差し込む朝の陽光に刺激され、彼が眼を覚ますと。するとそこは見慣れた家の見慣れた部屋、そして寝慣れたベッドの上だった。
「……あ、起きた?」
とすると、ベッドの上で彼を抱きかかえるような格好で寝ていた彼女――エマ・アジャーニは彼が目覚めたことに気付くと、そんな風に囁きかけてくる。彼女の優しげな手つきに頭を撫でられながら、彼は小さく「……俺は」とひとりごち。そして何故此処に戻ってきてしまっているのか、思い出せないままに思案を巡らせていた。
「もしかして、覚えてない?」
エマに訊かれ「……全く記憶にない」と彼は抱きかかえられたままで頷く。すると彼女は「まあ、無理もないよね……」と納得し、
「昨日、帰って来るなりそのままバタッと寝ちゃったからね」
「そうなのか?」
「うん」頷くエマ。「帰って来たと思ったら、電池が切れたみたいにベッドに倒れ込んじゃって。一応寝にくくなりそうな物は僕が取っちゃってるけど、そのまま今までって感じだね」
言われて初めて気付いたが、確かに今の彼の格好は着慣れたオーダーメイドのスーツそのままの格好だった。着ていたはずのファーが付いたグレーのフード付きジャケットこそ脱がされていて、そしてホルスターや拳銃類は外されているものの、しかし確かに彼女の言う通り帰ってそのまま、といった出で立ちだ。
「……悪い、要らん世話を掛けた」
「いいよ、別に」彼の髪をまたそっと撫でて、エマは小さく眼を伏せた。「それより、昨日は大変だったみたいだね」
「……また、殺したよ」
「昨日は、何人だった?」
「覚えてない。……けど、二桁は越えてる」
「そっか……」
懺悔するような口振りの彼を、エマは細い両腕でぎゅっと抱き締めて。そして胸の内に抱き抱えるみたいに強く、強く胸に抱く。
「君の罪は、僕の罪でもあるから。……だから、大丈夫。君は独りぼっちなんかじゃない」
「……赦されるとは、思ってない」
「君が終わらせたいのなら、もうやめにしたいのなら。僕はそれで構わない。君さえ居てくれれば、僕はそれでいい……」
「でも、やらなきゃならない。俺の手で、俺たちの手で」
「そっか、そうだよね」
小さく眼を伏せる彼を、また力強くぎゅっと抱き締めて。そして彼女は、彼の耳元に囁きかける。
「なら、行こう。僕たちで終わらせるんだ」
「…………」
「僕は、いつだって君と同じ道を歩いて行く。君の犯したどんな罪も、僕が一緒に背負ってあげる。
……だから、行こう。君が君の手で終わらせるのなら、僕は最後まで君に付き合うから」
――――俺たちの罪。
それはきっと、生きていることそのものなのかもしれない。やるべきことを為さないまま、今もこうしてのうのうと生き続けていることが、罪なのかも知れない。
だからこそ、男は往くのだ。彼女と共に、先の見えない茨の道を。黒沢鉄男の仮面を被っても尚、揺らぎない二人の目的が為に、男は茨の道を歩んでいくのだ。
「とりあえず、お風呂入ろっか。昨日の話は、さっぱりしてからゆっくり聞かせてくれればいいから」
そして、男は再び起き上がる。隣に抱き寄せた彼女の唇に、小さなキスを交わして。