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Execute.78:Telescope Lovers./揺れる蜃気楼《ミラージュ》①

 そういうワケで戒斗がエマを伴いマスタング・シェルビーGT350を走らせた先は、とある一件のホームセンターだった。近場といえば近場、とはいえ家から歩いて行くのには少しばかり面倒な至極微妙な位置にある店舗で、戒斗も私用と仕事用の両方でときたま使っている店だ。

 ホームセンターの敷地は広く、幾らかの店舗が少しの間を開けて並び立っている。DIY用の木材やら工具やらが大量に置いてあったり、花壇や肥料なんかの園芸用具もあり。定番のキャンプ用具の他、自転車まで売っている。中でもカー用品に至っては多種多様なヒューズやスパーク・プラグなど多くを取りそろえていて、そこいらのカーショップより品揃えが豊富なぐらいだ。

 そんなホームセンターに戒斗たちが訪れた理由(わけ)は、ひとえにこの間の鍋パーティにあった。

「この間のおうどんは、ちょっと失敗しちゃったからね」

「全くだよ。俺としたことが、詰めが甘いにも程があった」

 広い駐車場に停めたシェルビーから手を取りつつエマを降ろしてやりながら、戒斗は苦笑いをする彼女の言葉に、同じく苦笑いを向け返して頷いた。

 ――――この間の鍋で、残っただし汁の中に白玉うどんを放り込んでやった。そこまでは良く、味も中々に良かったのだが、問題は戒斗もエマも再加熱のことをすっかり失念していたことだった。うどんを放り込むなら卓上コンロがあれば捗るのに、それをすっかり忘れていたのだ。

 お陰で、鍋を一旦キッチンに持ち帰って火に掛け直す羽目になってしまった。そんなこともあり、次は気を付けようということで、今日は二人揃って卓上コンロを買い求めに来たというわけだ。この寒い時期だから、まだまだ鍋と洒落込む機会も多い。

 とはいえ、普段から使うわけでもないので、そんなに大した物は必要ない。今日のお目当てはカセット式のちょっとした奴だ。本当ならIHの電熱式が安全で嵩張らずにベストなのだが、肝心の土鍋の方がIH非対応だった。土鍋も一緒に買い直すことも一瞬だけ検討したが、折角リサの代からナラして使い込んだ土鍋だ。また色々と仕込んでいくのは面倒なので、コンロ側を妥協することにしたというワケだ。良い土鍋は車みたいな機械製品と同じで、ナラシをしっかりし、使い込めば良いモノに仕上がる。

 そんなこんなで、二人はさっさとホームセンターに入店。買い物カゴを引ったくり、お目当てのカセット式コンロとカセットボンベの六本セットをまず入手した。

「あと、必要な物といえば……」

 戒斗が左手にぶら下げる買い物カゴの中にコンロ一式を突っ込めば、傍らに立つエマが唇に人差し指をちょんと当てながら、うーん、と思い悩むみたいに唸る。

「……僕は特にないかな。戒斗の方は?」

「まだもう少し、色々とある」と、戒斗。「カー用品の方でちょっとな」

「カー用品?」

「ホラ、今日乗ってきたシェルビーあるだろ? アレが結構インチ径の独特なアレが多くてさ……。とりあえず版で工具をちょっと買い足さにゃならん」

「あー……」

 戒斗が言うと、エマは納得してくれたのか、微かな苦笑いと共に頷いてくれる。何せインチ/フィート換算大国のアメリカ製の車だから、当然そういう弊害もある。戒斗も米国暮らしが長かったはずなのだが、そんな細かいコトはすっかり忘れていたというわけだ。お陰でメンテナンスするにも工具に困っているのが現状だった。

「それに、ホースも新調したいしな」

「ホースって、洗車用の?」

「そうそう」並んで歩きながら、戒斗が頷く。「流石に古くなってきたし、新しいのが欲しいってワケよ」

「なるほどね」

 そんなこんなでだだっ広いホームセンターの中を、戒斗とエマは二人並んで歩いて行き。途中で立ち止まって眼に付いた品を眺めてみたり、歩きながら他愛の無い話を交わしたり。そうしている内に戒斗はとりあえず必要なラチェット・レンチやらの各種工具やらをカー用品コーナーで、そして洗車用のホースを園芸コーナーで確保した。

「何だかんだ、結構買っちゃったね」

「色々と眼に付くからな、よくあることさ」

 そしてレジで会計を済まし、重い荷物を担ぎながら駐車場のシェルビーの方へ戻りつつ、二人はまた並んで歩きながらそんな会話を交わしていた。

「疲れたろ、この後ちょっと休憩してくか?」

 見えてきたシェルビーに近寄りながら戒斗が言うと、しかしエマは「ううん」と首を横に振る。

「僕は大丈夫だよっ」

「いやいや、無理して後から疲れがドッと出ることもある」

「むー、カイトはホントに過保護っていうか、なんて言うか……」

「嫌いか?」

「ううん、嫌いじゃないっ♪」

 気楽にそんな言葉を交わしつつ、戒斗たちはシェルビーのトランクや後部座席へ買った物々を放り込んでいく。申し訳程度にしか無い後部座席でも、荷物置き場としては優秀な役目を果たしてくれるというのが、四シーターの二ドアクーペの常というものだ。

「此処からなら、多少距離はあるけど「楽園」も遠くない。どうだ、久々に白井の阿呆とステラちゃんの顔、拝みに行くってのはさ?」

 そんな具合に口車に乗せていくと、エマも「うーん、そうだね」と何だかんだで乗り気になり。「じゃあ、行こっか♪」と思い切りその気になってくれる。何だかんだでエマも好きなのだ、あの店が。

「丁度、昼過ぎぐらいで時間帯も丁度良い。時間も外してるし、混んでないんじゃないか?」

「どうだろ……? あの店、結構人気あるからね」

「そうなのか?」

「いつ行っても、そこそこヒトは入ってるイメージかなー。まあでも、満席ってほどじゃないんだけれどね。丁度僕もお腹ぺこぺこだし、良いと思うよ」

「オーライ、んじゃあ行き先は「楽園」で決定だ」

「やった♪」

 なんだかんだで「楽園」行きが決定すれば、にこやかな笑みを浮かべて喜ぶエマを横に乗せ、戒斗はマスタング・シェルビーGT350のエンジンを再び始動させた。

 イグニッション・スタート。コイルが周りスパーク・プラグが弾ければ、獰猛な大排気量V8エンジンが雄叫びと共に眼を覚ます。低い重低音と共に脈動するエンジンは水温、油温、共にまだまだ暖かいままだ。今すぐにだってフルスロットルで飛び出せるぐらいだ。

 そしてカーステレオで流すのは、氷室京介の「VIRGIN BEAT」。シェルビーの鼓動と重なり合うようなハイ・ビートのメロディが心地良い。

「じゃあカイト、よろしくっ♪」

「そこまで遠くない、すぐに着くさ」

 サイドブレーキ・レヴァーを下ろし、クラッチを切りながらギアを一速へ。サイドシートに収まるエマの瞳の色にも似た、そんな蒼のボディに白いレーシング・ストライプを走らせた要撃機インターセプターは広い駐車場の中をタキシングすれば、滑走路めいた幹線道路へと飛び出していく。後輪のタイヤを軽く鳴らしながらで戒斗とエマを乗せたマスタング・シェルビーGT350が行く先は、慣れ親しんだあの店だ。名前の通り、楽園のような居心地のあの店へ向け、シェルビーは更に加速を始めた。

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