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Execute.73:SIX RULES/六つのルール、それが男の信ずる正義③

 そうして和葉の為に一からザッと説明をし、そしてハリーと別れた後に日々谷警備保障へ入るまでの経緯を話し終えると。するとハリーと和葉の二人は揃って神妙な面持ちのまま、ただ何と言ったら良いのか分からないといったような、そんな複雑な表情を浮かべたままで無言を貫いていた。

「……何というか、アンタも色々あったんだな」

「まあな」ハリーの言葉に、戒斗が大袈裟に肩を竦める。「色々ありすぎたよ、ホントに」

「そういえば、エマちゃんは元気にしてるのか?」

「そっちに関しては心配要らずだ」

「そうだったな、訊くだけ野暮だった」

 実はL.Aに居たとき、エマも一緒に連れて行ったのだ。そういうワケででハリーも、そしてクララも彼女とは面識がある。故にこうして、ハリーの口から彼女の名前が出てきたということだった。

「じゃあ、誰か居る前では基本的に黒沢さんって呼んだ方が良いのかしら」

「そうだな」和葉の言葉にハリーが相槌を打つ。「日々谷の人間にバレたらマズい、そうだなカイト?」

「ああ、バレるワケにはいかない。俺が戦部戒斗で、A-9200であることは社長含め全員に伏せてあることだ」

「知っているのは、例の出資者だけと」

「そういうことになるな」

 戒斗は頷き、飲みかけのコーヒーカップを手に取った。啜る黒く濁ったような珈琲は既に冷めてしまっていて、ほんのちょっぴり味気ない。ハリーの手元にある灰皿も吸い殻の量がかなり増えている辺り、話している内に気付かないまま結構な時間が経過していたようだった。いつの間にか、和葉でさえもハリーの隣でソファに腰を落としている。

「……了解だ。日々谷関係の相手をする時は黒沢鉄男の方で話を通そう。うっかり名前を出さないように気を付けなくちゃな」

「助かるよ、ハリー」

「構わない。アンタには色々と借りもある」

 ハリーはふぅ、と息をつくと、テーブルの上に置いてあった紙箱から新しいマールボロ・ライトの煙草を取り出して口に咥えた。箱が今ので空になったことを見るとその箱を握り潰し、デスク傍のくずかごに放り投げてからジッポーで火を付ける。

「そういえば、表にハリーのとよく似た赤い車が停まってたけれど、もしかして戒斗さんのかしら?」

 そうすると和葉が唐突にまるで別の話題を振ってくるから、戒斗は「呼び捨てで良いよ、別に」と薄い笑顔で和葉に言ってから「ああ」と頷き、それから次の言葉を口にした。

「俺のはS4だけどな、CVTの。……ってことは、ハリーも同じなのか?」

「そうなるな」頷くハリー。「VAB。EJ20エンジンで、面倒なマニュアルの方だ。和葉の護衛任務で月まで吹っ飛んだインプの代わりに、ズタボロになっちまった事務所と一緒に補償で冴子と公安に買わせた」

「奇遇だな。……そういえば、ハリー直伝の回転ナンバー。俺のにも積んでるんだが、割と便利だなアレ」

「そうだろ? 仕事用も兼ねるとなったら、ジェームズ・ボンドじゃないがやっぱりナンバープレートは回転した方が便利だ」

 戒斗のWRX-S4に積んであるナンバープレートの偽造品への回転入れ替え機構は、実はL.A時代にハリーから教わったモノをヒントに製作した装備なのだ。元は彼の師匠であるクララの発案らしいが、何にせよ戒斗はあの機構にかなり助けられている。未だに日々谷の連中へ顔が割れていないのも、ああしてナンバープレートを偽造品へと入れ替えた上で出社していることも上手く作用しているのだ。

「……まあ、とにかく依頼は承った」

「どれぐらいで出来そうだ?」と、封筒を持ってソファから立ち上がったハリーに戒斗が訊く。するとハリーは「一週間だ」と人差し指を立てながら言い、

「ルール第一条、時間厳守。そしてルール第二条、仕事は正確に、完璧に遂行せよ。

 ――――俺は滅多なことがなければこれを破ったりしない。信用してくれ、カイト」

 と、戒斗にとっては久方振りに聞く、そんな彼にとってお決まりの台詞をハリーはクールな横顔で口にした。

「相変わらずだな、そのルール第何条とかって口癖」

「今も変わらないですよ」と、苦笑いしながら和葉。「私の時も、毎回やれルールが第何条ってうるさかったですもん」

「本当に変わらないな、ハリーは……」

 昔から、何一つハリー・ムラサメは変わっちゃいない。強いて言うなら、前に比べて少し老けてきたぐらいか。こればかりは戒斗もヒトのことはまるで言えないが……。

「それと、浅倉関係で何か分かったことがあれば、アンタには優先的に伝えるようにする」

「ハリー、良いのか?」

「ルール第三条、依頼内容と逸脱する仕事はしない。そしてルール第五条、仕事対象に深入りはしない。これに抵触はしているが……相手は他でもないカイト、アンタだ。俺が二人の復讐を少しでも手伝えるのなら、多少のルール違反には目を瞑るさ」

「悪いな、ハリー」

「気にしないでくれ」

 デスクの後ろ、スーツジャケットが背もたれに掛けられた椅子にドカッと腰掛けると、ハリーは小さな溜息と共にソファの戒斗に言えば、続けてこんなことを口にした。

「ルール第六条。この五ヶ条を破らなければならなくなった時は、己が信ずる信条と正義に従い、確実に遂行せよ。

 ――――アンタには借りも恩義も山ほどある。俺に手伝えることがあったら何でも言ってくれ、出来うる限りの範囲でなら、幾らでも俺はカイトの力になる」

 ハリーの言ってくれたその言葉は、何処か頼もしく。それでいて、戒斗にとってはあまりに有り難い一言だった。


 今回の登場キャラのハリー・ムラサメ(五条晴彦)、そして園崎和葉。それにミリィ・レイスちゃんや鷹橋冴子、それに名前だけ何度も出てきているクララ・ムラサメは当方の過去作、怒りのデストロイ・ハード・アクション小説『SIX RULES』からの出典とゲスト出演でした。こちらも生憎となろうでは連載しておらずカクヨム、及びアルファポリスのみでの公開ですが、もし宜しければこちらも一読して頂ければ幸いです。

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