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Execute.07:ダイナミック・エントリー Phase-02

 ガラスを突き破って突入してきた侵入者という意味不明な現象に、四階フロアの中に居たチンピラ連中は我を忘れ泡を食ったように逃げ惑う。ガタンガタンと雑な調度品が蹴り倒され、それに躓いた何人もが床に転がる。

 しかし、鉄男の辞書に容赦の二文字は存在しなかった。ガラスを突き破り、そのまま左手を縄から離して宙を舞いながら鉄男はP226を構え、そこら中にうじゃうじゃいるチンピラたちを撃ちまくる。縁日の射的のように簡単だと、飛びながら鉄男は思っていた。

 一人、二人、三人。そこまで屠ったところで鉄男の足は床に付き、衝撃を打ち消す為にまたくるりと前転し膝立ちに起き上がる。それから更に狙い定めて三人、四人、五人。今度は頭に一発と胸に二発を撃ち込んで念入りに仕留めていく。

 やがてP226の弾が切れれば、左手で背中のスタームルガー・SP101を抜く。.357マグナムの強烈な反動(キック)を左腕で受け流しながらズドン、ズドンと更に四人を屠った。

 とはいえ、弾は有限。撃っていれば弾はいずれ無くなるというもので、左手のSP101で四人を撃ち抜いた頃には、既に手持ちの銃に弾は一発たりとて残っていなかった。

「うわあああああっ!!」

「ッ……!」

 すると、チンピラの一人が奥から取り出してきたAKライフル――中国製コピー品・五六式――を錯乱しながら鉄男に向かって構えてくる。

 ――――AK-47だって!?

 まさか、チンピラ風情があんな代物まで抱えているとは思っていなかったものだから、鉄男は一瞬だけ己の眼を疑った。そうして戸惑いながらも、しかし鉄男の思考とは別に身体だけは勝手に動いてしまう。

 両手のP226とSP101の銃把から手を放し、空いた手が走るのはくるぶしの辺り。ブーツに仕込んだガーバー・マークⅠの小振りなダガー・ナイフを抜き放つと、目の前の男がAKライフルをブッ放すより早く、鉄男の左手が閃いた。

 投擲されたガーバー・マークⅠは緩やかな放物線を描きながら、AKライフルのハンドガードを支えていた男の左手の甲に深々と突き刺さる。凄まじい激痛と、そして自分の掌から突き出てきた諸刃のブレードを目の当たりにしてしまった心理的ショックから男は錯乱状態に陥り、失禁しながらAKライフルを取り落とす。

「ヘッ……!」

 その隙に鉄男は一気に距離を詰め、左手から刃を生やしたその男の胸を蹴り飛ばして吹っ飛ばす。肋骨を何本か頂きながらそうして男を派手に引き倒すと、馬乗りになった鉄男は右手に持ったもう一本のガーバー・マークⅠを男の首元へと叩き付けた。

 何度も何度も、念入りに首を刺しまくり、シャッと横薙ぎに刃を払って頸動脈も切断。最後に立ち上がって靴底で何度も顔面を叩き潰せば、そして間も無く男は死の痙攣を始めた。

「っと、一丁上がり」

 手持ちの物と、死骸と化した男に刺さった二本のマークⅠを回収しブーツに戻せば、鉄男は部屋の制圧が完了したことを知り満足げに頷いた。

 床に落としたP226とSP101を回収し、P226は弾倉交換、SP101にも新しい五発の.357マグナムを補弾してやり、両方ともホルスターに戻した。あの男が持っていた中国製のAKライフルも、折角なので拝借しておく。

 と、AKライフルのボルトハンドルを引きカートリッジを一発棄て、鉄男が三階の制圧に赴こうとした時だった。四階フロアの扉を蹴破って現れた貴士が「ういーっす」なんて間の抜けた挨拶を小さなジェスチャーと共に投げ掛けてきたのは。

「なんだ、下はもう終わりかよ」と、AKライフルを投げ捨てながら鉄男。

「まあねー。禅ちゃんが思いのほか張り切っちゃって、一人で全部片付けちまう勢いさ」

 すると、確かに下からズドンズドンと重苦しい銃声が響いてくる。間違いなくショットシェルの装薬が弾ける音だろうと鉄男は察し、小さな溜息をついた。

「……何だかんだ言って、結局自分が一番エンジョイしてんじゃねえか、あの野郎」

「俺に言うなって」

「それよりお前、何オートなんか使ってんの?」

「不可抗力だよ、不可抗力」と、言い訳するみたく貴士。「禅ちゃんにベネリ渡しちゃったから、使えるのがこれしか無かったの」

「ヘッ、さっきまでジャム祭りのオート野郎とか抜かしてた癖に。テメーにはプライドってモンがねえのか、あぁ?」

「は? うるせえ不可抗力だっつってんだろ鉄男のうんこ野郎。テメーホントいい加減しばくぞ」

「お? いいぞ? 折角だし此処で決着着けるか??」

「おうおうやってやろうじゃねえかこの野郎、覚悟しとけよコラ。テメーなんざオートマチックで十分だ、良いハンデだろぉ?」

 と、またまた飽きもせずに鉄男と貴士がこんなノリになり始めると、すると貴士の真後ろから「貴方たちッ!!!」と禅の怒鳴り声が飛んでくる。

「サボるんじゃあないッ! 下は制圧しました! 鉄男さん、こっちも制圧で宜しいですね!?!?」

「お、おう……」

「ハイ、なら撤収! さっさと引き上げますよ! 警察来ちゃうから!!」

 こんな物凄い剣幕の禅に半ば引きずられるようにして、鉄男と貴士の阿呆二人組はそのままバンに放り込まれ。そしてそのまま現場を立ち去って言った。

(……しかし)

 帰りも運転手としてシボレー・エクスプレスを転がしつつ、落ち着きを取り戻した鉄男は一人思案を巡らせる。

(奴ら、チンピラにしちゃあ武器が豪華すぎる。誰か、裏で手を引いてる奴が居るのか……?)

 その答えが出ることは、少なくとも今の段階では有り得ないことだった。答えの見えない問答を己の中で延々と堂々巡りさせながら、鉄男は日々谷警備保障の本社に向け、シボレーを走らせていく。

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