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やがて降る雨、それは復讐という名の雨  作者: 黒陽 光
冬の日、束の間の休息
54/279

Execute.54:Very Mary X'mas./凍えそうな白、舞い散るは白雪①

「カイト、そっちもう少し上だね」

「ん? ……こうか?」

「そうそう、そんな感じ。バッチリだねっ」

 そういうワケで、なんやかんやと十二月二四日のクリスマス・イヴ当日となり。戒斗はエマに指示されるがまま脚立に昇り、家のリビングの壁へリボン状の飾りを取り付けている最中だった。

「んで、コイツは? なんかよく分からんボンボンみたいなの」

「それはこっちの……あーそう、そのリボンの継ぎ目ぐらいで良いよ」

「ほいほい」

 隣でやはり脚立に昇って壁に飾り付けをしていくエマの指示に逐一従いながら、戒斗は手早く壁に両面テープで飾りを取り付けていく。さっきから延々壁の上の方を這わせる紙テープのリボンや、戒斗が今手に持つボンボンめいたキラキラする光沢紙で作られたふわっとした何か。それに小振りなベルみたいなものなんかも幾つか付けてやる。

「よし、壁の方は一通り終わったぞ」

「うん、こっちも終わった。次はツリーの方だね」

 飾り付けを終えた戒斗が脚立から降りれば、既に先んじて脚立を降りていたエマの傍にささやかな鉢植えがあった。小さな針葉樹のクリスマス・ツリーだ。そんなに派手なものでもなく、リビングにちょこんと置かれている程度の、戒斗の腰の位置より少し高いぐらいの小さなものだ。

「あるだけで気分出るね、こういうのって」

「だな」ニコニコと楽しげに微笑むエマの傍に近寄りながら、戒斗もそれに同意する。

「それじゃあ、これも飾り付けちゃおっか」

 ツリーの傍らに置いてあった袋を引っ張ってきたエマに小さく微笑みを向けられ、戒斗はふうっと小さく肩を竦め。そしてそのまま、二人はそのささやかなクリスマス・ツリーの飾り付けを始めた。

 電飾こそ植えないが、金銀のモールやちょっとした吊るしモノを括り付けてやる。そして最後に定番の星飾りをツリーのてっぺんに取り付けると、エマは「出来たぁ!」と無邪気に喜ぶ。

「これで完成か?」と、しゃがみ込んだ彼女の頭を軽く撫でながら、戒斗が言う。それにエマは「うんっ」と振り向きながら無邪気な顔で頷いて、

「飾り付けはこれで完璧っ。後は料理の方を仕込むだけだね」

「そっちに関しては抜かりない」と、戒斗。「ある程度は仕込んでおいた。後は始まってから簡単に仕上げれば良い」

 言いながら、戒斗はふぅ、と小さく息をつく。一部屋だけの飾り付けだか、何故だかやたらと疲れてしまった。

 奇妙なモノだ。そう思い、戒斗は思わず肩を竦めてしまった。顔に浮かぶのは、ほんの僅かな自嘲じみた色の引き攣った笑み。自分は歴戦のC.T.I.Uエージェント、伝説のコードネーム・A-9200の継承者として想像を絶するような修羅場を幾つも潜り抜けてきた。それなのに、今じゃこんなクリスマスの飾り付け程度で息をついてしまっている。

 そのことが、あまりに奇妙で。しかしそれでいておかしな程に安堵感というか、幸福感にも似た感情を感じてしまうのだ。延々と戦いの中に身を置いていた人生の中で、まさかこんな安息の刻が来るとは思ってもいなかった。

「…………」

 脳裏に、浅倉と暁斗のことが一瞬スッと過ぎった。死んでいった戦友たちの姿も、それに連なって走馬灯のように駆け巡る。

 しかし戒斗は、それを今だけは忘れていようと思った。それにエマの見せてくれる無邪気な笑顔を見ていれば、そんなことは自然と思考の外へと吹き飛ばされていってしまう。彼女の笑顔を見ていると、呆れるほどに自分は幸福の中に身を落としてしまうのだ。

 ――――何も、解決などしてはいないのに。

 でも、今はそれでいいと思う。こんな時ぐらいは、血生臭いことは忘れたってバチは当たらないだろう。何てたって今日はめでたく楽しい一日なのだ。こんな時ぐらい復讐のことは忘れて、ただ独りの単なる戦部戒斗として彼女の、エマの傍に寄り添って居てやりたい。それが戒斗の抱く、純粋すぎるほどにピュアな思いだった。

「ん?」

 と、そんな折に鳴り響くのは来客を告げるインターホンの音色だ。誰かと思っていると「僕が出るよ」とエマは戒斗が動くより早くインターホンの受話器を取りにいってしまう。このセーフ・ハウスのインターホンはカメラ付きだが、生憎と戒斗の位置からモニタは見えなかった。

「カイト、西園寺さんって人が来てるけれど」

 そして少しの会話が受話器越しに為されると、一旦耳から受話器を離したエマがきょとんとしながら問うてくる。それに戒斗は「んあ?」ととぼけた顔で振り向いて、

「ソイツなら、俺の呼んだ招待客だ。時間にゃちょっと早いが、通してやろうぜ」

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