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やがて降る雨、それは復讐という名の雨  作者: 黒陽 光
冬の日、束の間の休息
53/279

Execute.53:Very Mary X'mas./剣乱舞踏③

 喫茶「楽園」は店構えに違わず中も落ち着いた雰囲気だが、しかし何処か店主二人の――主に白井の方の趣味が反映されているような趣もある。

 その一つが、店の中に所狭しと飾られているロボットを模った大量のフィギュアだ。『幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ』とかいうアニメに出てくる八メートル大の人型機動兵器・T.A.M.Sのフル可動コレクション・フィギュアのようで、二人がこの作品の大ファンなのだそうだ。故に、ここまで大量に飾られているというわけだ。

 ラインナップは多岐に渡り、主人公の乗る白色をしたJS-17F≪閃電≫・タイプFを初め、JST-1A≪新月≫、JSM-14D≪極光≫、JS-9E≪叢雲≫。更にはこの間発売されたばかりの新主人公機・XJS-22ζ≪斑鳩(いかるが)≫のフィギュアまでもが飾られている。

 そして更に奇妙なことに、JST-1A≪新月≫のフィギュアが同じ物を幾つも飾っているのだ。これはどうやら白井に強烈な思い入れがあるらしく、曰く「他人とは思えない」そうで。81式140mm狙撃滑腔砲を持った奴が店のあちこちに置かれているといった具合だ。隣に真っ赤な米軍機・FSA-15E≪ストライク・ヴァンガード≫や、そしてミサイル・ランチャーを肩に背負った≪叢雲≫も添えて。

 そんな店の中は、戒斗たち以外にも何名かの客の姿があった。中でも目に付くのが、隅の喫煙ボックス席に座る二人の男女だ。片方は短い蒼髪をした女で、煙草をパカパカ吹かしながら何故か白衣なんか着ていて。そしてもう片方は左目尻に刀傷なんか走らせた、ヤクザかって思うぐらいに厳つい顔の、しかし似合わないぐらいの妙に人懐っこい笑顔をニコニコと浮かべ続ける好々爺(こうこうや)っぽい男だ。女の方は三十代、男の方は五十代といったぐらいだろうか。

 二人とも、戒斗とエマと同じ此処の常連客だ。直接話すことこそあまりないが、二人ともよく顔を合わせる。特に蒼髪の白衣の女の方はどことなくリサと同じ匂いを感じてしまうせいか、彼女を見かける度に戒斗は妙に懐かしく感じてしまう。

「お疲れ様ですっ!」

 そんな落ち着いた店の中で、二人軽食のサンドウィッチを食べ終えゆっくりお茶と洒落込んでいると。すると店の戸がカランコロンと開き、甲高いアニメ声っぽい少女の元気な声が聞こえてきた。

「おーう、みゃーちゃんおつかれー」

 白井のお気楽な挨拶を片耳に聴きながら戒斗が振り返ると、やはりそこに立っていたのは明らかな少女だった。

 背丈は一四〇センチぐらいだろうか。深緑色をしたセミ・ロングの髪で、赤いハーフ・リムの眼鏡の下に覗かせる顔立ちはやはり少女のようにあどけない。一八〇センチ越えのステラと並び立てば正に大人と子供といったぐらいの身長差がある彼女は、名を壬生谷美弥(みぶたに みや)といった。喫茶「楽園」で店員のアルバイトをしている。戒斗たちとも顔見知りだ。

「あっ、戒斗さんにエマちゃん!」

 そんな美弥は二人がカウンター席に居ることに気が付くと、また戸の前でぺこりとお辞儀をしてくる。それに「おう、久し振り」と戒斗が、そしてエマが「久し振りだね、美弥」とそれぞれにこやかに挨拶を返す。

「お二人とも、今日はデートですかぁ?」

「ふふっ、そんなところだね」子供っぽく首を傾げる美弥に、エマがニコニコと微笑みながら返した。「今度、クリスマスにパーティやるから。その買い出しって感じなんだ」

「へー、クリスマス・パーティねえ」

 すると、何故か興味を示したのはカウンターの向こうに立つステラだ。

「エマたっての希望でな、二人も来るか?」

 そんな彼女に戒斗が言ってやると、しかしステラは「行きたいのは山々なんだけどね」と小さく肩を竦め、

「生憎と、店でもクリスマス企画やるのよ」

 何処か残念そうに、そうやって戒斗の提案をやんわりと断ってしまう。

「そっかー、残念だね」

「良いわよ、気にしないでエマ。……でも、パーティはきっと夜よね?」

 戒斗が「ああ」と頷いてやると、するとステラは「早めに切り上げられたら、アタシたちも行けるかもしれない」と曖昧な色の言葉を続けた。

「無理する必要ないって、ステラ。店の方が忙しいんだろ?」

「それは、そうだけど……」

「なら、無理しなくて良いって。こっちはこっちで呼ぶ人間もまだまだ居るし、逆に俺たちが此処の企画に顔出せるかもだぜ」

 そう言ってやると、するとステラは「……そっか」と諦めたみたいに肩を竦める。

「それより美弥、さっさと奥で着替えて来なさいな。仕事はたっぷりあるから、ビシバシこき使っちゃうわよ?」

 その後で、戸の前に突っ立ったままの美弥をそう急かし。美弥が「あっ、はい!」と言ってトタトタと急ぎ足で店の奥に去って行くのを見送り、ステラはまた小さく息をついた。

「忙しそうだね」と、そんなステラにエマが言う。すると横から白井が「まあねー」とお気楽な顔で首を突っ込み、

「でも、忙しいのは良いことだって思うぜ。これでもまだ店は十分すぎるぐらいに回ってるから、ステラちゃんには感謝してる」

「それはアタシの台詞よ」と、ステラ。「アンタがこっちに連れて来てくれて、それでこの店開けて。アタシは十分すぎるぐらいに満足してるわ」

「……そっか」

 そんなステラの言葉に頷く白井の顔に、何処か微かな影色が見受けられることを。戒斗もエマも、そして当然ステラも見逃さなかった。

 ――――白井とステラが出逢ったのは、本当に運命のような出逢いだったと前に聞いている。

 当時、白井と出逢う前のステラはアメリカ空軍のパイロットだった。最強の戦闘爆撃機・F-15Eストライク・イーグルのパイロットだった彼女は、横田基地に配属されて暫くしてから彼とバッタリ出くわしたという。場末のバーで、酔い潰れていた彼と。

 その時の白井は、幼馴染みの女の子を喪ったばかりだったという。「まあちゃん」という、故郷の京都に居た彼女が交通事故に遭い亡くなった直後だった。しかも、白井の目の前で……。

 そんな傷心の白井を、ステラは何故だか放っておけず。そうしてだらだらと付き合っている内にいつの間にかステラの方が一目惚れしていた、というのがコトの顛末だ。

 その後のステラの行動は早かったらしい。ステラと話している内に吹っ切れた白井が喫茶店を開くといった時、彼女は速攻でアメリカ空軍を退役してしまったのだ。その末にステラの方から(半ば強引な)プロポーズ。それで結局、帰化してこの喫茶「楽園」を開くことになったという。

「要は、傷心のトコにつけ込んだだけなんだけれどね」

 前にステラが、冗談交じりにそう言っていたのを戒斗は覚えていた。しかし今の白井の笑顔を見ていると、それで結果オーライだったんじゃないかと思う。戒斗は何故か、この二人に異様なほどに肩入れしてしまうところがあった。

 その理由は分からない。だが、この喫茶店が異様に落ち着く空間だというのもあるのだろう。まるで長年連れ添った仲間たちのたまり場のような、そんな雰囲気を漂わせるこの店が好きだから。此処に居るときだけは、自分の過去も何もかも忘れられるから。だからこそ、この二人に肩入れしてしまうのではないかと……少なくとも戒斗は、そう思っていた。

「……幸せそうで、良かった」

 と、戒斗がそんなことを思っていると。すると隣に座るエマが、二人並び立って(主にステラの方から)小突き合う二人を眺めながら、小さくボソリとそう呟いていた。遠い遠い郷愁に浸るような、そんな遠い眼をして……。

「……エマ?」

 そんな彼女の様子を怪訝に思い、戒斗が声を掛けると。するとエマは「ううん」と首を横に振った。

「なんでもない。それよりカイト、そろそろ買い出しの続き行かなくちゃ」

「あ、そうだな」

「おっ、お二人さんもうお帰りかしら?」

 二人の会話を聞きつけて、白井がステラを軽く押しのけながら訊いてくる。戒斗はそれに「ああ」と頷いた。

「あらら、今日はお早いお帰りなのねえ。また来てくれよなー。戦部とエマちゃんが来てくれると、何かホッとするんだわ」

「同感ね」と、ステラが同意し頷く。「アンタたちなら、いつだって歓迎よ」

「……そうか」

 そんな二人の笑顔を見て、戒斗はエマと一瞬顔を向け合う。「えへへ……」と照れくさそうに笑うエマと笑顔を交わし合い、そしてもう一度カウンターの向こうに立つ二人の方を見る。

「また来るよ、近いうちに」

 それは戒斗の本心から滲み出てきた、一片たりとて嘘偽りのない言葉だった。此処になら、いつだって訪れたい。何故か知らないが、カウンターの向こう側に立つ白井とステラ、そして奥から掛けてきた美弥の姿を見ていると。戒斗もエマも、互いに示し合うこともなく自然とそんなことを感じていた。

 前回と今回と登場した白井やステラちゃん、美弥ちゃん(と、エマちゃんも)は連載中の拙作、SFロボット・ライトノベル『幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ』からのゲスト出演でした。生憎となろうには投稿しておらずカクヨムとアルファポリスのみですが、もしよろしければこちらもご覧頂ければ嬉しいです。

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