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Execute.44:Perfume of the Death./白帝《バイ・ダイ》

 ボロボロの戒斗と、そして彼と睨み合うのはリー・シャオロンだ。戒斗の足元に沈んだアインを信じられないといった風な眼で見つつも、しかしその皺の寄った顔は何処か歓喜の色も同居させていた。

「まさか、アインがやられるとは」

 そう言いながら、シャオロンは羽織っていたスーツジャケットをバッと脱ぎ捨てて。そして何処からか持ってきた日本刀の柄を握ると、シャッと鞘から抜き放った。放り捨てられた鞘が床の上を転がり、カランコロンと音を立てる。

「只者ではないな、貴様」

「今更か?」と、戒斗がわざとらしく肩を竦め、皮肉っぽくシャオロンに言い返す。

「しかし、これでも私は嘗て"白帝(バイ・ダイ)"と恐れられた武闘派なんだ。このまま逃げ帰るような真似は出来ん」

「そもそも、逃げて帰しはしないけどな」

 くっくっと笑いながら、戒斗もまた先程アインが落とした日本刀を拾い上げ、そして構えた。しかし彼の柄の握り方は少し違っていて、普通と違い右手が下になった構え方だった。それは古武術の左構えに近い構え方で、元来左利きの戒斗に合わせた構え方だった。

「一応訊いておくが貴様、私の元に来る気は無いか? 貴様ほどの腕があれば、香港どころか世界の覇権を握ることだって不可能じゃない」

「こういう場面、そんな誘いにはノーって答えるのがお約束だぜ」

 霞構えの格好を取った戒斗が皮肉っぽくそう言うと、シャオロンもまたニヤニヤと笑いながら「違いない」と言い返してくる。

「御託は結構だ、始めようぜリー・シャオロン。いや……"白帝(バイ・ダイ)"さんよ」

「忘れていた名だ、その名で貴様に呼ばれるのは悪くない。貴様のような男と巡り逢えたのならば、私も若かりし頃に、"白帝(バイ・ダイ)"だったあの頃に戻れるというものだ」





 最初に踏み込んできたのは、シャオロンの方だった。その横に太い老体に見合わぬ俊敏な動きで突っ込んでくると、その太刀を戒斗目掛けて袈裟に振るう。

「ッ!」

 だが、それに反応できない戒斗じゃない。サッと自分の刃で払っていなせば、逆にシャオロンへ向け袈裟斬りを放つ。

「ほっ! 中々にやる!」

 だがシャオロンはやはり見かけ以上に軽快で、戒斗が振り下ろした途端に飛び退き彼の刃を回避してしまう。流石は"白帝(バイ・ダイ)"の異名は伊達じゃないらしい。日本刀同士の立ち合いにも慣れている。

「だが、私とでは場数が違いすぎる!!」

 更にシャオロンは何撃も放ち、戒斗はそれを右へ左へと飛び退いて避けていく。シャオロンの動きは全て腰から上で動くかなり大振りなもので、どちらかといえば中国伝統の青竜刀の戦い方に近いもののように戒斗の眼には映っていた。

(土地柄、早々マトモな刀の立ち合いってワケにもいかないか)

 しかし、それはそれで脅威だ。どんな振り方だろうと日本刀が武器であることに変わりは無く、まして普通の頭では予測できない動きともなれば、相対する戒斗にとっては逆に脅威となる。

 だが、それはシャオロンの方も同じはずだ。マトモな日本刀同士の斬り合いなんて見たことが無いだろう。香港という土地柄それは仕方の無いことで、決して彼を責めているワケじゃない。ただ、そういった機会に巡り逢わなかっただけだ。

 戒斗は違う。嘗て日本刀の使い手だった男とだって何度も死闘を繰り広げた経験がある。それに何より、彼女――――長月遥もまた、刀の使い手だった。

(……勝機は、十分にある)

 確信とともに戒斗はニッとほくそ笑み、そして大きく飛び退いて一旦シャオロンとの間合いを取る。そうすれば、早々に決着を付けるべく動き出した。

「来るか、ああ来るがいい!」

 迫り来る戒斗に、雄叫びとともにシャオロンが臨戦態勢を取る。

 ――――正面からの縦一文字、右に避けて。

「ッ!!」

 頭の中に響く声に従うがまま、戒斗はシャオロンの斬撃に対し右に避ける。

「避けるか、今のを!」

 ――――次は横に薙いでくる。飛び退いて回避してから、刺突で牽制して。

 その声が告げるまま、シャオロンは確かに大振りの横一文字を放ってきた。戒斗はそれをバックステップで回避し、刺突でシャオロンを牽制する。シャオロンもまた飛び退いて戒斗の刺突を回避。

 ――――傾向を見る限り、横主体で仕掛けてくる。一度受け流して仕舞えば、そこに勝機は見出せるはず。

 頭の中に響く声、嘗て共に戦った宗賀衆の忍。そして愛していた、今は亡き彼女……長月遥の声に従い、戒斗は再びシャオロンへと肉薄を図る。

 ひょっとすれば、この声はただの幻聴なのかもしれない。戒斗の深層心理が発しているだけの幻聴が、ただ遥の声で告げているだけかもしれない。

 しかし、それでも戒斗は構わなかった。嘗て共に戦った彼女が告げてくれる。嘗て彼女と共に戦い潜り抜けた修羅場での経験が、彼に教えてくれる。遥はまだ、自分と共に戦ってくれている……。それだけで、戒斗が命知らずとも思える肉薄を仕掛けるには十分すぎた。

「来るか!」

 シャオロンが迎撃の一撃を放つ。やはり彼女が教えてくれた通り、腰から上で振るう横薙ぎの一撃で。

「ああ、行かせて貰う!」

 一気に飛び込んだ戒斗は、それを逆さに向けた刀を盾にすることで防いだ。肩の横に、切っ先を地面に向ける形で構えた日本刀で以て、シャオロンの斬撃を受け止める。

 強烈な衝撃が、柄を握る戒斗の両手を襲った。しかし戒斗は怯まない。怯まないまま、雄叫びと共にシャオロンの腕を刀ごと上方に払い。そして払われたことで手を滑らせたシャオロンの手から刀が吹っ飛んでいくのを見て、勝利を確信した。

 ――――さあ、決めましょう戒斗。最後の一撃は、貴方の役目です。

「うおぉぉぉぉ――――ッッ!!!」

 遥の声を、彼女の遺した想いの残滓を研ぎ澄ます刃に込め。そして戒斗は雄叫びと共に、目の前のシャオロンへ向け上方から刀を振り下ろした。

 シャオロンの左肩口から侵入した刃は、そのまま脊椎までもを両断し反対側まで突き抜けて。ぐらりとシャオロンの身体が揺れたかと思えば、そのまま斜めの切り口に沿ってシャオロンの上半身がバタンと崩れ落ちた。

 切断面から、噴水のように返り血が降り注ぐ。雨のように降り注ぐ返り血を全身に浴びながら、しかしその返り血をスプリンクラーからの雨に洗い流されて。そうして戒斗は暫くの間を刀を振り下ろした格好のまま、余韻に浸るようにその場で静止していた。

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