Execute.38:Perfume of the Death./英雄本色②
コルダイト無煙火薬が弾ける数多の激発音がコンクリートの壁に反響し凄まじい多重奏を奏でる中、二挺拳銃の戒斗は踊るように次々と死の旋風を撒き散らしていた。
「遅すぎるぜ、何もかも!」
ステップを踏むように両足を踊らせ、くるくるとロングコートの長い裾を翻しながら回り。そうしながら両手の213式拳銃で別々の標的を次々と屠りながら、戒斗はその顔を凶暴な笑みに染めていた。これで白い鳩でも後ろで飛んでいてくれたら完璧なのにな、と呑気な思考まで巡らせつつ、しかし放つ全ての9mmパラベラム弾は次々と正確に標的を屠っていく。
しかも、戒斗の持つ213式拳銃は、厳密に言えば213B式拳銃だ。通常のトカレフTT-33系統と異なり十三発の9mmパラベラム弾が入るダブルカーラム式弾倉を採用しているから、二挺拳銃でやたらめったらに撃ちまくっても手数には余裕がある。
「な、何だよコイツ……桁違いだ!」
そうして十人ばかしを一気に屠った頃だっただろうか。遂に紅頭構成員の一人が戒斗のあまりの強さに怖じ気づき、踵を返し地下駐車場の外へと逃走を図った。
「おっと、逃げるなよ!」
だが、その背中を戒斗の放った数発の9mmパラベラム弾が襲う。心臓と肺を正確に撃ち抜かれたその男は、走っていた勢いのままバタッと前のめりに斃れた。
此処から、誰一人として逃がすワケにはいかないのだ。明確な敵対者として戒斗の顔を見られている以上、よほどのことが無ければ此処から生きて返すワケにはいかない。昔よりも強く、昔よりもタフに派手に暴れ回っているから忘れがちだが、今の戒斗は昔のC.T.I.Uエージェントだった頃よりもずっと弱い立場にある。下手に顔を割らせるワケにはいかないのだ。
「おっと」
そうしていた時だった。右手側の213式拳銃が先に弾を切らしてしまい、スライドを下げきったままホールド・オープンさせてしまう。
「今だ、数で押し切れ!」
戒斗が弾切れしたのを見ると、防戦一方だった敵は途端に勢いづき、一斉に飛び出すと戒斗に向けて熾烈な銃火を浴びせてきた。
「ヤバいヤバい……!」
戒斗は咄嗟に右手の拳銃を棄て、まだ弾のある左手の拳銃を右に持ち替えさせながら撃ちまくる。そうしながら、フリーになった左手はバッと捲ったロングコートの裏側へと伸びていた。
ロングコートの裏には、大量の手榴弾が引っ掛けられていた。殺傷用の破片手榴弾、非殺傷の閃光音響手榴弾、そして焼却用のAN-M14/TH3サーメート焼夷手榴弾までもがある。
その中で、戒斗は閃光音響手榴弾をチョイス。左手で引っ張り出したソレの安全ピンを拳銃を持つ右手の指で器用に抜くと、それを敵の方へ向けて思い切り放り投げた。
手榴弾が飛んできたと思った紅頭の構成員たちは、泡を食ったように逃げ惑う。しかしそれは強烈な閃光と爆音を撒き散らすだけの、非殺傷の物だった。
しかし戒斗は慌てて目の前の車のボンネットへ飛び込むようにして地を蹴ると、その向こう側にしゃがみ込んで隠れ両耳を覆った。
瞬間――――激しく反響する爆音が、耳を塞いでいた戒斗の鼓膜までもを激しく揺さぶった。
「っ……!」
頭を左右に激しく振って余波を振り払い、そうして戒斗はチラリと車の陰から顔を出し向こう側の様子を窺う。
すると、案の定と言うべきか酷い有様で。閃光音響手榴弾の強烈な閃光と爆音を喰らい三半規管を狂わされた連中が、そこかしこを千鳥足でうろうろしていたり、或いは膝を折って嘔吐していたりしていた。
狙い通りだ、と戒斗は小さくほくそ笑む。ほくそ笑みながら、ロングコートの裏側から幾つかの破片手榴弾を取り出した。
ピンと安全レヴァーを取り、次々と左手で敵の方へと投げ込んでいく。数度かの爆発が巻き起これば、飛んでいった手榴弾の周囲に居た紅頭の構成員は一人の例外もなく死に絶えていた。
爆発の影響で火災センサーが反応し、天井のスプリンクラーから雨のように大量の水が降り注ぎ始めた。戒斗はそれを浴びて身体を濡らしながら、ふぅ、と小さく息をつく。
前に立っていた敵を全滅させたことで、ほんの少しのインターバルが訪れる。戒斗は再び左手に持ち替えさせた213式拳銃の弾倉を交換し、そして右腰のNZ-75自動拳銃も右手で抜いておいた。手持ちの手榴弾はもうサーメート以外ほぼ無いに等しいが、しかし十分に有意義な使い方を出来たと言えるだろう。
「こっちだ!」
「畜生、やりやがったな……! 撃ちまくれ、囲んで殺っちまえ!」
としていれば、地下駐車場の奥から大量の足音とともに敵のお代わりがやって来た。車の陰からチラリと見たが、今度は拳銃だけのヤワな鉄砲玉連中じゃない。UZIやソヴィエト製のPPSh-41、イギリス製のスターリングSMGなんかのサブ・マシーンガンや、アメリカ製の古いM16-A1自動ライフルなんかを携えた連中だ。
「さっきの連中は、あくまで俺の実力を測るための捨て駒ってワケか」
戒斗はそう結論づけた。あの程度の鉄砲玉で仕留められる相手ならばそれで良い。しかしそうでなければ相手は手練れ。全力で対処する必要がある……。リー・シャオロンはそう、見知らぬ刺客である戒斗の脅威判定を行ったのだろう。
「流石ってことか。伊達に"白帝"なんて呼ばれてた武闘派ってワケじゃないらしい」
シャオロンは明らかに戦い慣れている。戦力の逐次投入は愚策だというのが常識だが、しかしこの状況ならば戒斗を無意味に疲弊させることが出来る。確かに合理的といえば合理的なのかもしれない。確かに戒斗も、残弾の方は先の戦いで心許なくなり始めていた。
「なら、ご期待に添えないとな」
だが、戒斗の闘志はこの程度で潰えたりしない。これが子供の喧嘩に見えるレベルの酷すぎる修羅場は何度だって潜り抜けてきた。この程度の低レベルな相手、生き残る自信は十分にある。勝算もある。
そうして不敵な笑みを湛えながら、戒斗は何か使えそうなものがないかと周囲を見渡した。すると、
「……コイツは使えそうだな」
恐らくは掃除用の、大小のバケツが乗った台車がすぐ近くに放置されているのを見つければ。戒斗は零れる笑みを抑えることが出来なかった。




