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Execute.36:Perfume of the Death./チャイナ・ブルー③

『マズいね、シャオロンが逃亡を始めた』

「だろうな!」

 インカムから聞こえるミリィ・レイスの言葉に戒斗は怒鳴るみたく言い返しつつ、構えたHP9-1ショットガンをブッ放していた。

 ズドン、と肩付けした銃床から響く強烈な12ゲージ散弾の反動に身体を揺さぶられれば、銃口が捉えていた先で構成員の男が一人、パチンコ玉ほどの大きさの鹿撃ち散弾を幾つも喰らって激しく吹っ飛んでいく。

 戒斗はソイツに一瞥もしないまま、狙いを別の奴へ切り替えつつHP9-1のフォアエンドを左手で激しく前後させる。ガシャン、と派手でメカニカルな音とともに赤色をした空のショットシェルが蹴り出され、カランとプラスチックの転がる音がする。引鉄を絞るたびにそれら一連の動作を繰り返し、一人、また一人と屠っていく。

『予備の車を隠していたみたいだね。数台の護衛に護られながら黒のベンツが走り出した』

「用心深い男だとことだ……!」

 周囲の敵を一掃したことを確認し、戒斗は隠れていたドラム缶の陰でしゃがみ込みながら、弾切れのHP9-1に新しいショットシェルを補弾していく。左手でロングコートの内側、スーツジャケットのポケットへ雑にバラで放り込んでおいた赤いダブルオー・バックショット弾をガバッと掴み取り、一発は薬室へ直接装填。引いておいたフォアエンドをガシャッと伸ばしてから、HP9-1の下側にあるシェルキャリアを押し込みながらチューブラー弾倉に手早く一発ずつ挿入した。

「これで手持ちのシェルも最後か」

 既に今までの戦いで、五六式は使い果たして道端に棄ててしまった。最初は背中に背負っていたこのHP9-1ショットガンも、今装填した分で予備の弾は最後だ。

『その場に残った敵の数は残り少ない。取引相手は逃げ出して、後は紅頭(ホン・タウ)の構成員だけだ』

「肝心のシャオロンの方、追跡は出来てるな?」と、HP9-1をドラム缶に立て掛けながら戒斗が問う。

『抜かりないよ。現地の知り合いに飛ばして貰ったドローンを使って追跡を始める』

「ドローン?」

 後ろ腰のホルスターからM79グレネード・ランチャーを引っ張り出し、太い銃身を根元から折りながら戒斗が訊き返した。

『四枚羽のクアッドローター・ドローンだ。そっちに知り合いが居るからね。連絡を取って、ついさっき支援用に飛ばして貰ったんだ』

 そして右手でその銃身から40mmグレネード弾の空薬莢をカポッと抜き取って棄て、新しい一発を放り込みながらで戒斗が「へえ、便利なもんだな」と言い返す。

『とにかく、適当なタイミングでそこから離脱してくれ。シャオロンの一団と距離は離れることになるけれど……カイト、君のウデなら余裕で追いつけるはずだ」

「買い被りすぎだ、ミリィ」

 ニッと不敵に笑いながら、戒斗は銃身を元に戻したM79を後ろ腰のホルスターに戻した。コイツに関しても結構酷使してきた為、残りのグレネード弾も今装填した物を含め後二発だ。

『最短ルートでの逃走経路を今から指示する。それでも結構な歓迎を受けてしまいそうだけれど、君なら切り抜けられるはずだ』

「精々、そのご期待に添えるとしよう」

 立て掛けていたHP9-1ショットガンの銃把を再び握り締め、ドラム缶を飛び越えた戒斗はインカム越しに聞こえるミリィ・レイスの指示に従い走り出した。





『そこを真っ直ぐ、敵が出てくる!』

「ッ!」

 ミリィ・レイスの声が聞こえると同時に、戒斗は目の前に飛び出してきた紅頭(ホン・タウ)構成員の男をショットガンで吹き飛ばした。

『後ろからお代わりが二人、近いよ!』

 振り向き、更に二発を発砲。拳銃をこちらに構えながら飛び出してきた二人の黒スーツを着た構成員が、胸と腹の肉を爆発したみたいに抉られて吹っ飛ばされていく。

『走って、前はクリアだ!』

「分かってる!」

 HP9-1の手数はもう残り少ない。そのことをキッチリと頭の片隅に入れつつ、戒斗は再び走り出す。

 そうした矢先のことだった。コンテナの陰に隠れていた奴が雄叫びを上げながら、戒斗に向けて飛びかかってくる。寸前で気配を察知した戒斗は振り向きざまに腰溜めで発砲。飛びかかってきた男は空中で向きを変えるようにして吹っ飛び即死した。

「ミリィ、しっかりしてくれ!」

『その敵は見えなかったんだ、すまないカイト』

「頼むぜ、ホントに……!」

 弾切れのHP9-1を足元へ投げ捨てながら小さく毒づいて、戒斗は左手で後ろ腰のホルスターからM79グレネード・ランチャーを引っ張り出した。右手でもラスト一発の40mmグレネード弾を握っておくと、今度こそその場の離脱を図り走り出す。

『! マズい、後ろから車が突っ込んでくる!』

 と、暫く走っていた後、ミリィの焦燥の声が聞こえた直後のことだった。唸り声を上げるエンジンの轟音に気付き、走っていた戒斗が立ち止まって振り返ったのは。

 明らかな殺意を持って、その黒塗りのメルツェデス・ベンツは戒斗の方へと突っ込んできていた。見える限り中に居るのは運転手一人で、他に箱乗りして銃を向けてくる奴は居ない。

「おいおい……」

 戒斗は小さく顔を引き攣らせつつ、しかし冷静に左手のM79を構えた。

 狙いを定め、即座に引鉄を引き発砲。ポンッと間抜けな発砲音とともに40mmグレネード弾頭が緩やかな弧を描いて飛んでいく。

 しかし、ベンツの運転手は咄嗟にステアリングを切った。戒斗の放った一発は寸前で避けられてしまい、ベンツの遙か後方に着弾し爆発する。

「やるじゃないのさ」

 運転手の咄嗟の判断力を敵ながら小さく褒めつつ、戒斗はM79の銃身を折る。すぐさま空薬莢を放り捨て、右手に残った最後の一発を装填。左腕を大きく振り、スナップを利かせ遠心力を使い、折れていたM79の銃身をガシャッと派手に戻しながら左腕一本で構えた。

「だが――――」

 そして、一瞬の内に狙いを定める。この至近距離、リーフサイトを起こすまでもない。

「狙う相手を間違えたな。それがお前の犯したデカいミス(ビッグ・ミステイク)だ」

 不敵な笑みと共に、ポンッと気の抜けた発砲音が響いた。そして――――戒斗を轢き殺そうと迫っていた黒塗りのメルツェデス・ベンツが、派手な爆発と共に天高く吹っ飛んでいく。

「お月さんまでブッ飛びな、馬鹿野郎」

 フッと小さく笑い、戒斗は用済みになったソウドオフのM79グレネード・ランチャーを放り捨てる。そして左脇のショルダーホルスターと、ズボンの右前側でベルトの間へ雑に挟むようにしていた213式拳銃を引っ張り出し、二挺拳銃の格好で構える。

『行こう、カイト。出口はもう近い』

「分かってる」

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