Execute.34:Perfume of the Death./チャイナ・ブルー①
コンテナの上に仁王立ちし、戒斗は構えた五六式自動ライフルをあまりに唐突にブッ放した。
激しい銃声と瞬くマズル・フラッシュ、そしてコンテナの上をカラカラと跳ねる幾つもの空薬莢。セミオート(単発)でタンタンタンと撃ち込まれる7.62mm×39ライフル弾は素早く、しかし正確に次々と標的を屠っていく。
頭蓋が弾け、腕を吹き飛ばし、胸や腹に風穴を開け。そうして紅頭とその取引相手、双方問わず多数の人間が戒斗の撃ち放つ弾頭に貫かれ、次々と斃れていく。
しかし、肝心のリー・シャオロンは部下に護られてしまって仕留めることが出来なかった。防弾仕様の黒塗りメルツェデス・ベンツの後ろに身を隠してしまっている。ご丁寧に一番頑丈なエンジンの後ろへだ。これでは、五六式の7.62mm弾では貫けやしない。
「チッ」
戒斗は舌を打ちながら、ひとまずシャオロンたちが身を隠すメルツェデス・ベンツのタイヤを五六式で撃ち抜いてやった。前後ともに片側だけだが側面を撃ち抜きパンクさせてやる。あのまま走ればバーストは必須で、もうあのベンツは走れまい。
そうしていると、漸く紅頭の構成員たちが戒斗の方へと撃ち返してきた。戒斗はここいらが頃合いだと見極め、踵を返しその場から離れる。
トントントンと幾つものコンテナを飛び越え、徐々に飛び降り。そして最後にアスファルトの地面へと着地する。久方振りの大地を靴底で踏みしめると、「こっちだ!」という広東語での叫びとともに駆け込んでくる幾つもの足音が戒斗の耳に届いた。
そして下っ端の鉄砲玉どもが姿を見せた途端、待ち構えていた戒斗の構える五六式が再び火を噴く。今度もセミオートによる正確で素早い射撃だ。次々と標的を切り替えていけば、五六式の弾が切れる頃には三人の下っ端は既に地面に崩れ落ち、息絶えている。
「まずは一丁……!」
ニヤリと小さく笑いながら空の弾倉を足元へ棄て、懐より引っ張り出した新しい三十連発のバナナ・マガジンを引っ掛けるようにして五六式に叩き込む。右側のボルトハンドルをガシャッと派手に引いて薬室へ再装填。不意の事態に備え、セレクタはフルオート(連発)に合わせておく。
『カイト、お代わりが行くよ。前から三匹、後ろから四匹だ。前方の接敵から四秒後に後ろが来る』
「了解だ!」
左耳のインカムから聞こえるミリィ・レイスの報告に力強く頷きながら、戒斗は五六式を携え前方へと一気に駆け出す。
と、そこは丁度コンテナ同士の隙間から広い通りに出る、出口のような場所だ。戒斗がそこの寸前まで走り抜けた時、曲がり角から喪服めいた黒いスーツを着た三人の男たちが姿を現す。ミリィ・レイスの戦術サポートはいつだって完璧だ。
「らぁっ!」
戒斗はズサーッとその場でスライディングを噛ますように足先からその男たちの足元へと突っ込んでいく。完全な不意打ちだ。戒斗が見上げる男たちは皆が皆、手に持つ拳銃を構える暇もなく戒斗に肉薄される。
そうして戒斗は地面を仰向けに滑り込みながら、五六式ライフルを腰溜めに構えた。適当に狙いを付けて引鉄を引く。下からフルオートで撃ち上げる凶弾の豪雨に腹から胸を蜂の巣にされ、三人の敵の内二人が致命傷を負って倒れた。
「畜生!」
と、もう一人が広東語での恨み節とともに、やっとこさ拳銃を構える。しかし戒斗の動作の方が圧倒的に早い。
「残念、遅すぎるぜ!」
スライディングのように滑りながら、左手でバチンと銃口部分に備え付けれたスパイク状の銃剣を起こす。そうしながら身体をバネのようにして起き上がり、そして飛び起きざまに五六式の銃剣を男の腹へ突き刺した。
ぐちゅり、と生きた肉を貫く嫌な音が聞こえれば、男の鳩尾近くに五六式の銃口付近から生える槍のような銃剣が突き刺さっていた。ゴトンと重い音を立てて、男の右手から滑り落ちた拳銃が地面に転がる。
戒斗はそのままズドドン、と三発を発射。銃剣で腹を抉られたまま、零距離の銃口から撃ち放たれた高速ライフル弾に横隔膜やら重要臓器やらを吹き飛ばされたこの男もまた、間もなく息絶えるだろう。確実に生命の灯火を刈り取った感触が、銃把を握る右手に伝わってくる。
「あそこだ!」
と、そうしていると背後から別の一団の気配が伝わってくる。ミリィ・レイスの言った通り、仕留めた正面の三人と接敵してからきっかり四秒後だ。
「チッ」
戒斗は舌打ちとともに起き上がり、銃剣を突き刺したままで五六式ごと身体をぐるりと後ろに向ける。男の身体を盾にする算段だ。
案の定、新たに現れた四人は近づきながら拳銃をブッ放してくる。しかし撃ち放たれる拳銃弾は戒斗が身を潜める男の死骸、その背中に突き刺さるだけで戒斗の方までは貫通してこない。
「手前らのお仲間の命が惜しくないか、結構なことだ!」
戒斗はニイッと不敵に笑いながらひとりごちると、右手は五六式の銃把を握り盾代わりの死骸を支えたまま、左手はロングコートとスーツジャケットの裾を翻し背中の方へと這わせる。ズボンの後ろ腰に取り付けた特製のホルスターから彼の左手が抜き放ち構えたソレは、拳銃というにはあまりに巨大な代物だった。
コルト・M79グレネード・ランチャー。戒斗の構えるソレは、銃床と銃身が極端に短く切り落とされている(=ソウドオフ)為、大きさはちょっとしたサブ・マシーンガン程度だ。
しかし大口を開ける銃口から撃ち放たれるのは、40mm口径の強力なグレネード弾。戒斗が盾にした男の死骸越しに構えたM79を見るなり、さっきまで元気に拳銃をブッ放していた四人の男たちは蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ惑う。
「根性張れよ、男の子だろ……?」
だがあの四人が逃げ切るよりも、戒斗が引鉄を絞る方が速かった。
不敵な笑みを湛えながら狙いを定め、引鉄を絞る。するとポンッという、見た目とは裏腹に間の抜けた発砲音が響いた。銃口から撃ち放たれた40mmグレネード弾が比較的低速で、そして緩やかに弧を描きながら飛翔する。
アスファルトの地面に激突した弾頭の信管が作動し、グレネード弾頭が爆ぜた。強烈な爆発の衝撃波と熱風、そして砕けた弾頭の破片が四人の男たちに襲い掛かる。強烈な爆風の余波は戒斗の方にまで及び、戒斗は思わず盾代わりの死骸に身を隠しながら顔をしかめた。
爆風が収まった後で死骸越しに着弾位置の辺りをチラリと見れば、戒斗の視界に映ったものは、スプラッター映画も真っ青といったような凄惨な光景だった。
黒く焼け焦げ、クレーターのようにアスファルトの地面が浅く抉れ飛んだ着弾地点。そこを中心として撒き散らされた死の洗礼は逃げ惑っていた四人の男たちを容赦無く巻き込んでいて、千切れ飛んだ人体の破片があちらこちらに飛び散っている。中にはコンテナの側面に釘付けにされた奴なんかもあるぐらいで、零れ墜ちた臓物の破片ですらもが辺り一面に点々としていた。
さっきまで生きていた人間の一部が、漂う焼け焦げた死臭と一緒になってそこら中に転がっている。常人ならば吐き気を催して当然みたいな光景だったが、しかし戒斗はそれを見ても眉一つ動かさなかった。こんなエグい光景を見てもまるで揺らがないほど、彼は多くのモノを見、そして経験しすぎていた。
『……派手にやったね。とりあえずは近くに敵は居ないよ。でも早めに離れた方が良い』
インカムから聞こえるミリィ・レイスの指示に「了解だ」と戒斗は頷き、そしてボロボロの死体に刺さる五六式の銃剣を引き抜いた。




