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Execute.33:Perfume of the Death./英雄故事②

 トレーラー・ヘッドの陰から飛び出した戒斗は、物陰から物陰へと音もなく飛ぶように移動しながら、例のメルツェデス・ベンツの元へと急速に接近を図る。

 サッと一人目の奴に背中から飛びかかって、両手で一気に首をぐるりと回す。ガキンと首の骨が逝った嫌な音が響き、戒斗が手を放すと。すると即死した男はそのまま力なく前のめりに倒れ伏す。

「な!?」

 もう一人の見張りが気付いた。しかし奴がUZIサブ・マシーンガンを構えるよりもずっと早く、左手でガーバー・マークⅡのダガー・ナイフを抜いた戒斗が見張りの男の懐に滑り込む。

 順手で握り締めた諸刃のブレードで、まずは男の右腕の裏側を斬り裂いた。手空きの右手で男の手首を極め固定しながら、バッサバッサと太く脆い血管をスパスパ切っていく。

 そこから二の腕、脇へと斬撃位置を滑らせ。それから脇腹を三度ほど突き、そして首も横から何度も素早く突き刺す。どう見ても助からない致命傷だ。やがてその男もまた失血で意識を失い、バタリと倒れる。

「ちくしょぉっ!!」

 すると、最後の一人が漸く戒斗にUZIの銃口を合わせた。ガシャンとボルトを引いて、引鉄に指が触れる。

「ふっ――――」

 しかし、その指が動くことはなかった。戒斗の投げたマークⅡの刃が、吸い込まれるようにして眉間へ突き刺さったのだ。ブレードの切っ先が脳まで到達すれば、その男はやはり即死する。

 バタリ、と倒れた途端にUZIも激しく地面に転がったから、戒斗は一瞬顔面蒼白になった。UZIが暴発しやすいオープン・ボルト式だからだ。しかし幸いにしてUZIが暴発することはなかった為、戒斗は小さく息をつく。

「ミリィ、制圧完了した」

 倒れた男の眉間から抜き取ったマークⅡを鞘に収めつつ、インカムに向かって戒斗が報告する。するとミリィは『了解だ』と反応を返してくれて、

『なら、急いでM2爆薬を仕掛けよう。リー・シャオロンはもう現れている。仕掛けるなら、出来るだけ早い方が良さそうだ』

「了解だ」

 戒斗は頷いて、邪魔な死体を蹴って退けると、停まったメルツェデス・ベンツの下に起動したM2"SLAM"携行爆薬を滑り込ませる。丁度燃料タンクの真下になるような位置に調整して、だ。このSクラス系のメルツェデス・ベンツはこのテの連中がよく使うから、戒斗もその構造を熟知している。

 手持ちの爆薬を滑り込ませ、信管を任意起爆モードにセット。全てが上手い具合に設置できたことを確認すれば、戒斗はその場から離れた。

 トレーラー・ヘッドに隠したボストンバッグから、全ての装備を回収せねばならない。此処から先は派手な戦いになるのだ。あらゆる装備を身に着けておく必要がある。自動拳銃、自動ライフル、ショットガン、手榴弾、グレネード・ランチャー……その全てを。

「折角の香港旅行だ、百万ドルの夜景に派手な花火を添えてやる」

 不敵な笑みと共に、戒斗は駆け抜ける。そしてボストンバッグをトレーラー・ヘッドの下から手繰り寄せると、閉じていたファスナーをバッと開いた。





『……カイト、見えるかい?』

「バッチリだ。此処からでもリー・シャオロンの姿がハッキリと見える」

 そして、それから少し後。積み上げられたコンテナの上で寝そべった戒斗がインカムから聞こえるミリィ・レイスの言葉に頷きながら、しかしその双眸は真っ直ぐに下方を見下ろしていた。

 そこには、何十人もの男たちが詰めかけていた。集団は二つのグループに分かれ、互いが物々しい雰囲気で睨みを利かせ合っている。その中にあって唯一握手を交わし合い、にこやかに交渉を始めた数人の中へ、戒斗は確かにリー・シャオロンの姿をその双眸に捉えていた。

 小太りの体格と、白髪の交じり始めた髪。皺だらけになった奴の顔付きは、間違いなく写真で見たあのリー・シャオロンそのものだ。北米の麻薬シンジケートのボスにして、近年香港で名を挙げてきた新興ヤクザ"紅頭(ホン・タウ)"の幹部。過去には武闘派として"白帝(バイ・ダイ)"の異名を取っていた、バイで小児性愛者の変態野郎だ。

 これから、奴をブチのめす。数々の孤児たちを食い物にしてきた変態野郎の肥え太った豚を、この手で叩きのめすのだ。

 そう思えば、戒斗は自然と笑みを零してしまう。こんなに清々しい気持ちで臨む鉄火場はいつ振りだろうか。相手が相手だけに、良心は欠片も痛まない。正義は信じないし正義の味方も嘘っぱちだとは思っているが、しかし今だけは正義の味方を気取りたい気分だった。それ程までに、リー・シャオロンというのはとんでもない屑野郎だった。

『リー・シャオロンの位置は常にこっちでナビゲートしておく、絶対に逃がしはしないよ。僕も何だか、昨日からあの男には心底腹が立ってるんだ』

「同感だ、ミリィ。奴は長く生きすぎた」

『この辺りで人生の幕引きとさせてあげようじゃないか、派手な見送りの花火付きでね』

「百万ドルの夜景と一緒に死んでいくんだ、きっと寂しくない」

 ニヤニヤとインカム越しにミリィ・レイスと冗談を交わし合いながら、戒斗は懐より起爆装置を取り出す。仕掛けたM2"SLAM"携行爆薬を使うときが来たのだ。

『さ、始めようかカイト』

「ロックン・ロール。久々の派手な鉄火場だ、愉しむとしよう――――!」

 セイフティを外し、戒斗はカンカンカンと三回連続で握り締めた起爆装置のレヴァーを叩く。

 すると、近くもなく遠くもない場所で派手な爆発が巻き起こった。起爆したM2"SLAM"携行爆薬が数台のメルツェデス・ベンツを派手に吹き飛ばしたのだ。

 眼下ではリー・シャオロンを初めとした紅頭(ホン・タウ)の連中、そして取引相手の男たちが慌てふためき恐慌状態に陥るのが見える。それを眺めながら、戒斗はニヤリと笑い。用済みになった起爆装置を投げ捨てると、傍らに置いてあった五六式自動ライフルを手に取った。

「派手に行こうぜ、なあ?」

 手には五六式、背中にはHP9-1ショットガンを背負い。身体のあちこちに拳銃や手榴弾、そしてグレネード・ランチャーを仕込む人間武器庫めいた様相の戒斗は立ち上がると、吹き込む潮風にロングコートの長い裾を靡かせながら不敵な笑みを浮かべてみせた。


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