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Execute.28:Perfume of the Death./ハード・ボイルド①

 翌朝。戒斗が眼を覚ますと。するとベッドサイドに置きっ放しになっていた自前のスマートフォンにミリィ・レイスからの不在着信があるのに気が付いた。

「ミリィ、相変わらず仕事の速さは異常だな……」

 傍らで未だ寝息を立て続けている、一糸纏わぬ格好を白いシーツで覆い隠すエマの頬と髪をそっと指先で撫でて。そしてベッドから既に上体を起こしていた戒斗はスマートフォンを起動。ミリィ・レイスの連絡先へと掛け直す。

『……僕だよ、カイト』

「悪いなミリィ、出られなくて」

『良いよ、大方お楽しみか、或いは寝てたんだろうからね』

 ミリィは一瞬だけ悪戯っぽく言うと、その後で『例の件、色々と分かったことがある』と途端に仕事方向の話を切り出した。

「聞かせてくれ」

『勿論。……といっても、大したことじゃないよ』

 そして、ミリィは語り始めた。リー・シャオロンという男がどういう人間で、どういう経緯で香港にまで手を広げてきたのかを。

 ――――リー・シャオロン。北米では中国系アメリカ人ということになっているが、本物の戸籍は生粋の香港人だ。

 歳は五十に差し掛かったぐらいで、本土返還前に香港ヤクザの元で若かりし頃から頭角を現していた武闘派だった。中でも日本刀を使っての日本ヤクザ顔負けな特攻を得意としており、付いた異名は"白帝(バイ・ダイ)"。返り血に濡れながらバッタバッタと次々に人間を斬り刻む様を恐れての異名だったそうだ。

 その後、香港の本土返還に伴い、リー・シャオロンもまた米国へと渡る。そこで苦心の末に築き上げた組織が、例の麻薬シンジケートというワケだ。

『リー・シャオロンが香港に戻ってきた理由は、まず間違いなく勢力拡大の為と思われるね』

 と、ミリィ・レイスは見解を述べる。その通りだと戒斗も確信していた。何せ、香港はアジア圏の海運の重要なポイントだ。此処で勢力を再び広げれば、アジア圏への販路も拓けるというものだろう。例えそれが、麻薬や密輸銃器、人身売買のルートであっても変わらない。

『で、問題がシャオロンの趣味だね。ハッキリ言って変態だよ、正直ドン引きした』

 リー・シャオロンはバイで、しかも極度の小児性愛者というワケだ。世界中の孤児院と非合法のルートを構築し、孤児をかき集めては趣味で戦闘要員で育て上げるか、或いは男女問わずに娼婦の真似事をさせるとやりたい放題。この辺りは冴子の調べでも最初から分かっていたことだ。何せ、この孤児の連れ去りこそが、元C.T.I.Uのトップ・エージェントたるA-9200、伝説の男たる戦部戒斗へと依頼が舞い込んできた原因なのだから。

『……そして、そのリー・シャオロンだけれど。今日の夜に香港島の港で大口の取引があるそうだ』

「そこに、奴も現れると?」

『ほぼ間違いないね』ミリィが不敵な笑みで頷いた。

『恐らく、最大のチャンスは今日だ。シャオロンと取引先、双方ともに相応の護衛は付いているだろうけれど、君なら何とでもなるだろう?』

「随分と俺を高く買ってくれてるようだな、泣けてくるぜ」

『僕が話しているのは伝説のC.T.I.Uトップ・エージェント、コードネーム・A-9200だからね。あのクリムゾン・クロウを単独で壊滅させた男を、高く買わないワケにはいかないさ。

 ……とにかく、仕掛けるなら今日だ。必要ならば僕の方からも出来うる限りでサポートをする』

「頼む。今日中に全部ケリを付けてやる」

 最後にミリィ・レイスの『了解だ』という了承の声を聞いて、戒斗は通話を終え。ディスプレイを落としたスマートフォンをベッドの脇へ雑に放り投げた。白いシーツの上でスマートフォンがぴょんっと小さく跳ねる。

 と、戒斗が小さな息をつきつつ振り向くと。すると、寝息を立てていた筈のエマの瞼がいつの間にか開かれていて、そのアイオライトみたいに蒼い瞳がじっと戒斗の横顔を見上げていた。

「……今日、なんだね」

 ミリィ・レイスと電話で話していた戒斗の口振りから大体を察したらしいエマがそう言うと、戒斗も「……ああ」と低く頷く。

「出来るなら、僕も連れて行って欲しい」

「しかし……」

「手前までで構わない、車の中に置いていってくれれば、僕はそれで構わない」

「でも、エマを危険な目に遭わせるワケには」

「それでも、だよ」

 傍らに突いていた戒斗の左手の上にそっと自分の掌を這わせ、エマが揺るぎない視線で戒斗に訴えかけてくる。

「僕は、君の全てを見届ける。何てたって、その為に僕は此処まで付いて来たんだ。だから、最後まで僕は見届けるよ」

 枕に頭を預けたまま、戒斗の方を見上げる彼女の蒼い双眸に結局は押し負けてしまい。戒斗は「……分かったよ」と彼女の願いを受け入れるしかなかった。

(この眼にはホントに弱いんだよな、何でだか)

 ふぅ、と少しだけ自嘲するみたいに息をつき。しかし満更でも無さそうな顔で横目を這わせると、見上げるエマの蒼い瞳から注がれる視線と戒斗の視線とが重なり合う。柔らかな笑顔を浮かべた、彼女の優しげな視線と。

(今日で終わらせる、此処でのことは全部)

 そんな彼女の視線に、戒斗は否が応でも奮い立たされる。

 決戦は、今夜だ。今夜の成否で、香港で過ごす残りの日々がどう転ぶかが決まるのだ。

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